第16話 優しさの条件
呼び出しは、放課後だった。
今度は校内放送ではない。
端末に、直接通知が届いた。
《面談のお願い》
《場所:会議室》
拒否の選択肢は、表示されていない。
会議室には、教師が一人だけいた。
スーツの男はいない。
それが、かえって緊張を和らげた。
「座って」
教師は、端末を閉じて言った。
「今日は、
指示でも確認でもない」
その前置きが、
逆に身構えさせる。
「君に、
少し話しておきたいことがある」
教師は、しばらく言葉を探していた。
沈黙は長くない。
だが、意図的だった。
「君は、
人を切れないと思っているだろう」
俺は、答えなかった。
肯定も否定も、
どちらも違う。
「だが、それは違う」
教師は、淡々と言う。
「君は、
人を切れる」
胸の奥が、
僅かにざわつく。
「実際、
切った」
この前の光景が、
頭をよぎる。
「ただし」
教師は続ける。
「君は、
切る理由に、
納得できないだけだ」
その言葉は、
鋭く、正確だった。
「多くの人間は、
理由があれば切れる」
「命令。
規則。
評価」
「だが君は、
それでは足りない」
教師は、
俺をまっすぐ見る。
「自分が納得しない限り、
切ったことを、
受け入れられない」
反論できなかった。
事実だからだ。
「それが、
君の危うさであり」
一拍置く。
「同時に、
有用性でもある」
有用。
またその言葉だ。
「制度は、
完璧ではない」
教師は、
初めてそう言った。
「だが、
混乱の中では、
完璧さより、
判断の速さが求められる」
「迷い続ける者は、
最初に脱落する」
それは、
警告ではなかった。
前提条件だった。
「君のように、
迷いを言語化できる人間は、
貴重だ」
「だから、
排除しない」
俺は、
ゆっくりと息を吐いた。
「……じゃあ、
なぜ僕を評価しないんですか」
教師は、
少しだけ目を伏せる。
「評価すると、
君は壊れる」
即答だった。
「君は、
評価を上げるために
自分を曲げる」
「それを、
私たちは望んでいない」
ぞっとした。
壊れないために、
評価されない。
それは、
保護でもある。
同時に、
檻でもある。
「優しさには、
条件がある」
教師は、
静かに言った。
「制度にとって
危険すぎないこと」
「そして」
視線が、
わずかに鋭くなる。
「役に立つこと」
それが、
この学園の優しさの条件。
感情でも、
善意でもない。
有用性。
「君は、
その境界線にいる」
教師は、
端末を閉じた。
「これ以上、
踏み込まなければ」
「私たちは、
君を守れる」
それは、
約束だった。
同時に、
脅迫でもあった。
会議室を出る。
夕方の廊下は、
静かだった。
生徒たちは、
それぞれの役割に戻っていく。
迷いなく。
疑いなく。
その光景が、
以前よりも、
はっきり見える。
完成に近づいている。
俺は、
自分の表示を見る。
《評価:???》
評価されないことが、
守られている証拠だと
言われた。
だが、
その守りは、
いつまで続く?
役に立たなくなった瞬間、
優しさは消える。
それが、
条件付きの保護だ。
教師の言葉が、
頭に残る。
――守れる。
それは、
裏を返せば。
守らないことも、
選べるという意味だ。
俺は、
歩きながら考える。
ここまで来て、
もう戻れない。
制度の外に
立ち続けることは、
許されていない。
なら。
この優しさを、
どう扱うか。
それが、
次に選ばされる問いになる。
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