Scene 3: ギルドの受付嬢、ライラ
レイムとリムは、軋む音を立てて扉を開き、ギルドの中に入った。
中は外観以上に酷かった。完全に閑散としていて人気がなく、埃っぽい。三年前の喧騒は、まるで嘘のようだ。
レイムは、本能的な不安からリムの背中にちょっと隠れ気味に奥へと進んでいく。
(なんだろ……完全に別空間……三年前とも、街の活気とも切り離されてる……)
その静寂を破ったのは、カウンターの奥からの声だった。
「なんだい、あんたらこんなところに!子供が来るようなところじゃないよ!」
レイムが驚きながら声のする方を見ると、受付カウンターの向こうに女性が一人、だらしなく座っていた。その女性はやさぐれた雰囲気で、酒瓶を片手にレイムたちを見ている。
「子供じゃねぇよ」リムは冷静に返す。「ちゃんとギルドに登録されてるし」
レイムは、その女性を見て、強い違和感を覚えた。
(……なんか……見た事ある……ような……)
レイムは必死に記憶をたどる。アレスたちとのギルドの受付に来た時の光景が、頭の中で再生される。
レイムの頭の中に浮かぶのは、明るい笑顔のかわいらしい女性。
*回想**
「ギルドの受付のライラと言います。今日は登録ですか?」
当時のライラは、とっても素敵な笑顔で、丁寧にアレスたちに対応していた。
*回想、終了。*
目の前にいる、酒瓶を抱えた、やさぐれた女性。
レイムの頭の中で、二人の画像が重なっていく。
「あの時の……」
レイムは、確信めいた声で尋ねた。
「あの……すいません……もしかして、ギルドの……受付の……ライラ……さん?」
女性は、自嘲気味に笑った。
「そうだけど、なにか?」
レイムは、すっかり別人になってしまったライラに、ただただ驚愕した。
「なにか?じゃねぇよ」リムが苛立ちを露わにする。「俺たちは落とし物探してんだよ。この辺に魔法落ちてなかったか?」
ライラは、酒瓶の口を拭う。
「魔法?そんなのあるわけねぇだろ。こんな所に誰も来るわけないんだからさ」
「最近じゃねえんだよ」リムは説明した。「三年前に落とした魔法がこの辺にあるって地図に出てんだよ。どっかに保管してねぇかって聞いてんだよ」
「そんな昔の事なんか知らないよ」ライラは吐き捨てるように言った。
レイムは、変わり果てたライラと、荒廃したギルド、そしてリムの交渉という、予想外の展開に、ただただおろおろして、事の成り行きを見守るしかなかった。
そのとき、レイムの視線が、ライラの背後、受付カウンターの奥にある壁面看板に固定された。そこには、冒険者の心得や、ギルドの基本理念などが古くから書かれていたはずだ。
レイムは、その看板に書かれた文字が、どこか見覚えのあるものだと気づいた。
「あっ……あれ……」
その文字は、彼女の魔導書のページを構成する、魔法の文字と酷似していた。




