Scene 4: 看板の魔法
「たしかに魔導書の文字っぽいな」
リムは、受付カウンターの奥にある壁面看板を指差した。レイムの魔導書と同じフォントの、見覚えのある古代文字。
「なあ、その文字、どこで手に入れたんだよ」
ライラは酒瓶をテーブルに置き、不機嫌そうに答えた。
「……え?知らない……」
「知らないじゃねぇよ! 思い出せよ!」
リムは苛立ちを隠せない。レイムの最初の落とし物が目の前にあるというのに。
「……ああ……リム……そんな……喧嘩売るみたいな……」
レイムは、荒れたライラを刺激しないよう、オロオロしながらリムを止めようとした。
「そんなこと言っても、明らかにアレ、魔導書の文字じゃん!!」リムはレイムを振り返り、まくし立てた。
「お前もちゃんと確認しろよ!魔導書!開いて!」
「……そっ、そ、そうなんだけど……」
レイムは、リムの勢いに押され、新しい魔導書を取り出し、最初のページを開いた。
レイムの魔導書が起動状態に入ったその瞬間――
ゴゴッ!
文字が魔導書に反応し、壁面看板が、内部から音を立てて動き出した。看板の文字が淡く光り、ギルドの壁に深く埋め込まれていたはずの看板が、ゆっくりと外側へせり出してくる。
「やっぱりそうじゃん! あれはお前の魔法だよ!」
リムは、興奮してカウンターを叩いた。
「あのさ!その魔法、返して欲しいんだけど!」
ライラは、驚きと怒りで、やさぐれた表情を一変させた。
「はあぁ?なんでよ! 何でうちの看板、急にあんたらに、あげなきゃいけないのよ!」
「だって、こいつの魔法だから!」
「知らないわよ!あんまりギャーギャーいうなら、痛い目見るよ」ライラの目が鋭くなる。「こんなにさびれて腐ってても、ここはギルドだからね」
「なんだと!!やってみろよ!!」
リムが、一触即発の構えを見せた。
「……あの……あの……穏便……できれば穏便に……」
レイムは、戦う術は持っていても、「ギルドと戦う」という状況を、どうにか平和的に収めたいと願うのだった。




