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Ⅰ総理の椅子~あまりにも衝撃的な

仲居に記者は呼ばれた。


女将さんの用件を窺います。


「書生さんもいらっしゃいますか」


女将に招かれては嫌な顔ひとつせず。


記者は明るくふたりの間に入ってきた。


「女将さん突然に申し訳ないですね」


私は政治部の記者でございます。


座ると記者はいくらでもペラペラやりだした。


「自民党総裁選はどうでしょうか。女将さんは代議士さんとは数多くお知り合いでございますし」


いきなり"話の中核"に至る。


「我が社の情報でございますが」


与野党の国会とも揶揄される"赤坂料亭"


「頻繁に利用されていますね」


女将は書生と顔を見合わせた。


"代議士さんの何を探りたいのかしらっ?"


「ええっおかげさまで」


国会議事堂に近い赤坂でございます。


私どもの料亭は先代より贔屓にしていただきます


地の利?


赤坂や銀座


神楽坂はいくらでも高級料亭はある


女将の"特殊事情"があるからではないか


「自民党の総裁選始まりましたね」


女将さんも新しい総裁には興味津々でございますね


「総裁選の成り行き次第で自民党のパーティーや集会はこちらの料亭を贔屓でございます」


あらっ


「そんなことは」


黙って聞く書生。


"取り立てスキャンダル"を探られということもなし


不穏なゴシップ記者という雰囲気は微塵もない。


記者は紳士的でありあくまでも気さくないいアンチャンである。


差し障りない話題を振っては女将の機嫌をみる。


今日の女将はどんな様子かと探りをする程度である。

「そういえば帝大さん」


うん?


クルリッ


「自民党の総裁選は誰がなると思われるかい?」


学生の書生から見てどうでしょうか


「法務の専門家さんは政治家に興味津々でございますね」


書生を話題に入れてくる。

「僕のような私大専門からみたら帝大は高尚なる学府でございますからね」


貴重な意見ですね。


「まあっ!」


こちらの記者さんにはあきれます。


もう切り上げてくださいなっ


「ここは料亭でございます。お料理や料亭のお話しならとにかくも」


この場に来て


政治談義をひけらかすのは不愉快でございますわ


「あっ申し訳ない」


我が料亭は国会議事堂ではございません


女将は顔色をかえた。


「私にお聞きしたいこととはなんでございます。用件は早めにおっしゃってくださいな」


料亭の女将業とは女ならではの細やかな気配りが信条です。


「このところ我が料亭は予約で満席ございます」


女将の目で板場と料理献立を確かめて決めておきたく存じます。


「うん?」


雲行きが怪しくなったなっ

邪魔者扱いにされそうだ


ならば…


"一計を講じてやれ"


(悪知恵を働かせようか)


「時に女将さんに。エヘヘ言いにくいんだけどなあ」

ニタリと含み笑いを見せた。


「(タヌキ親爺は)赤坂だけでなく神楽坂にもちょくちょく出没だっと小耳に挟んだんだ」


同業者の料亭が


神楽坂で1番か2番かの高級料亭名が飛び出した。


「神楽坂の料亭。女将さんはわかるでございますね?」


赤坂・銀座にある高級料亭に国会議事堂はどう利用するのか。


長年赤坂の女将をやる身は当然に知っているね。


「あのお歳というのにだね」


記者は役者のごとく勿体振りをつける。


たいへん重要な場面である。


女将にわかるよう"小指"をちょこんっと出した。


「(女は)神楽坂らしいんだ」


女将の豹変を観察したい!

小指をみせて


赤坂の女将はサアッ~と富士額が動く。


「神楽坂って…」


あっ…


女将は口が開きっぱなしである。


"情婦(おんな)"に心当たりがある。


明らかに"女が女を敵として見た"動揺がある。


「どうかされましたか」


女将さんは忙しいのでしょ?


今宵の晩餐のため板場と献立の準備に取り掛からなければならないのでは?


「神楽坂で"盛んだ"そうですよ」


自民党の若手議員を引き連れて夜な夜なの"国会議事堂"だそうですよ


赤坂だけでなく


神楽坂にも"情婦(いろ)"はいるのか


女将は中年ながらも純情さが残っていた。


悔しさが滲み出てブルブル震えている。


「なんでしたらっ神楽坂を調べてみましょうか」


"女将さん以外の代議士の情婦"を見つけてきましょうか


「僕ほど新鮮な男はありませんけどね」


あとは口の上手い記者のひとり舞台。適当な見聞を言葉巧みに散らばせた。


女将の脳裡は台風状態である。


赤坂以外に情婦がいたら


神楽坂に情婦を囲い甘い汁を吸われていたら


赤坂の女将ひとりが甘い汁を吸う"取り分"が減ってしまうではないか。


景気のよい旅館買収の話しもタヌキというパトロンが金庫があるからこそである。


「記者さん」


神楽坂(No.1)は知っております。


狭い花柳(かりゅう)たる料亭の世界である。


器量ある美貌をこの世界にいて知らないでは勝負にならない。


"神楽坂の女将はあいつだ"

女将は決意したかのごとく切り出した。


「神楽坂の情婦(おんな)に心当たりがございます」


蛇の道は蛇


記者は興奮する女将の正体(しょうたい)(なだ)めたい。少しクスリが効きすぎた。


「まあまあっ女将さん」


お怒りはごもっとも。


赤坂だけがまんまっと独り占めするつもり


経営者としての胸算用ではある。


「落ち着きましょう。お気持ちはわかります」


女の情念というべきか


女将の情婦へのライバル心。


そこに金銭が絡んでしまうとは


たいへんでございますなあ。


イライラ


キィキィ~


ヒステリックな顔つきはまず男連中には見せたことはなかった。


「でっ記者さん」


あなたはどのくらい神楽坂を知っていなさるの?


旦那さんとはどのくらい深い付き合いなのかご存知?

"おおっ引っ掛かりましたぜ"


もう女将は思う壺だ


「水商売に足を入れた女なんざっ…(騙すのは)ちょろいもんだぜ」


口先だけの記者は佳境に入る。


「あのタヌキっ!赤坂が退けてこっそりひとりで神楽坂に入り浸りですから」


代議士らとは女将の赤坂料亭で密談し途中を抜け秘書を頼りに神楽坂の情婦にこそこそとしけこむ。


「えっ!本当でございますか」


こうしちゃいられない。


山のごとく金を落とす総裁選後は"赤坂"を使わないかもしれない。


"神楽坂"というトンでもない敵が出現するとは!


老齢の域に達し女遊びはやめたと女将に言い切った次期総裁。


いや明日の総理大臣は女将を赤坂・神楽坂と両天秤に掛けてしまいかねない。


女将の美貌や器量。


いや料亭の格式では神楽坂に勝てる道理がないのである。


「そりゃあ困ってしまいますなあ」


女将さんの立場なら


「僕でも心中穏やかならぬものでありましょうね」


ご察しいたします。


料亭の"殿様商売"に横槍などドンッと突かれましては不快感でございます。


「つきましては"僕の提案"を呑み込んでいただけませんか」


真偽はとにかく"噂の域"というやつでございます。


「噂っ?なんでございましょうか」


興奮覚めやらぬ女将であった。


書生とふたり顔を見合せわけのわからぬ顔をするばかりである。

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