Scene 3: 絶体絶命の告白
魔王城一階・広間
勇者一行は絶望的な沈黙に包まれていた。
「魔法、落としちゃったみたい」
霊魔女リーグリースの甲高い笑い声が広間に響き渡る中、勇者アレスは己の耳を疑った。
「……どこで?いつ!?」
「なんで!?」
アレスは混乱し、レイムを詰問する。魔王城に到達した高揚感は、一瞬にして冷水のように消え失せた。
魔法使いレイムは、アレスの剣幕にさらに体を小さくする。
「……多分……旅立ちの、三日目くらい……」
「どういうことだよ!?」
アレスは怒鳴った。
「三年前だぞ!今までなんで黙ってんだよ!って言うか、今までの戦いはどうしてたんだ!?」
レイムは、顔をフードの下に隠し、消え入りそうな声で白状した。
「フリ……。魔法、使った……フリ」
その瞬間、壁に叩きつけられていた戦士ガリウムが、痛みをこらえながらも呻き声を上げた。
「それでか!なんか俺ら、すごい苦戦するし、レイムに『魔法で攻撃力アップしたよ!』って言われても全く実感ないと思ったら!!」
ガリウムの言葉は、レイムの告白の信憑性を強固なものにした。三年間、最弱パーティーと言われ続けていた理由が、今、明確になった。
「せめて、もっと早く言ってくれ!」
アレスは拳を握りしめた。三年の苦労、幾多の死闘、そして今、魔王城に辿り着いたという奇跡的な達成感が、音を立てて崩れ去る。
「く、くくく……ふふふふ!」
リーグリースの笑い声は、もはや止まらない。
「魔法使いが魔法を落とす?三年間もそれに気づかない勇者パーティー?史上最低の茶番ね!」
「アレス、一旦、引きましょう」
冷静な声が響いた。僧侶ラザロだ。彼は現状を即座に判断し、撤退を促す。
「ダメだ!扉が開かない!」
アレスが振り返って扉を確認するが、魔王城の強固な扉は、強大な魔力で閉ざされていた。
「出られないと言ったはずよ」
リーグリースが、トドメを刺すように冷たく言い放つ。
「仕方がない……」
ラザロは、諦めたようにため息をついた。そして、ローブの懐から、小さな木の葉の形をした、虹色に輝くアイテムを取り出した。
「魔王城からも脱出できるという、高級アイテムをここで使うことになります」
ラザロは、リーグリースの目をまっすぐ見据えて宣言する。
「ウイングリーフ。さようなら、魔将」
その言葉と同時に、ラザロはアイテムを空中に放り投げた。
勇者一行は、強烈な光に包まれた。
「逃がすか!」
リーグリースが焦燥した声を上げるが、光は一瞬で広間を覆い尽くす。
次の瞬間、広間には誰もいなかった。
勇者一行は、魔王城の強大なプレッシャーから解き放たれ、再び、冷たい風の吹く魔王城の外に立っていた。




