第28話(最終話) それでも世界は続く
朝は、いつも通りに来た。
通知音も、
呼び出しも、
特別な演出もない。
世界は、
最終話であることを
誰にも知らせない。
教室に入る。
席は埋まり、
授業は始まり、
誰も迷っていない。
評価は更新され、
役割は維持され、
全体効率は安定している。
完璧だった。
俺は、
端末を確認しない。
見る必要がない。
評価は、
もう与えられない。
未登録という状態は、
変化しない。
教師の説明を聞きながら、
ふと窓の外を見る。
空は澄んでいる。
騒がしさも、
不穏さもない。
ここには、
問題が存在しない。
それが、
この学園の完成形だ。
昼休み。
生徒たちは、
それぞれの役割に向かう。
誰かが笑い、
誰かが黙々と作業をする。
全員が、
自分の位置を理解している。
理解できていること自体が、
この制度の成果だ。
校舎の廊下を歩く。
足音が響く。
その音に、
意味はない。
記録も、
評価も、
影響も残さない。
それでも、
確かに鳴っている。
放課後、
屋上に出た。
ここは、
最後まで役割に含まれなかった場所だ。
風が吹く。
街の音が、
遠くから届く。
学園の外には、
まだ、
評価されていない世界がある。
数値にならない選択。
役割を持たない時間。
正しさを証明しない生き方。
それらは、
ここには必要ない。
だから、
ここは完成している。
俺は、
この世界を
否定する気にはなれなかった。
誰も悪くない。
誰も間違っていない。
正しさを積み上げた結果が、
今の姿だ。
それでも。
正しさが、
すべてを救うとは限らない。
救われなかったものは、
静かに削られ、
記録の外に落ちていく。
俺は、
その外側を
たまたま見てしまっただけだ。
評価されなかった救い。
評価されなかった不安。
評価されなかった言葉。
それらは、
なかったことになる。
だが、
消えるわけじゃない。
誰かの中に、
残る。
屋上を出る。
廊下に戻ると、
整った音が迎える。
正しい足音。
正しい距離。
正しい沈黙。
その中を、
俺は歩く。
評価されないまま。
役割を持たないまま。
それでも、
確かにここにいる。
世界は続く。
制度は回る。
誰かが救われ、
誰かが削られ、
全体は安定する。
その中で、
評価されないものは
記録されない。
だが。
評価されないものが、
存在しなかったことにはならない。
それだけを、
俺は知っている。
そして、
知っているだけで、
この物語は終わる。
完結
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この物語には、
分かりやすい悪役も、
劇的な逆転も、
派手な勝利もありません。
それでも最後まで書いたのは、
「正しさが積み重なった結果、
誰も悪くないまま
誰かが零れ落ちる世界」
を、一度きちんと描いてみたかったからです。
この学園の制度は、
多くの人を守ります。
効率的で、合理的で、
おそらく現実よりも優しい。
それでも、
評価できないものは残らない。
その事実が、
怖くもあり、
どこか現実的でもあると感じました。
主人公は、
世界を壊しません。
誰かを救い続けることもしません。
ただ、
「なかったことにされる出来事」を
覚えていただけです。
それだけで、
十分なのかもしれないと
今は思っています。
この物語を読んで、
少しでも引っかかるものが残ったなら、
それはもう、
評価されない形で
あなたの中に残っています。
それで、この話は完成です。
最後までお付き合いいただき、
本当にありがとうございました。




