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Ⅲ総理の椅子~怪文書"隠し子"騒動

総裁選は間近に迫る。


ふたりに絞られた有力候補。


陣営を強化し票確保に血飛沫をあげようと躍起であった。


弾丸(札束)投下


役職の空手形


なんでも構わない。


票さえ稼げたら。


選挙違反すらも(やぶさ)かではない。臨戦体制である。


総裁の票取り纏めは公設秘書の役割である。


自民党派閥を隈無く走りまわる。大票田のまとめを逐一代議士に報告する。


秘書は大御所と呼ばれる重鎮に頭をさげ自陣に投票を依頼する。


「先生っお願いいたします。我が陣営を応援をしていただけませんか」


過半数を越える安全地帯までもう一息であった。


床に頭を擦りつけ票をもらいたい秘書。


大御所の代議士はにこりともせず無造作に手を出す。

手のひらを上に下に


ヒラヒラ


1とか2とか


"袖の下"を要求するサインが見えている。


「過半数?解散選挙の段階では七割は固いと報告を受けていたではないか」


タヌキの顔つきがみるみる憤怒に現れる。


秘書から


直前の票の動きを報告される。


あれだけ我が陣営に結束があり勝てると自負していたはずではないか。


「はあっ~先生。それがでございますね」


(小声となり)代議士の耳許に擦り寄るのである。


「実は…ハアッ…でございます」


"怪文書"が出回ってからでございます。


「我が自陣から鞍替えする代議士が後を絶たないのでございます。まったく迷惑な話でございます」


隠し子騒ぎは国会議事堂を一人歩きし誰しも知る噂であった。


根も葉もない悪噂である。

総裁選が一大事になってはたまらない。


「先生の政治家の清廉潔白さを信じたら寝返ることもないでしょう」


人の噂や風評はバカにならない。


軽く七割の支援を得た事実は雨散霧消ではないか。


公設秘書は怪文書は一過性の悪であり相手にしないが得策であると強気の姿勢をみせる。


ところが


"本心"は違っている。


長年つき従うタヌキ代議士のことゆえであった。


まったくの無実無根たるでたらめとは言えないのが悲しい。


「どこぞの女に非嫡出子(隠し子)を産ませても不思議はない。女に手が早いは政界でトップクラスだからなあ」


秘書は怪文書を手に溜め息をついてしまう。


「問題は」


実際に代議士の隠し子がいた場合の対処である。


総裁選を勝ち抜き総理大臣になるレールが敷かれている今。


総理の地位となったあかつきにややこしい女や隠し子がポンッと週刊誌にゴシップされてはたまらない。


「わけのわからぬ怪文書もよし悪しだけども」


真偽のほど


我が目で確かめなくてはおちおち寝られない。


「赤坂料亭かっ。あの女将なら上玉だからな」


むべならぬところ


秘書は政治家の裏の世界に向けて重い足取りである。

料亭と秘書は長年の付き合いになる。


女将は昵懇で先代とも親しいのである。


料亭の玄関先で仲居らに挨拶され帳場に入る。秘書はいくらでも金を使う上等客でもあった。


「女将さん。お元気そうだね」


女将を疑いの眼で眺めてしまう。


改めてみるには"情婦"という裏の顔を探らねばならぬ。


気さくな秘書は気が重いのである。


「おやっ珍しい時間にいらっしゃいますね」


総裁選の時期が近い。


怪文書に女将の名前がある。


代議士の秘書が昼の閉店時間にやってくる理由は見てとれた。

「秘書様は私に…」


"なんぞか"のご用件がございましたか


ツンツン


余計な話しを耳に入れたくはないのである。


新聞記者にさんざん隠し子とタヌキとの情婦関係を聞かれウンザリであった。


(女将は強く否定をしている)


冷たく


ツンツン


つっけんどん


ツンツン


露骨な態度


商売人女将にしては珍しい。


「そうですね」


忙しい秘書として用件を済ませたいのはヤマヤマである。


「秘書さまのご用件は…」

昼の料亭女将はたいへんに忙しいでございます。


くだらぬ下世話(げせわ)など真面目に付き合う気は毛頭ございません


「お聞きしたいのは…隠し子でございますか」


女将の私が産んだとか言われる子供のことでございますか


ツンツン


取り合わないわっ


不愉快!


