隣の席の二宮さんはボソッと掲示板用語を使うがそれが分かるのは俺だけの様です
朝、授業も始まる前の人のまばらな教室。俺はがらがらと扉を開けて入る。すると、
「おはよう、広瀬くん」
俺に掛けられる声。
「おはよう。二宮さん」
挨拶を返した俺の目に真っ先に飛び込んでくるのは、声の主である椅子に座りこちらへ微笑む美少女。『二宮 小夜』だ。
二宮小夜、彼女はこの学校じゃ名を知らぬ者はいない美少女だ。
大きな瞳、整った顔立ちに艶のある髪。ただ居るだけで目を奪われるその存在感は教室の窓際の一番後ろでも変わらない。故に、俺にとっては少し困りもので、何故なら俺の席はその隣にあるのだから。いや、嬉しいかと聞かれればどちゃくそに嬉しいのだが。一挙手一投足が注目の的となる彼女と注目されるがあまり好きではない俺では相性が悪いと言わざるを得ない。
事実、先程の彼女のおはようという一言でもこの教室に居た大体が彼女の方をチラリと見てそのまま流れる視線で俺を見て、視線を戻していた。
どことない視線の感覚をむず痒く感じながら俺は自分の席に座る。すると、二宮さんが椅子をこちらに動かし話しかけてきた。
「ねぇ、広瀬くん。昨日の見た? アニメの」
「? あぁ、『龍の剣』? リアタイで見た見た」
「おーやっぱり。広瀬くんなら当然してると思ってたよー」
「いや、どういう意味」
何気ない会話を二宮さんと続けていくこの時間は俺にとっては至福の時間であり、同時に視線も集まるので少し緊張の時間でもある。
そんな俺だが近頃、彼女について少し気になることがある。
「好きなキャラ、リーシャなんだ。良いよね、強いしあとセクシーだし」
「そうそう、強くて……いや、まぁセクシーではあるけど」
「いやいや隠さなくていいよー男の子は皆好きなもんだからね」
うんうん、と頷く彼女。
「なんか不服!」
「冗談、冗談」
クスクスと笑う彼女。異議を唱えようとする瞬間、後ろから俺は友達に声を掛けられる。
「おーす、広瀬。二宮さんも!」
「え、あぁ田中。おはよ」
「おはよう、田中くん」
「お前よ、何楽しく話してたんだよー学校一の美少女とよー」
彼女との会話は一旦途切れ、友達と俺は喋り合う。その最中。
「……ぐうかわ」
「?」
二宮さんが何か言ったように思いそちらへ振り向く。彼女は振り向いた俺を見て首を傾げる。
……勘違い、だろうか。
「広瀬? どうしたんだよ」
「あー何でもない」
誤魔化すように会話を続ける。そして、ふと彼女の方を見ると彼女は既に自身の友達と話し始めていた。
時間が経ち、昼休み。俺は食堂に向かうべく席を立つ。俺は教室を先に離れ空になった彼女の席を見る。
「……」
「そういえばさ二宮さん、時々変わった言葉話し方しない?」
賑やかな教室の中、何てことのないクラスメイトの会話が俺の耳に入る。
「えーそうー?」
「あー、でもこの前課題の提出期限間に合うか話してたらなんか、びれぞー? びいそん? みたいなこと言ってたよーな?」
「そだっけ」
「あれじゃない? 外国の言葉とか。二宮さんハーフらしいし」
「へー! ハーフだったんだ、二宮さん! 確かにー納得、むっちゃ綺麗だし」
俺はそんな取り留めのない会話を聞きながら教室を後にする。普通なら聞き流す程度の会話だが、とある疑問を浮かべている俺は聞き逃すことは出来ない。
食堂に着き、定食を注文。受け取り、さてどこで食べようかと比較的空いている食堂を見渡していると。
「おーい、こっちこっち」
と、二宮さんが離れた席で手招きをしていた。俺は彼女の正面の席に座る。
「二宮さん一人?」
「そーいう広瀬くんも。友達もみんな、今日の体育会系の部活の会議?」
「そ、俺一人だけ帰宅部だから。そういう二宮さんも?」
「私もそー。まぁ、そのおかげで食堂空いてるし食べれていいんだけどねー。確か体育館とか運動場の所有時間とか話し合うんだっけ。私たちもする? 帰宅部会議」
「してもすぎる……んー帰り道で猫見つけたみたいな報告し合うとか?」
「いいね、採用」
「緩いな……」
「フフフッ」
こうして、一緒に居ても欠点など何一つ見当たらないまごうことなき容姿性格ともに完璧の美少女、なのだが。
「…………尊い」
俺は定食に手を付けようとして、その気を付けてないと聞き取れるかどうかという二宮さんから発せられた小さな声量の囁きで顔を勢い良く上げる。
「? どうしたの?」
そこにはただ不思議そうに俺を見つめる彼女の顔。
