Scene 9: 魔法泥棒と、現れた少年
レイムは、手のひらに乗せた「ファイア」の魔法文字を、どうすることもできずにローブの内側にしまい込んだ。次の手がかりを探すため、意を決して次の場所へ移動しようとする、その瞬間――
「あーっ!! 魔法泥棒!!」
甲高い叫び声が、静かなダンジョン入口に響き渡った。
レイムは驚いて声のする方を見る。そこには、歳は十歳くらいだろうか、黒髪ボサボサ頭の少年が、鬼のような形相で立っていた。少年はレイムの懐を指差し、怒鳴りつける。
「俺の魔法盗むんじゃねーよ!魔法泥棒が!!」
「な、な、な、なに! なによ急に!」
突然の罵倒に、レイムは反射的に弁明した。
「ぬ、ぬぬぬっ……盗んでないわよ! これは……私の魔法……三年前ここに落とした……」
少年はレイムの言葉を一蹴した。
「そんなわけねーだろ!そんな前に落とした魔法がいつまでもあるわけないじゃん!」
少年は目を細め、レイムの行動をじっと観察していたことを示す、決定的な証拠を突きつける。
「それに!だって魔導書に魔法戻んねーじゃん! 必死にペタペタしてたの見たぞ!」
「ッ!」
レイムは言葉を失った。魔法を盗んだという少年の主張は理解できないが、彼が魔法文字を魔導書に戻す方法を知っている可能性を示唆している。
レイムは、一瞬の戸惑いを捨て、少年の両肩を掴んで前のめりになった。その腕に込められた力(STR)530の剛腕で、少年は逃げられない。
「ちょ、ちょっと待って!戻る? 戻せるの?」
レイムの顔は真剣そのものだ。人類の命運がかかっている。
「どうやって戻すの!? ねえねえってば!!」
レイムは、必死に、そして強引に、その少年から情報を聞き出そうとするのだった。




