Scene 2: 魔導屋と、億万長者の魔法使い
ロウゼリアの町の一角。そこには、周りの商店とは一線を画す、こぎれいな建物があった。窓枠は磨かれ、扉には魔力を示すシンボルが描かれている。ここが、魔法使い御用達の**魔導ショップ、『魔道屋』**だ。
レイムは、建物の前で立ち止まってしまった。
「……こんな……きれいな建物……中……入っても大丈夫なの?」
「大丈夫以外の何がある?」リムは呆れたように言った。「魔法使いならみんな来てるし、早くしろよ。時間がないんだ」
レイムは、恐る恐る中に入る。
店内は、壁一面に様々な装丁の魔導書が整然と並べられており、独特の魔力の香りが漂っていた。奥のカウンターには、上品な制服を着た女性が立っている。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で」
女性の丁寧な応対に、レイムは再び気後れした。
「いや……あの……魔導書を……こう……あれして……」
「?」女性は首を傾げる。
しびれを切らしたリムが、レイムを押し出すように前に出た。
「魔導書変したいんだけど。この古い魔導書でも大丈夫なのかな?」
女性はレイムの持っていた分厚い魔導書を見て、驚きを隠せない様子で言った。
「これは……また古……いえ、だいぶ使い込まれた魔導書ですね。魔導書変は可能ですが、一部、魔力が古すぎて魔法が移し替えられないかもしれません」
「あっ、大丈夫です」リムはあっさり言った。「どうせ今、魔法全部落としてきちゃってるんで」
女性は目を丸くした。
「えっ……今どき、そんな人……いるんですか? 魔導袋とかも当店で販売してますけど……?」
リムはカウンターに肘をつき、レイムを一瞥して答えた。
「ええ……いるんです、そんな人が」
レイムは、自分が話題の中心になっていることに耐えられず、気まずく恥ずかしい気持ちで目を伏せる。
「それも欲しいんですけど……」リムは続ける。「そういえば、レイム。おまえお金とか大丈夫なのか? 予算は?」
レイムは、懐に手を当てて、平静を装う。
「……おっ、お金……お金ね……大丈夫、全然気にしなくて大丈夫。一応、三年間の冒険でしっかり稼いでいるので……」
レイムは、勇者パーティーの中で、最も地味な存在として、食事代や消耗品代を最も細かく管理し、一円たりとも無駄遣いをしてこなかった。
「どれぐらいあるんだよ」リムが尋ねた。
レイムは、三年間一度も使わなかった貯金額を思い浮かべ、ごく普通のことのように答えた。
「……多分……お城が2、3個買えるぐらい……」
沈黙。女性店員は微笑みを引きつらせ、リムは完全にフリーズした。
「はい!? おまえ、どんな金持ちだよ!」
リムは、目玉が飛び出そうな顔で叫んだ。レイムは、三年間、魔王城へ到達するまでの冒険で、途方もない金額を稼ぎ、それを一切使わずに貯め込んでいたのだった。




