Scene 5: 止められた剛拳
「ガイム、出番だよ!!」
ライラは、酒瓶を放り投げ、カウンターの奥に向かって叫んだ。
ドスンドスンと、床を揺らす重い足音とともに、奥から一人の男が現れた。スキンヘッドで、身長二メートルは優に超える上半身裸の大男。全身の筋肉が隆起し、見る者に威圧感を与える。
「なんだなんだ、久しぶりの出番かと思ったら子供じゃねぇか」
大男――ガイムは、レイムとリムを見下ろした。
「大人しく帰るなら、見逃してやってもいいんだぜ」
リムは、その異様な迫力にちょっとビビりつつも、カウンター越しに大男を睨みつけた。
「くそっ!落としたもん返してもらいに来ただけなのに!!」
リムは魔導書を開き、戦闘態勢に入る。
「……ちょ……ちょっと……争いは……よく……」
レイムは、どうにか仲裁しようと声を出すが、その声は二人の男の殺気に飲まれ、誰にも届かなかった。
「少し痛い目見てもらうしかないな!!」
ガイムは、腕の血管を浮き上がらせ、ゆっくりと拳を構えた。大男も戦闘態勢に入る。
「かかってこいよ!!」
ガイムの挑発を受け、リムは魔導書のページを一気に捲った。
「喰らえ!雷撃嵐!」
リムが呪文を唱えると、魔導書から青白い雷が発生したが――それは大男に届く前に、空中で霧散した。
「おいおい。ギルド内部で魔法なんか使えると思うなよ」ガイムは嘲笑した。
「安全対策で、魔法は使用禁止だ。さあ、殴り合おうぜ」
リムは、頼みの綱の魔法が使えないことに焦る。
ガイムは、その隙を見逃さなかった。右拳をリムに向けて、地面を揺るがす勢いで振り下ろす!
「ぐっ!」リムは防御の体制を取るのが精一杯だ。
その瞬間――
ズンッ!
!! 大男の拳が、空中でピタリと止まった。
リムが何が起こったのか理解するより早く、ガイムの巨大な拳を受け止めていたのは、華奢な体躯のレイムだった。彼女は、ごく自然な動作で、左手一本をガイムの拳の正面に添えていた。
まるで、止まれ、と言葉をかけただけのように、二メートル超えの大男の剛拳は、びくともしない。
「な、なんだと!!」
ガイムは、目を剥いて絶叫した。レイムの身体は、微動だにしていなかった。