「あ、いや、何でもない」
「ほら、早く食べないと冷めちゃうよ?」
「あ、うん」
俺は食べながら考える。……今のは。聞き間違いでなければ尊い、だった。間違いなく尊いだった。朝もそうだ。彼女は「ぐうかわ」とそう言っていた気がする。間違いでなければだ。それはネット掲示板でよく使用されていたネットスラングの用語いわゆる定型文。あまり公の場で出す言葉では無いし、対人で喋るなんてもってのほかだ。まぁ尊いに関してはかなり一般化はしているが。
時々、こういうことがある。彼女がポツリと今の様にネットスラング、主にネット掲示板で使われていた定型文を言っているように聞こえる時が。「今北」や「微レ存」といったそんな言葉をぽつりと。そして、それは他の人たちにはまるで聞こえていないか、別の何かを言っているように思われているらしい。まぁそれはそうだろう。話し言葉で聞いても、近年のSNSなどの発達から掲示板にはかつての隆盛は無く、SNSがネットにおいての主要ツールである若年層にとっては今やネット掲示板文化なんてものに触れる若者はそうそういないし分からないのが大半だ。
……今一度、改めて考えよう。そんなものをこの学校の絶対のアイドル的存在の彼女が口にするだろうか。いや、無い。そうだ。ましてやネット掲示板なんて概念さえ知らなそうな彼女が喋ることなんてそうあり得ないのだ。うん、無い。うん、絶対に無いな。気のせいだ。今までの奴はそう、なんか俺の聞き間違いだろう。ぐうかわて、俺を二宮さんが可愛いと思うとか、無いない。
そうだ、アレは俺の黒歴史、中学生の中二病真っ盛りの頃にそういう何故かああいったネット界隈をカッコイイと思い、のめり込んだあの日々があるが故にそういった近しい言葉に俺は反応してしまうのだろう。
俺は心の中で結論付け、心を切り替えて定食を味合うことにする。
「でもさー広瀬くん。『龍の剣』あそこからどうなるんだろうね。レイス死ぬのかなーそれだけ知りたいよー」
「あーでもどうだろ。原作通りなら死ななかったと思うけど」
「え、原作あったの!? オリジナルじゃないんだ!」
「題名違うけど、元々原作?みたいなポジションのネット小説があってそっからアニメ化って流れだったかな」
「へー。……え、それでレイスは、死なないで良いんだよね? ね!」
「えーと確かあの後、回想入って、うーんどうだったかな」
「わっふるわっふる」
「やっぱ言ってるよなぁ!」
「? 何が」
二宮さんはまた不思議そうに首を傾げる。
「あ、いや」
わっふるわっふるもネット掲示板で使われていた用語の一つだ。いや、でもこの彼女の堂々とした疑問符を浮かべた顔。
「うん、死ななかったと思うよ……」
「そうなんだー。良かったー」
レイスが死なないと知り、ふー、と安心している二宮さんの顔。まるで日常的な会話をただ続けていたかのような。俺の勘違い、なのか? いや、まぁ気のせい、か? そういうこともあるよ、な。うん。きっと二宮さんは急にワッフルを食べたくなりついそのこと呟いてしまったんだろうな……HAHA、おちゃめさんめ☆
「お、人増えてきたね、会議終わったのかな」
「あぁ、そうみたいだね」
「でさー」
よし、決めた。この一連のことは俺の勘違いということで決定づけることにしよう。くだらない疑心は終わり。これからは学園のアイドル二宮さんが隣の席という俺の幸運を噛みしめつつ日々を過ごすことにしよう。
そして、そういった結論で昼休みは終わり、放課後。
「じゃーなー広瀬」
「あー田中、また明日なー」
俺は帰ろうとして美化委員の仕事である自販機横のリサイクルボックスの中にある缶やペットボトルをゴミ出しに持っていくという非常に面倒な仕事を思い出す。俺に任されているのは校舎裏の自販機横のボックスなのだが、それを学校外に出て急な階段を下り、そこにある下にあるごみ捨て場に持っていくという大変な行程をこなす必要があるのだ。とっとと仕事を片付けてしまおうと帰ろうとしている生徒達でごった返す廊下を歩いている途中で一際通る声が聞こえた。人だかりでよく見えないが。
「だから……サ。二宮さん、この後俺とデートでもッ、どうかナッ?」
アレは確か……。顔がカッコイイと有名な二年の先輩。スタイリッシュな動きをしつつ誰かをデートに誘っているようだが……今、二宮さんって言った?少し無理矢理進むと、下駄箱前で先輩に誘われている二宮さんが見えた。なるほど、いつもより混んでいたように思ったが理由はこれか。
