Scene 3: 魔導書変と、古き良き威厳の喪失
「ふっふふふ...ふふ…」
レイムは、先ほどまで恐る恐る入った魔導屋から、今度は満面の笑顔で出てきた。真新しい魔導袋を腰に下げ、最新式の魔導書を胸に抱いている。
「あーもう、考えられん」
リムは、レイムの隣を歩きながら、信じられないという顔で愚痴をこぼした。
「こんな何にもわからんやつが最新の魔導書って……!全然、せっかくの機能使わなそうだし!しかもお城が2、3個買える金持ってるとか!」
レイムは、リムの小言を気にも留めず、新しい魔導書を手に持ち、そっとリムの前に差し出した。その笑顔は、純粋で無垢な子どものようだ。
「……ねえ……どうやって使うの?」
「古い魔導書から引き継ぐって言ってたけど……どうするの?」
レイムは、不安そうに眉を下げた。
「お金払ってやってもらったほうが良かったんじゃないかな?なんか怖いよ」
レイムは、不安のあまり、買ったばかりの魔導書を手に店に戻ろうとした。
「待て待て待て!」
リムは慌ててレイムの腕を掴み、引きずられながら必死に叫んだ。
「無駄遣い!無駄遣い! できるから!できるから、簡単にすぐにできるから! ちょっと待て、そして落ち着け!」
「ほ、本当……本当に?」
レイムは、疑心暗鬼の目でリムを見つめた。
「信じちゃうよ? 本当に信じちゃうよ。期待しちゃうよ」
リムは、レイムの過剰な反応に呆れながらも、諦めの表情で指示した。
「わかった、わかった。そんなに大変なことじゃない。ちょっとそこに魔導書並べて」
レイムは言われた通り、古い魔導書と、新しい黒い表紙の魔導書を地面に二冊並べて置いた。
リムは、儀式を始めるように、古い魔導書に左手を置き、新しい魔導書に右手を置いた。
そして、何かを口の中で呟くように呪文を唱える……その瞬間、二冊の魔導書が一瞬、淡い光を放った。
「ひっ……!」
レイムは、突然の光に、驚き、恐れおののいた。三年間、戦闘のフリをしてきた彼女にとって、目の前で起こった魔法現象は、もはや恐怖でしかない。
「光った……光ったよ! や、殺られるよ! 殺られる前に、やらなきゃ!」
レイムは、力(STR)530の剛腕を振り上げそうになったが、リムが慌てて制した。
「落ち着け!落ち着け! 単なる魔導書の引き継ぎだ。殺られる要素は全然ない!」
リムは疲弊しきった顔で手を離すと、新しい魔導書をレイムに渡した。
「ほら、これで終わりだ。お前の魔導書のデータは全部こっちに移った。魔法探しの機能も使えるようになってる」
無事に新しい魔導書がレイムの手に渡った。
レイムは、それを抱きしめ、まじまじと見つめた。
「これが最新の魔導書……なんか……こう……古からの威厳とか……風味……みたいなのはないのね……」
リムは頭を抱えた。
「あのな!世の中どんどん進化してんの! 古いもののほうが良いとか、そんなわけないんだよ!」
「はあー……」
レイムはただただ感心するだけだった。魔王城に辿り着いた勇者パーティーの魔法使いは、現代の魔導具の進化のスピードに、ただ打ちのめされるのだった。




