第1話:三年前の三日目 Scene 1: 始まりの村と、久しぶりの再会
魔王城からほど近いにもかかわらず、そこは時の流れが止まったかのような場所だった。
閑静で何もない村――人々が魔王の脅威に怯え、戦乱のニュースで持ちきりになる世界で、この村は相変わらず、何も起こらなかったように平穏な時間が過ぎている。
その村の入り口に、レイムは立っていた。
フードを被り、どこか気まずそうに周囲を見渡すレイムに、一人の影が声をかける。
「あれ!あれもしかして……まさかレイムちゃんかい?」
隣の家のおばあさんだ。シワの多い顔に、人好きのする笑みを浮かべている。
(隣の家のおばあさん、まだ元気だ……)
レイムは、三年間の旅路で疲弊しきった心の中で安堵した。
「また大きくなって……」おばあさんは、しみじみと目を細めた。
レイムは思わず、少しムッとした表情になる。
「おばあさん……私、この村を出たときもう16歳だから。身長なんて、もう変わんないわよ」
「そうかい……気のせいかね。なんだか、大きくなった気がしたんだが……横に……」
「なっ!なななな……そっ、そんなわけないっ!」
レイムは慌てて否定した。確かに、旅の途中、ラザロの持病の薬を分けてもらったついでに、カロリーの高い回復食をこっそり食べすぎていた自覚はある。しかし!
「過酷な旅の毎日よ!太る隙なんて、ないんだから!」
顔を真っ赤にして否定するレイムに、おばあさんは悪戯っぽく笑った。
「まぁ、そんなことはどうでもいいさ。それより、家に早く帰っておやり」
おばあさんはレイムの背中を優しく押しやる。
「父さんと母さんにも会ってないんだろう?急に旅に出たっきりなんだから、さぞ心配しているだろうさね」
「……あ」
そうだ、とレイムは思い出した。魔王討伐の旅に出て以来、一度も実家には顔を出していない。
(そうだった、しばらく会ってない)
「待たせてるし、落とし物探しは急ぐけど……ちょっとだけ会っていこう」
レイムは、三年分の罪悪感と、魔法探しのプレッシャーを抱えながら、見慣れた我が家へと足を向けた。
故郷の匂い、家族の顔。そして、彼女が旅立ちの三日目に落としたという「魔法」の痕跡――。すべてがこの村にあるのだ。