「んー。お互いの事、よく知らないし。ごめんなさい!」
二宮さんは笑顔でバッサリと断る。断るのか。まさかとは思ったがまぁ、そうか。周りの男子たちもふぅと胸を撫でおろしたように安心している。いや、お前らにも脈があるかどうかはだいぶ怪しいが……。先輩は動揺したように口角を引きつかせるも、引くことなくスマホを取り出す。
「それならッ。まずはRINEでも交換して……」
「今の後だとなぁ……。お父さんたちからあんまり知らない子と連絡とったらダメだよって言われてるし、それもごめんなさい!」
もう彼に脈が無いと分かると、生徒たちの関心も薄れたのか止まって眺める生徒も減り人の流れも進んでいく。俺は下駄箱に着き、靴を取り出し履く。
「そ、そうかい? な、なら」
スタイリッシュさが崩れながらも諦めずにしつこく食らいつこうとする先輩。二宮さんも大変だなぁ。そう思いながら玄関を出て振り返ってみていると、彼女が軽くこちらを見て。今、視線が合ったか……?
気のせいかな。こんなとこで突っ立ってる暇も行かないしさっさと片付けに行くか。
「こんなとこに居たら皆の迷惑だし、私はこれで! それじゃお誘いごめんなさい! 先輩!」
そんなトドメの言葉とグゥという呻き声を聞きつつ俺は校舎裏に向かう。
校舎裏に着き、俺は自販機横のリサイクルボックスからゴミ袋を取り出す。ペットボトル専用と缶専用に分けられたゴミ袋たちに入ったボトルと缶。どちらかが違う方の袋に入っていた場合、それを正しい袋に戻してゴミ捨て場に出すというこれまた面倒なことをしないといけないのだが。おぉ、中身を調べてみるとどうやらどちらともちゃんと仕分けされて入っている。美しい……。しっかり分別されているからというのもそうだが、そこに至るここに捨てていったであろう生徒たちのエコの精神の象徴ともいうべき一種の……。
「見つけた!」
と俺が感慨に浸っていると後ろから声がした。この声はと後ろを振り返ると。
「二宮さん」
軽く息を切らしながら二宮さんが駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「広瀬くんが校門とは違う方向に行くの見えてね? どこに行くのかなぁって。こっち何にもないしさ。あはは、ちょっと探しちゃった」
にこやかに理由を語る二宮さん。俺が行く場所が気になったからという理由でここまで、くっ、可愛い。これが”萌え”という感情。隣の席で良かった。うん、こんな子がネット掲示板と関りがあるわけがないのだ。
「それって自販機のゴミ袋?」
「う、うん。美化委員の仕事で下のゴミ捨て場まで」
俺は二つのゴミ袋の片方を持つ。二つともそこまで大きくはないが、降りる階段がやたらと細く段差もある為、二つ抱えて降りるのはリスキーだ。
「えー、二つも!? あそこまで大変じゃない?」
「まぁ、でもそこまで重くないし大丈夫大丈夫」
大変と言われて俺は謎の見栄をつい張ってしまう。悲しいかな、これが男の子の性……。
「私も手伝うよー!」
そう言い二宮さんが片方のゴミ袋を持つ。
「二宮さん。俺の仕事だし俺が持ってくよ」
「そーいうこと言わない! 二人の方が一個ずつで楽だって、ほら!」
二宮さんは片手でゴミ袋を持ち上げて見せる。
「二宮さん。手汚れるよ?」
「後で水道で洗えばいいじゃん、ほら、行こ行こ」
と、二宮さんは先導して天使のような笑顔で先へ行く。あぁ、本当に完全無敵の美少女だ。めっちゃ、好っきゃねん……。
内心、感情の高ぶりのあまりよく分からないモノローグを発しながら俺は彼女に着いていく。他愛ない世間話をしながら階段までやってくる。十メートルほどは無くともかなり高低差があり階段には柵も無いため少し肝が冷える。まぁ階段前まで二つ持って行って一つずつ運搬すればいいだけだがそれも面倒だし改めて二宮さん様様だ。
「ほんと、さっきはさー困ったよー」
階段を二宮さんはボヤきながら降りていき俺も後に続く。
「あの人女子の間じゃ結構人気らしいよ、カッコいいって好きな子も多いとか」
「別に私には関係ないしー」
どうやら彼女は少しご機嫌斜めの様だ。
「はは、だよね。一瞬誘いに乗るのかなぁって考えたりしたけど」
「の、乗らないよ! 広瀬くん、私が誘いに乗るって思ったの?」
彼女は勢い良くこちらへ振り返り、むすっとした顔を見せる。おっと、ちょっと危ないか? それにしてもそんな急にここで振り返らせる程まずいことを言ってしまったか……?
