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この学園では成績がすべて――なのに俺だけ「評価不能」だった  作者: 黒羽レイ


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第3話 上を目指す理由

 その発表は、あまりにも自然に行われた。


 昼休みが終わり、教室に全員が揃ったタイミングで、教師が端末を操作する。

 壁一面に、資料が投影された。


「本日は、月次評価に関する補足説明を行います」


 その一言で、空気が張りつめる。


 教師は淡々と続けた。


「評価の上昇は、学園内の待遇だけでなく、

 卒業後の進路保証に直結します」


 進路保証。


 その言葉に、何人かが息を呑んだのが分かった。


「一定以上の評価を維持した生徒には、

 国家機関・提携企業・研究施設への優先配属権が与えられます」


 画面に、具体的な名前が並ぶ。


 誰もが知っている組織。

 誰もが、一度は目標にしたことがある場所。


 ざわめきが抑えきれなくなる。


「さらに――」


 教師は、そこで一拍置いた。


「評価上位者には、家族への支援措置が適用されます」


 空気が、一段階重くなった。


「奨学金の全額免除。

 医療費の補助。

 居住環境の優先改善」


 条件は、ただ一つ。


 評価を落とさないこと。


「これは、本人の努力だけでなく、

 周囲との協調によって維持されるものです」


 協調。


 その言葉が、昨日よりもずっと重く聞こえた。


 つまり。


 自分が上がるだけでは足りない。

 周囲を“正しく”動かさなければならない。


 教室の空気が、ゆっくりと変質していくのを感じた。


 休み時間。


 さっそく、動き始める生徒たちがいた。


「なあ、次の課題、チーム組まない?」

「協力した方が評価上がりやすいらしい」


 一見、普通の会話だ。

 だが、視線は値踏みするように鋭い。


 誰と組めば得か。

 誰と組めば危険か。


 そんな計算が、会話の裏で走っている。


 一方で、別の動きもあった。


「昨日のあれ、規範違反じゃない?」

「一応、報告しといた方がいいよな」


 告発。


 匿名で行えるそれは、

 誰かを直接殴らずに、確実に評価を削る手段だった。


 誰もが、手を汚している自覚はない。


 ただ、未来を守っているだけだ。


 放課後、管理補佐の男子が、教師に呼び止められているのを見た。


 彼は俯き、何度も頷いている。


 そのたびに。


《評価:79 → 78》


 数字が、静かに下がっていく。


 俺は思わず、目を逸らした。


 彼は“間違った”わけじゃない。

 むしろ、模範的だった。


 それでも下がる。


 理由は一つしかない。


 もっと適した人間が、他にいる。


 評価とは、そういうものだ。


 夕方、例の女子生徒と再び話す機会があった。


「ねえ」


 彼女は、端末に表示された資料を睨みながら言った。


「これ、逃げられないよね」


「……ああ」


「上に行けば自由なくなる。

 でも行かなきゃ、将来が消える」


 彼女は笑おうとして、失敗した。


「詰んでない?」


 詰んでいる。


 だが、誰もそうは言わない。


 なぜなら。


 ここにいる全員が、

 “評価される未来”しか教えられてこなかったからだ。


 評価されない人生。

 選ばれない未来。


 それを想像すること自体が、恐怖になっている。


 教室の隅で、数人がひそひそと話している。


「アイツ、足引っ張りそうだよな」

「次の課題、外した方がいいかも」


 名前は出ない。

 でも、対象ははっきりしている。


 誰かを外すことで、

 自分たちは安全になる。


 その判断を、誰も悪いとは思っていない。


 俺は、自分の表示を見る。


《評価:???》


 進路保証もない。

 家族支援もない。

 未来の提示すらない。


 普通なら、不安でたまらないはずだ。


 なのに。


 今は、少しだけ違った。


 評価がないから、

 失う予定の未来も、決められていない。


 上を目指す理由は、もう分かった。


 約束されるからだ。

 不安から解放されるからだ。

 選ばれる側にいられるからだ。


 でも、その代償として、

 選ぶ権利は失われる。


 教室を見渡す。


 誰もが、真剣な顔をしている。

 必死だ。


 生き残るために。

 未来を確保するために。


 ――その結果、

 誰かを蹴落とすことになっても。


 俺は、静かに息を吐いた。


 この学園は、よくできている。


 努力を、善意を、恐怖を、

 すべて「評価」に変換して、前へ進ませる。


 だからこそ。


 誰も、立ち止まれない。


 誰も、疑えない。


 評価されない俺だけが、

 この流れの外側にいる。


 なら。


 この“上を目指す理由”そのものを、

 揺らがせるしかない。


 その考えが浮かんだ瞬間、

 胸の奥が、奇妙に静かになった。


 ――ここからだ。


 この学園が、本当に壊れ始めるのは。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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