Scene 5: 世界地図(ワールドマップ)の起動
ロウゼリアの町外れ。レイムは、おっかなびっくり最新式の魔導書を抱えている。
「いいか、裏表紙に手のひらを置け」
リムは、諦めたように指示した。
「そうすれば、魔導書が起動する」
「起動? 起動って何?本だよね?魔導書って『書』って言うぐらいだし、本だよね?」
レイムは、魔導書がまるで機械のように扱われることに、強い抵抗を感じていた。
「本だよ!魔法でセキュリティのかかった本だよ! いいから、手を置けよ!」
「はぁ〜……」
レイムは、文句を言いながらも、恐る恐る本の背表紙に手のひらを置いた。
ピロン。
電子音のような軽い音とともに、魔導書が淡く青い光を放った。
「ひっ!光った……光ったよ……なにこれ……」
レイムは、本を落としそうになる。
「本を見ろよ!」
リムに促され、レイムがおそるおそる本を見ると――
魔導書の硬い背表紙には、立体的なホログラムのように、この世界の巨大な地図が浮かび上がっていた。レイムたちが三年間かけて回った七つの大陸が、鮮やかな色分けで表示されている。
レイムは、再び三年前の記憶に引きずり込まれた。
*回想(三年前)・ロウゼリアの町**
「……ねえ……次は……どこに向かうの……?」レイムが尋ねた。
「そうだな。装備は整ったし、このまま南に向かって真っすぐ行くか!」アレスは剣を手に意気揚々としていた。
「アレス、はやる気持ちはわかりますが、まずは地図を買いましょう」ラザロが冷静に水を差す。
「地図?いる?魔王城目指して真っすぐ進んだらいいんじゃないか?」
「その道が正しいかどうかわからないじゃないですか。そんなことでは、いつまで進んでも魔王城にたどり着けませんよ」
結局、彼らが購入した地図は、今いるラーザ大陸のほんの一部だけの紙切れだった。その先の地図は、行った先々で入手しなければならなかったのだ。
*回想、終了。*
「ね……ねねね、全世界の地図がここに……出てるんだけど……」
レイムは、唖然として、目の前の背表紙を指差した。
「いや、普通だろ」リムは言った。
「アレスたちと旅立ったときは……紙の地図……しかも付近のみ。紙の地図だよ!紙の!」
レイムは、手に持った魔導書の背表紙を凝視した。
「気が付かないうちに、魔導書一つで全世界の地図が……」
レイムは、最新技術の利便性よりも、自分がどれだけ時代遅れになっていたかという事実に、ただただ呆然とするしかなかった。




