Scene 4: 背表紙と、生体認証
ロウゼリアの町外れ。レイムは、新しい魔導書を胸に抱えながら、その使い方に戸惑っていた。
「……ねえ……ねえ……これ……」
レイムは、新しい魔導書の最後のページを指差した。古い魔導書では、予備のページが最後の機能だったからだ。
「最後のページ……これで魔法探せるの?」
リムは、呆れたように首を振った。
「違うぞ。おまえ、最新の魔導書にしただろ?」
リムは、レイムから魔導書を取り上げ、裏返した。
「新型魔導書は今回から、魔法を探す機能は最後のページじゃなくて背表紙だ」
リムは、魔導書の頑丈な背表紙を軽く叩いた。
「背表紙を見ろ」
「え……違う……の……」
レイムは、混乱で目眩がした。三年間、たった一冊の魔導書しか知らなかった彼女にとって、すべてが急激に変化しすぎている。
「なんか……無理かも……ねえ、リム、やって」
レイムは、魔導書をリムに差し出した。
「無理だ」リムは即答した。
「どうして?」
「最新の魔導書は生体認証がついてるからな」
リムは、背表紙を指差した。よく見ると、微かに魔力の紋様が刻まれている。
「持ち主の魔力と生体情報が登録されてるから、持ち主しか使えない。魔法も落ちるようなこの時代、セキュリティーは大事だからな」
その言葉は、レイムに決定的なショックを与えた。
「私が知らないうちに……知らない世界になってる……」
レイムは、自分が魔王城へ到達した勇者パーティーの一員であるにもかかわらず、平和な町の十代の少年よりも世界の現状を知らない時代遅れの存在になってしまったことを、痛感したのだった。




