Scene 6: 寄り道と、初期の薬草
ダンジョン内部
レイムは、ゴブリンを粉砕した右手を震わせながらも、覚悟を決めてダンジョンの奥深くへと進んでいった。
(「力」が上がってるのは分かったけど、別にこの力が魔法を拾う助けになるわけじゃないし……)
彼女は慎重に、床に何か落ちてないかと目を凝らす。しかし、あるのは苔むした岩と、魔物の糞らしきものばかりで、「魔法」の痕跡らしきものは一切見つからない。そもそも、**「魔法の痕跡」**とは一体何なのか、レイム自身にも定義できないのだ。
しばらく進むと、レイムはひとつの分かれ道にたどり着いた。
「ここだ……」
三年前、アレスたちと初めてここで立ち止まった記憶が蘇る。
(あの時、アレス、ラザロと三人で迷った挙句、左に行ったんだ。そのまま先に進めたから、右には行っていない……)
「落とした魔法探し」という目的を考えれば、三年前の自分たちが通った左のルートを辿るべきだろう。
だが、レイムの心は、誰も知らない右の通路へと惹きつけられていた。
(右……何があるんだろう……?三年前、アレスが『魔王討伐には関係ない』って言って行かなかった道……)
旅の目的は、魔法を探すこと。でも、三年間「魔法使いのフリ」をして、ひたすらアレスとラザロの決定に従ってきたレイムにとって、**自分の意志で進む「寄り道」**は、抗いがたい魅力を持っていた。
「……右、行っちゃえ!」
レイムは意を決し、右の通路へと足を踏み入れた。
時折、ゴブリンやスライムといったモンスターが出てきたが、レイムは恐怖心を押し殺し、強化された**「力(STR)530」を活かして、それらを難なく撃退**していった。
右の通路をしばらく進むと、ダンジョンは行き止まった。
しかし、その奥には、岩の陰に隠れるようにして、宝箱が一つ置かれていた。古びており、何年も開けられていないかのように埃だらけだ。
レイムは、警戒心を抱きつつも、そっと宝箱の蓋に手をかけた。
カタリ。
古びた音を立てて宝箱が開いた。中から出てきたのは……
「あ……」
それは、薬草だった。
緑色の葉が数枚。冒険者なら誰もが知っている、初期の薬草だ。体力がちょびっとだけ回復する、まさに旅の始まりに必須のアイテム。
(今じゃ、ラザロの回復魔法の足元にも及ばない。何の役にも立たないけれど……)
レイムは、それを手に取る。
「あの頃だったら、この薬草ひとつで、みんな大喜びで大助かりのアイテムだったわ」
レイムは、初期の薬草を優しく撫でた。三年前、純粋に冒険を楽しんでいた頃の、小さな喜びの記憶が胸に広がる。
この薬草は、レイムの失われた「魔法」ではなかった。だが、レイムにとって、これは三年前の**「勇者パーティー」の希望の欠片**のように感じられた。
レイムは薬草をそっとローブの内ポケットにしまい、満足したように立ち上がった。
(寄り道、終了!)
彼女は来た道を戻り、分かれ道まで戻ると、今度こそ本来の目的の場所、左のルートへと進んでいった。




