Scene 6: 無数の赤い点
ロウゼリアの町外れ。レイムは、起動した魔導書の背表紙に映し出された世界地図を見つめていた。
「いいか、地図の黄色い点のあたりを指で触ってみろ」
リムは、レイムの指を誘導した。
レイムが恐る恐る黄色い点を指で触れると、スーッと地図が拡大した。
「ここだ。この黄色い点がお前のいる位置」リムは説明する。
「で、右上の『魔法』と書かれたところを指で触れ」
レイムは、おどおどしながら、その**『魔法』の文字**を触った。
その瞬間、世界地図の上に、無数の赤い点が映し出された。その数は、星空のように画面を埋め尽くしている。
「……えっ!!」
リムは、思わず声を上げた。
「多くないか!? 赤い点、多すぎるだろ…… おまえ、どんだけ……」
「な、なに?何が?赤い点……多い……と、何かまずいことが……どうしよう!?」
レイムは、自分の落とし物の多さにパニックを起こし始めた。
「違う、まずくはない……が……」リムは愕然としたまま言葉を続ける。
「この赤い点すべてが、お前が落とした魔法だ。圧倒的に数が多いぞ。こんなに魔法習得している魔法使い……そういないぞ」
「……なんで?なんでこんなあちこちに散らばってるの?」
「あー……魔法は軽いからな。風が吹けば、どこまでもとんでっちまう」
リムは、頭をかいた。
「この感じだと、世界中のあちこちに散らばってそうだけど……問題は数だよ。お前、何種類魔法覚えてたんだよ!? 普通、どんな天才魔法使いでも、100はいかないぞ」
レイムは、自分の持つ魔導書(古い方だが)を見つめ、静かに答えた。
「多分……全部……世の中に存在する……限り」
「はあ!? そんなわけないだろ!」リムは絶叫した。「世の中に魔法がどんだけあると思ってるんだよ!1,000は優に超えるんだぞ! しかも、魔法との相性もあって、人によって習得しづらい物もあるのに……」
レイムは、不思議そうに首を傾げた。
「でも……全部……あるものは全て覚えたから……」
「マジかよ……」
リムは、信じられないという顔で、レイムを見た。この時代遅れの魔導書を持って、魔法の常識すら知らない「マヌケ」な魔法使いが、存在する魔法の全てを習得していたという事実。
「こんな時代遅れの魔法使いなのに……全部……全部かよ」
軽い気持ちで「手伝ってやろう」と思っていたリムの心に、あまりの魔法の数と、その回収の困難さから、大きな後悔の念が湧き上がったのだった。