「あ、いや、思ってないけど武士の情けで誘いに一回だけみたいな、僅かに」
「私はそんな軽くないです!」
振り向き直すとプリプリとご立腹のまま彼女は降りていく。
「そ、そうだよね」
「もー……ホントに」
かなり良くない琴線に触れていたようだ。以後気を付けなければ。ふと、下を見ると階段の最後の段差だけ幅が短くガタガタしていたので呼びかける。
「あ、段差気を」
「ほんと、そんなこと一ミリもないからね! ッ! あ」
二宮さんが階段を踏み外す。ゴミ袋を落とし、ガクッと膝から身体は崩れ落ちそのままアスファルトに───
「危ない!」
俺は瞬時に足を下へ踏み出し。ゴミ袋を放り投げ倒れそうになっている彼女の腕を掴むと無理やり引き上げすぐさま腰を片方の手で支える。
「だい、じょうぶ?」
時刻はすっかり夕方で夕日が差し込んでいた。俺は彼女の腕を取り腰を支え、まるでダンスのワンシーンの様な姿勢で二人は固まっている。彼女の端正な顔が夕日に照らされ朱く染まっていた。
「う、うん大丈夫」
「……、え、と、ごめんゴミ袋持ってた手で制服触っちゃった」
綺麗だ、と呟きそうになるをぐっと堪え、取り繕うように言葉を紡ぎ出す……という、か。
「い、いいよ。洗えばいい、か、ら」
この体制、キツイ! かなり前傾姿勢で彼女を掴まえた為、重心が先にあり、かなり腰に負担が来ている。彼女もすぐに立ってくれれば開放されるのだが、二宮さんは何故か俺の顔を見たまま固まって中々動かない。びっくりし過ぎて身体が硬直しているのか……。
「その、二宮さん。その立てる、かな?」
「あ! ごめん」
彼女はすぐに地面に降り、腰も開放される。ふぅ、危なかった……。
「その、さ。こういうところはよく見て降りないと。ほら、今みたいに危ないから」
静かになった彼女、どこか場が気まずくなりそうになるのを察してまるで親か先生かのような台詞を俺は場繋ぎでつい発す。
「う、うん。ご、ごめん。私、良くなかった、ね」
「いいよ、俺も良くない話振っちゃったみたいだったし」
彼女がより責任を感じようとするのを防ぐ為、おあいこという主張をしながらはにかんで見せる。……不自然じゃないだろうか。
「うん……」
さわさわと心地よい風に木々が揺らされざわめいている。夕日のせいか赤く染まった顔の彼女は無言で俺を見つめている。何だろう、この雰囲気。はやる鼓動。彼女が言葉を発そうと口を開き、そして───
「これなんてエロゲ……」
……そんなことを言った。
あぁ……ここでかぁ……。これもネット掲示板のスラングの一つ……。いや、構うまい。彼女が何であろうとこれまでの行いから完璧最強の美少女であることは純然たる事実だ。幻滅などすまい……。うん、しない!