ポンッと横を向き斜に構えてしまう。


くだらぬ!


「そんなお話しでございましたら」


怪文書とやらを配ったよからぬ(やから)に尋ねてはいかがでございますか


「根も葉もない噂の主。まったく不愉快な犯人はわかっておりますの」


ツンツン


ツンツン


秘書は冷や汗である。


プライド高い赤坂高級料亭の女将である。


人生半ば過ぎし老齢の代議士の囲いに落とされては立場がないのである。


「さあっご用件はないのでございましたら」


お引き取りください


「はっはあ~」


カッカッする剣幕に蹴落とされそうな秘書である。 

「お引き取り願います。さあっ私は仕入れ帳簿に目を通さねばなりませんの」


仲居に"あとはお願いねっ"と目配せするとサアッと席を立つ。


「あっああ…」


手を伸ばして呼び止めたくなるも仲居が仲裁に入る。

「あらっヤダッ!秘書さんいけないなあ。女将さん怒らせたわアッハハ」


ちくしょう


笑い事じゃあないぞ


「怪文書がいけないんだよ。あることないこと書いてあるから」


秘書は愚痴ってしまうと仲居に慰められる。


「イヒヒヒッ」


あのね秘書さん


「内緒のお話しましょうか。私と男前の秘書さんとの"ないしょ話"がしたいなあ」


内緒の?


(秘書の私に)話し?


秘書の着物袖を引っ張り控えに連れていく。


「きゃあ~秘書さん!いらっしゃったの」


控えは若い仲居や板場と従業員が車座になってたむろしている。


「ひゃあ~見渡すかぎり」

仲居は年季奉公する年頃の娘ばかりである。


ワイワイ


キャアキャア


板場が古株の仲居の背中をコンッと突く。


イヤ~ン


「私が話すの?」


コツン


「ヤダッ板さんが話してよ。言い出しっぺは板場さんよ」


ざわざわ


キャアキャア


エッ!


隠し子はいる!


秘書はトンでもない事実を知らされてしまう


嘘でしょ!


「本当でございますか。怪文書の主でもあるまいし」

仲居仲間は声を揃え合唱をした。


「嘘なんか言わないんだから」


"帝大の書生さん"


"タヌキにそっくり"


「隠し子っていうのは書生さんのことよ」


あとは若い娘さん


ペチャクチャ


書生さんの横顔はよく似ているわ


「だって仲間らはみんなふたりを知っているのよ。親子さんだわ」


間違いないわ


「ねぇ書生さんっていつ料亭にやってくるのかしら」

女将さんに聞けばわかるわ

「秘書さんわかりますか。書生さんって帝大なのよ」

背が高くてハンサムさん


お利口さんなのよ


「隠し子さんっていうのは定かでないけど」


書生さんは(いわ)く付きの青年さんよ


「(代議士の)先生に書生さんは似てるって言いましたね」 


似ているから隠し子というのでございますか。


噂の域を脱していないなあ

「あらっ秘書さん。私達を信じなさいよ」


疑いますのね


「困ったなあ。信じなさいってば。私達が親切に教えてあげたのに」


仲居は似ていると主張し隠し子説をとくとくとぶっつける。


「ねぇねぇ。ちょっとちょっと」


書生さんに母親を聞いたら

どう?


「本当の母親がわかれば」

真実はポロッと出てくるわ

「簡単なことねアッハハ」

控えは仲居の屈託のない爆笑が起こった。


時新たにして小川のせせらぎに紺絣の着物姿が現れた。


「ごめんなさい。法律事務所から参りました」


"噂をすれば影"


書生は所用で料亭玄関口に現れる。


「あらっ~ハンサムさんが現れたわ」


控えから仲居が飛び出していった。


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