第13話 役割の提示
その変化は、数値には表れなかった。
《評価:???》
相変わらず、俺の表示は空白のままだ。
だが、周囲の態度は明らかに変わっていた。
授業中、教師の視線が一度、こちらに流れる。
何かを確認するように。
それだけで、隣の席の生徒が僅かに身を強張らせた。
休み時間。
上位役割の生徒たちが集まる輪の中に、
いつの間にか俺の居場所ができている。
「この件、どう思う?」
意見を求められる。
命令でも、相談でもない。
確認だ。
俺の返答次第で、
次の行動が決まる。
そんな空気。
それは、
役割を与えられていない人間が
本来持つべきではないものだった。
昼過ぎ、教師が言った。
「次の課題は、
評価の偏りに関する調査です」
偏り。
その単語に、数名の生徒が反応する。
「班分けは、こちらで行います」
表示が浮かぶ。
上位役割者。
中位。
触媒。
そして。
俺の名前は、
どの班にも属していなかった。
「君は、全体補助として回ってください」
教師の言葉は、
事務的だった。
だが、その意味は大きい。
どの班にも関われる。
どの情報にも触れられる。
――立場だけ見れば、
管理補佐以上だ。
俺は、何も言わずに頷いた。
各班を回る。
上位班では、
数値と効率の話が中心だった。
「この触媒、
他の班に回した方がいい」
「協調性が足りない」
中位班では、
言葉が濁る。
「悪くはないんだけど……
空気が、ちょっと」
触媒班では、
諦めに近い沈黙が支配していた。
「どうせ、
結論は決まってる」
誰かが呟く。
俺は、メモを取る。
求められているからだ。
歪みの報告。
それが、
俺に期待されている役割だと、
もう分かっていた。
放課後、教師に呼ばれる。
会議室。
今回は、スーツの男はいなかった。
「今日の調査で、
何か気づいたことは?」
教師は、端末を見ながら聞く。
俺は、答える。
「評価と、実務能力が一致していない例がいくつか」
「具体的には?」
名前を出せば、
それが“処理対象”になる。
出さなければ、
調査は意味を失う。
俺は、一拍置いて言った。
「触媒役の生徒が、
実務では有能なケースが多いです」
教師の指が止まる。
「だが、
集団適応に問題がある」
「そう判断されています」
教師は、俺を見る。
「君は、どう思う?」
その問いは、
意見を聞いているようで、
選択を迫っていた。
肯定すれば、
触媒はそのまま消耗される。
否定すれば、
制度そのものを否定する。
「能力を活かす方法は、
あると思います」
俺は、そう答えた。
教師は、少しだけ考え、
頷いた。
「検討しよう」
その言葉で、
決まった。
何がどうなるかは、
分からない。
だが、
俺の発言が、
何かを動かしたことだけは確かだった。
教室に戻ると、
触媒の彼がこちらを見る。
「なんか、
話した?」
「少し」
「そっか」
それ以上、
聞いてこなかった。
それが、
一番きつかった。
夜、端末を開く。
通知が一件。
《内部調整中》
《対象:一部役割》
対象者の名前は、
まだ表示されていない。
俺は、初めて理解する。
役割とは、
肩書きじゃない。
誰を残し、
誰を動かし、
誰を遠ざけるかを
判断する立場だ。
そして今、
その立場の縁に、
俺は立っている。
評価は、
まだ付いていない。
だが、
選別は始まっている。
俺の知らないところで。
俺の言葉を、材料にして。
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