「あ! ち、違、今のは」
はっ、と口を慌てて押さえると、あわあわと彼女は慌て出す。彼女のこの反応。やはり、そうだったか……。
「あー、その大丈夫、俺意味分かるけど全然気にしないし。そもそも、何となく分かってたから、そういう側の人なのかなーって」
「分かってたの!?」
「時々ネット掲示板用語漏れてたし……もしかして無意識だった?」
「あ、わわ!」
「その……ぐうかわ、とか尊いとか……まぁ尊いは普通に使われるけど」
「うわーーー! 恥ずかしいーーー!」
二宮さんは顔を真っ赤にして蹲り始める。
「ま、まぁまぁ気持ちも分かるけど、そう取り乱さずに落ち着いて……」
「そのだって今まで、キミにぐうかわとか尊い、とかって言ってたのバレてたんでしょ!?」
「あぁ、そっち」
「そっちも含めて!!!」
うぅ……と唸っていた彼女は勢いよく顔を上げると、そこらに転がっていたゴミ袋を勢いよくゴミ捨て場に放り、
「わーーー!!!」
と真っ赤な顔であっという間に階段を上って去って行った……あ。
「手洗い! 忘れずにねー! 後、制服もクリーニング出した方がいいよー!」
と、彼女の動転した態度を見ているとすっかり平静に戻った俺はそんなことをすっかり遠くなったであろう彼女に届くように声を張り上げるのだった。可愛い、か……。彼女が俺をそう思ってくれたのは素直に嬉しいが、ちょっと照れる。脈はこういう場合あんまりないのだろうか、いやいや、すぐこういうことを考えるのは思春期の良くない思考。……取り敢えずゴミ捨てて、手洗って帰るか。
その日の夜クラスのRINEグループ繋がりで二宮さんからRINEにメッセージが来ていたので友達追加してトーク画面を開くと早速、謝罪のメッセージと共に説明せずともよいのにネットスラングを使っていた弁明というか釈明のメッセージまで送られてきた。内容を簡単に言えば、昔、小学生の頃、好きなアニメかの感想を探している内にネット掲示板の世界を知ったらしくそれを母に説明するとかつては生粋のネラーだったらしい母がネット掲示板についてのいろはを叩き込みそこからネット掲示板の世界に本格参戦したようだ、お母さん……。とはいえネット掲示板も既に斜陽の時代、中学に上がる頃にはすっかり冷めていたようだが、その頃のこともあって時々ネットスラングが漏れてしまうらしい。なんて後遺症。ちなみに手は水道で洗って制服はクリーニングに出すらしい、あぁ、まぁうん良かった。
俺がスラングに詳しかった理由などやり取りをして最後はおやすみと送ると可愛いスタンプで返してくれて二宮さんとの初トークは幕を閉じた。いろいろとあったが最後は二宮さんと更にお近づきになれたということでこれは俺なりのかなりの快挙という事でその日は幕を閉じた。
翌日、何とはなしに早めに教室に着いたのでダラダラしていると。
「……」
どこか気まずそうに口を一文字に結んで二宮さんがやって来た。
「おはよう二宮さん」
「お、おはよ広瀬くん」
まだ人も少ない時間。二宮さんは席に着くとぐぃとこちらへ向く。
「その、広瀬くん! いろいろ合ったけど改めてよろしくね」
「! うん。こちらこそ、よろしくね二宮さん」
「うん! その、可愛いって言ってたのは……軽い感じっていうか……あんまり気にしないで、ね!」
「大丈夫。そんな可愛いとか言われてすぐに脈ありとか思う程思春期じゃないよ、俺は」
ふふんとアピールをする俺。
「う、うん……一進一退かなぁ。でも、RINEは友達になったし……」
「? 何か言った?」
「ううん、何でもない」
何か二宮さんがボソボソ声を発しているが今回は上手く聞き取れなかった。どこかたどたどしさが残る彼女との空気。……俺は思わず口を開く。
「ぬるぽ」
それを聞き彼女は目を見開くと、
「! がっ」
と返す。
「フフッ」
「ハハッ」
そして、俺たちはお互いの顔を見て笑い合う。
「あれ、小夜もう来てたんだ。広瀬くんも」
「えーなになに面白いこと?」
「んー、内緒!」
彼女はいつも通りの笑顔で教室に入って来た友達に返す。
そうして、俺たちは互いに目線を合わせると口角を上げ、いたずらっ子のように笑い合う。
どうやら、隣の席の友達の二宮さんとはかなり長い付き合いになりそうだ。




