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この学園では成績がすべて――なのに俺だけ「評価不能」だった  作者: 黒羽レイ


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第7話 評価が高いほど、嘘が上手くなる

 上位役割の生徒たちは、声が小さい。


 正確には、

 無駄なことを言わなくなる。


 教室の前方。

 管理補佐、調整者、実行責任者――

 評価の高い連中が集まる一角は、いつも整然としている。


「問題ありません」

「共有済みです」

「適切に対処しました」


 短く、曖昧で、否定しづらい言葉。


 そこには、感情も主語もなかった。


 以前なら、もっと違った。

 冗談を言う奴もいたし、愚痴をこぼす奴もいた。


 今はない。


 理由は単純だ。


 余計なことを言うと、評価が下がる。


 昼休み、俺は偶然、上位役割者の打ち合わせに居合わせた。


 教師はいない。

 だが、全員が背筋を伸ばしている。


「次の課題、問題点は?」

「特にありません」

「順調です」


 誰もが同じことを言う。


 実際には、問題はある。

 連携が遅れている班もあるし、

 責任の所在が曖昧な部分もある。


 だが、誰も言い出さない。


 言えば、自分が関わることになる。

 関われば、責任が生じる。


 沈黙が、一番安全だった。


「じゃあ、このままで」


 会話は、それで終わる。


 俺は、背中に薄ら寒さを感じた。


 これは、嘘じゃない。


 嘘をつく必要がないほど、

 正しい言葉だけを選んでいる。


 午後の授業。


 教師が質問を投げかける。


「この場合、最適な判断は?」


 上位役割の生徒が、すぐに手を挙げる。


「規範を優先し、

 全体への影響を最小限に抑えるべきです」


 模範解答。


 教師は頷く。


《評価:+1》


 だが、別の生徒が小さく呟いた。


「それ、現場じゃ無理じゃないか……?」


 聞こえないほどの声。


 だが。


《評価:−1》


 誰のものかは、表示されなかった。


 教室が、静まり返る。


 俺は理解した。


 ここでは、

 本音は、危険物扱いされる。


 放課後、管理補佐の男子が、俺の隣に立った。


 珍しいことだった。


「……昨日のことだけど」


 第6話の課題の件だ。


「助言、ありがとう。

 結果はあれだったけど……」


 彼は言葉を探している。


「君、どう思ってる?」


 俺は、少し考えた。


「正しかったと思う」


 彼は、少し安心したように見えた。


「だよな。

 正しかったんだ」


 その言葉に、違和感があった。


 正しい。

 でも、救われていない。


 彼は続ける。


「評価が下がったのは……

 仕方ない。

 制度だから」


 納得しているわけじゃない。

 諦めているだけだ。


 その瞬間、俺は気づいた。


 評価が高い人間ほど、

 嘘が上手くなるんじゃない。


 自分を騙すのが上手くなる。


 夜、自室。


 俺は今日一日の会話を思い返していた。


 誰も、他人を陥れようとはしていない。

 誰も、悪意を持っていない。


 それでも、

 誰かが黙り、

 誰かが諦め、

 誰かが切り捨てられる。


 それを、全員が「正しい」と処理する。


 この学園では、

 嘘は罰せられる。


 だが。


 言わないことは、評価される。


 沈黙。

 曖昧な言葉。

 責任を取らない正論。


 それらが積み重なって、

 評価の高い人間が出来上がる。


 俺は、自分の表示を見る。


《評価:???》


 嘘をつく必要もない。

 沈黙を選ぶ必要もない。


 だが、その代わりに、

 どこにも属していない。


 管理補佐の男子の顔が、頭をよぎる。


 彼は悪くない。

 むしろ、優秀だ。


 それでも、

 彼はもう、

 本音を言えなくなっている。


 評価が高いほど、

 自由が減る。


 評価が高いほど、

 言葉が減る。


 評価が高いほど、

 自分に嘘をつく回数が増える。


 それが、この学園の“完成形”だとしたら。


 完成してはいけない。


 俺は、はっきりとそう思った。


 この制度は、

 人を賢くする前に、

 人を静かにする。


 それは、

 生き残るための静けさだ。


 だが、

 その静けさが続いた先に、

 何が残るのか。


 俺には、

 もう見えてしまっていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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