第2話 勝者の檻
翌朝、登校してすぐに気づいた。
空気が、昨日とは違う。
教室の前方――評価が高かった生徒たちの席には、妙な静けさがあった。
浮かれて話す様子はなく、姿勢よく座り、端末を操作している。
まるで、監視されているみたいに。
「管理補佐の人、呼ばれてるぞ」
小声が聞こえた。
昨日、評価81だった男子生徒。
教師に連れられ、別室へ向かっていく。
その表情は、誇らしげというより――緊張していた。
俺は廊下を歩きながら、自分の表示を確認する。
《評価:???》
《役割:未定》
相変わらずだ。
だが、今日はそれよりも気になることがあった。
昼前、校内放送が入る。
「上位役割の生徒は、第三会議室へ集合してください」
数名が立ち上がり、静かに教室を出ていく。
残された生徒たちは、どこか羨ましそうにその背中を見送った。
「いいよな、上」
「特別扱いだろ?」
そんな声が飛び交う。
――本当に、そうだろうか。
昼休み。
俺は、下位役割の生徒たちと一緒に食堂に向かった。
雑務補助、実行者、触媒。
名前だけ聞くと、あまり格好は良くない。
でも。
「今日、午後の授業サボれるらしいぞ」
「え、マジ?」
「評価低いから、自由枠だって」
笑い声が上がる。
彼らは彼らで、気楽そうだった。
一方、会議室の様子を、偶然目にする。
扉越しに見えた光景は、想像と違った。
円卓。
背筋を伸ばして座る上位役割の生徒たち。
中央に立つ教師が、淡々と告げる。
「あなた方は、模範です」
その一言で、全員の背中が強張った。
「発言は慎重に。
行動は記録されます。
協調を乱す行為は、即座に減点対象です」
誰も反論しない。
――いや、できないのか。
「管理補佐は、下位役割者の行動を監督してください」
「調整者は、衝突を未然に防ぐ義務があります」
義務。
責任。
自由という言葉は、一度も出てこなかった。
会議が終わり、廊下に出てきた彼らの顔は、揃って青白かった。
「どうだった?」と声をかけると、
管理補佐の男子は一瞬だけ口を開き、すぐに閉じた。
「……悪くない」
そう言いながら、視線を逸らす。
その直後だった。
《評価:81 → 79》
彼の表示が、僅かに下がった。
「今の、何?」
「発言したからじゃ……」
周囲がざわつく。
彼は唇を噛みしめ、何も言わなかった。
午後。
授業中、別の上位生徒が質問をした。
内容は、至って真面目だった。
だが――。
《評価:74 → 71》
減点。
理由は示されない。
教師は、何事もなかったかのように授業を続ける。
理解した。
上位にいる限り、常に“正解”を求められる。
そして、その正解は、誰にも共有されていない。
休み時間、下位役割の生徒が教師に軽口を叩いた。
何も起きない。
評価も変わらない。
その光景を見て、背筋が冷えた。
安全なのは、上じゃない。
縛られているのが、上だ。
放課後、校舎裏。
俺は、評価40台の女子生徒と並んで座っていた。
「ねえ、あんたさ」
彼女が、俺の表示をちらりと見る。
「未定って、逆に強くない?」
「そう思う?」
「だってさ。
上の人たち、顔死んでるよ」
彼女は笑った。
「評価低いと不安だけど、
高いと、逃げ場なくなるんでしょ?」
言い得て妙だった。
この学園では、
上に行くほど、行動が管理される。
下にいるほど、責任は軽い。
なのに。
全員が、上を目指している。
それはなぜか。
答えは、昨日教師が言った一言にある。
――評価は、あなたの未来を約束します。
自由と引き換えに、安定した未来がもらえる。
そう信じている。
けれど。
今日見た“勝者”たちは、
まるで檻に入れられたみたいだった。
俺は、自分の表示を見る。
《評価:???》
上にも行けない。
下にも落ちない。
この学園のルールから、少し外れた場所。
だからこそ、分かる。
ここは、競争の場じゃない。
未来を先に決められる場所だ。
そして。
その未来を決められた人間から、
順番に、自由を失っていく。
廊下の向こうで、上位生徒たちが整列して歩いていく。
その背中は、昨日よりも小さく見えた。
――勝つって、こういうことなのか。
胸の奥に、嫌な予感が広がる。
このままじゃ、
誰もが進んで、檻に入っていく。
なら。
評価されない俺は、
この檻の外から、何ができる?
まだ答えは出ない。
けれど一つだけ、確信があった。
この学園は、
勝者を守るために作られていない。
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