第14話 初めての敗北
通知は、朝一番だった。
《役割調整のお知らせ》
《対象者は個別に通知されます》
教室の空気が、わずかに緊張する。
誰かが処理される。
それだけは、全員が理解していた。
俺は席に座ったまま、
端末を伏せた。
見る必要はない。
見るまでもなく、
もう分かっていた。
授業は、普段通りに始まった。
教師の声は落ち着いている。
生徒たちも、必要以上に騒がない。
誰もが、
自分の番ではないことを祈っている。
昼前。
触媒の彼が、呼び出された。
名前が読み上げられた瞬間、
教室の何人かが、ほっと息を吐いた。
彼は立ち上がり、
何事もないように歩いていく。
振り返らない。
それが、
ここでの礼儀だった。
昼休みが終わっても、
彼は戻ってこなかった。
誰も、
その理由を口にしない。
放課後。
教師が淡々と告げる。
「一部生徒の役割が、
再配置されました」
視界に、
名前が表示される。
《役割変更:進路調整》
触媒の彼の名前があった。
退学でも、除籍でもない。
だが、
この教室からは消える。
それが何を意味するか、
誰もが知っている。
俺は、
教師の方を見た。
教師は、
こちらを見ていなかった。
放課後、
校舎裏で彼を見つけた。
段ボール箱を一つ抱えている。
「……やっぱり、
そうなったか」
俺を見るなり、
彼はそう言った。
怒っていない。
驚いてもいない。
ただ、
納得している。
「話、聞いた?」
「いや」
それは嘘だった。
だが、
説明する資格はない。
彼は箱を地面に置き、
軽く伸びをする。
「悪くなかったよ」
「何が?」
「ここ」
それだけだった。
「お前さ」
彼は、
少しだけ言いづらそうに続ける。
「ちゃんと、
言ってくれたんだろ」
胸が、
少しだけ痛んだ。
「能力はあるって」
彼は笑った。
「それで十分だ」
俺は、
何も言えなかった。
それが、
正解だと分かっていたからだ。
「助けようとしてくれて、
ありがとう」
彼は、
あっさりと言った。
「でもさ」
箱を持ち上げながら、
続ける。
「これでよかったんだと思う」
その言葉が、
一番きつかった。
否定できない。
怒ることもできない。
制度は、
彼に選択肢を与えた。
彼は、
納得した。
だから、
誰も悪くない。
俺は、
自分がどこに立っているのか、
はっきりと理解した。
俺は、
彼を切った。
直接じゃない。
命令したわけでもない。
ただ、
正しい情報を、
正しい場所に渡しただけだ。
それで、
人は消える。
「なあ」
彼が、
立ち止まって言う。
「君ならさ」
一瞬、
期待の色が浮かぶ。
だが、
すぐに消えた。
「……いや、
何でもない」
そのまま、
彼は歩き出した。
振り返らない。
俺は、
追わなかった。
追えば、
自分を許す理由を探してしまう。
それだけは、
したくなかった。
夜。
端末に、
新しい通知が来ていた。
《調整完了》
《制度安定度:上昇》
短い文。
感情の入り込む余地はない。
俺は、
端末を閉じた。
正しかった。
それは、
間違いない。
でも。
それで失ったものは、
もう戻らない。
これが、
初めての敗北だ。
数値は、
一つも下がっていない。
だが、
俺は確実に、
負けていた。
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