Scene 12: 実際には戦ってるフリの魔法使い
リムは、レイムの呆然とした顔を見て、改めて心底呆れたような表情を浮かべた。
「しかし……お前みたいなマヌケ、初めて見たぞ」
リムは鼻を鳴らす。
「今どきなんの対策もしてないし、魔導書一冊分全部魔法落としたやつなんか見たことないぞ。普通、一個や二個だ」
「そっ、そんなこと無い!」
レイムは顔を赤くして反論した。
「言い出すタイミングとか、人に聞くタイミングを見失っていただけ……だもん!」
(まさか三年間もフリを続ける羽目になるとは思わなかったんだから!)
レイムは、プライドと羞恥心でいっぱいの状態で、根本的な疑問を口にした。
「そ、そもそも対策って何よ?」
リムは、まるで未開の地の住人を見るかのような目をした。
「みんな、魔法の力で作った魔導袋に入れてるに決まってんだろ」
リムは自分の腰につけた小さな袋を指差した。
「魔法の文字は、定期的に魔力でコーティングしないと剥がれ落ちるんだ。だから、常時魔力を流し込む魔導袋に入れて持ち歩く。そんな剥き出しで魔導書持ってるやつなんか、今時いないぞ!」
「まあ、魔導袋を定期的に交換し忘れて、今回の俺みたいに一個二個魔法落とすやつはいるけどな。お前みたいに全部落とすやつはいないぞ」
リムの言葉は、三年間、レイムが一人で抱え込んできた罪悪感と恥ずかしさを、さらに増幅させた。
「しっ、知らなかったんだもん……」
レイムは肩を落とし、縋るような目をした。
「私の落とした魔法……全部、探せるかな……?」
リムは、再びため息をつき、レイムに向かって手を差し出した。
「本当になんにも知らないんだな……もう!魔導書貸して」
レイムは戸惑ったが、リムが自分の魔法文字を盗まなかったことから、彼を信用することにした。
「しっ、仕方がないわね……」
レイムが渋々魔導書を渡すと、リムはそれを受け取り、分厚い本の最後のページを開いた。
「だって……ずっと冒険して戦ってたし……戦いじゃないことは……わか……らないわよ!」
(実際には戦ってるフリ……だけど)
レイムは、心の中で三年間で培った「言い訳力」を最大限に発揮した。その一方で、リムが魔導書の最後のページを開いたことに、レイムは違和感を覚えるのだった。




