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有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった  作者: すずと
三章

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第75話 記憶の桜吹雪

 奥に進む度、コウモリみたいな魔物が一気に増えて来た。


 数が非常に多く、なんだか無気味だ。


「ね、リオンくん。こんな魔物いたっけ?」


「見覚えはないな」


「だよねぇ」


 大量のコウモリ魔物は、さっきから俺達のところへ突進してくる。


 ま、その全てがフーラの炎の前で煙と化すけども。


「日が暮れたからではないか? ダンジョン内でも昼と夜では出現する魔物は変化すると言うだろ」


「確かに、ダンジョン試験の時も、俺が単独でここに乗り込んだ時も昼間だったな」


「しかし、この大量の数……誰かが操っている可能性もある、か」


 ルべリア王女が、赤い瞳を無気味に光らせるコウモリ魔物達を見て考えを漏らす。その考察にフーラが苦い顔をした。


「え……じゃあ、この奥に誰かいるってことですか?」


「わからんな。ただ可能性があるというだけだ。どちらにせよ、フーラ王女の魔法ならば関係はないがな」


 ルべリア王女の言う通り。


 味方ながら恐ろしいお姫様よ。


 ♢


 魔物が復活しようが、コウモリみたいな魔物が大量発生しようが、フーラの魔法で蹴散らして簡単に最深部までやって来る。


「最深部に着い──うっ!?」


 フーラが異変を察知したかのような声を出した時、釣られて俺とルべリア王女も「うっ」と声を漏らしてしまう。


 異臭だ。物凄い異臭。血の匂いと死臭が混じったむせかえる激臭。


「──ようこそ。リオン・ヘイヴン一行」


 吐き気を催す最深部の天井から、甘い声が聞こえて来る。


 逆さにぶら下がる黒い影。その闇から赤い閃光が二つ光る。


「いや、勇者一行と言った方が正しいのかな」


 赤い閃光がウルティムを捉えた。


「セレス・アルバートよ」


♢ウルティム視点


 赤い二つの閃光がぼくを捉えた。


 見ていると体の中が熱くなる。嫌な熱さだ。


 ぼくはこの嫌な熱さを覚えている。


 まるで溶岩の中にでも投げ込まれたかのような灼熱。息が苦しくなる。


「はぁ……はぁ……」


 息が荒くなり、汗が滝のように出て来てしまう。


「セレス・アルバート」


 聞き覚えのある甘い声。だけど嫌な声。


 身の毛がよだつその声が呼ぶ名前。


 セレス・アルバート……。


「──うっ」


 脳内が直接揺らされたかのような衝撃。


 木々のざわめきみたいに、ぼくの脳内が揺れる。


 脳内に桜の木が見える。桜の花びらが舞う。その花びらが地面に落ちると同時に、視界が揺れた。


「ウルティム、大丈夫か?」


 どうやらぼくはマスターに寄りかかってしまったらしい。


 腕に支えられた瞬間、じわり、と胸の奥が熱を帯びる。


 太陽だ。


 影に覆われていた部分が、焼かれ、真実という記憶の桜の花びらが脳内を舞う。


 一枚、また一枚。


 花びらが光に透けるたび、そこに映る光景が、ぼくの中へと流れ込んでくる。


 ♢


『セレス……愛してる……』


 その言葉と共に、ぼくと似た少女が、ぼくの胸を剣で貫いた。


 でも不思議と痛くなくて。むしろ太陽みたいに温かい。


『世界最悪の剣、セレス・アルバートを処刑とする』


 次に舞う桜の花びらにはなんとも残酷なシーンが描き出されていた。


 処刑ってなんだ? どうして……?


『我が死んだとして、世界が平和になるとは限らないぞ』


 魔王……? 世界を我が物にしようとした魔王を倒した? ぼくが……?


『アルバート王国が姫君、セレス・アルバートを、この世界の希望である勇者に任命する』


 多大なる賞賛の声。ぼくを崇める民。


 勇者……? ぼくが……? ぼくは……勇者……?


 この桜の花びらに描かれたシーンはぼくの記憶なの? 


 教えてよ。ぼくの記憶の隣にいる、ぼくに似た少女。


『魔術について教えて欲しいの?』


 そうやって聞き返してくる、ぼくに似た少女。


『うん。ぼくに魔術を教えてよ、マリン』


 マリン……。マリン……? そう、マリン・アルバート。ぼくの双子の姉。大好きなお姉ちゃんだ。


 マリンの名前を思い出した瞬間、脳内に桜吹雪が舞った。


 彼女との思い出が一気に蘇ってくる。


『魔法と魔術の違いってなに?』


『前にも言ったけど、わたしは転生者だよ。まだこの世界のことを全然知らないのに、そんなことわかんないよ』


『転生者だろうがなんだろうが、ぼくを魔人化から救ってくれたマリンの魔力のことを、魔術のことを知りたいんだよ。マリンが治してくれてから、ぼく、なんだかとっても強くなった。強くなりすぎて、世界を救う勇者になっちゃうかも』


 魔人化……そうだ、魔人化だ……。


『くくく……王族の血は実に良い。理性のある我の兵にできるからな。喜べセレス・アルバートよ。お前は知性を保てたまま、我が眷属となれるのだっ』


 赤い閃光。黒い影。そいつがぼくの中に血を流し込む。


『ぐっ……あ……ああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


 ♢


 ぜぇ、はぁ……。思い出の中から脱し、視界に入るのは赤い二つの閃光。黒い影。


 あれは……ぼくを勇者に仕立てあげた元凶。ぼくを魔人化した魔族のクソ野郎。


「ヴァ、ンパイア……ッ!!」


 記憶が戻ると、一気に怒りが溢れ出る。


 まだ生きていたか。


 昔、殺してやったはずだが……。


 良い。別に良い。


「もう一回、殺してやる」


 ぼくはマスターから借りている剣を握ると、雷を纏って一気に天井まで駆け上がった。


「──ッ!?」


 フードの中の赤い閃光が大きく見開いているのがわかる。


 だが、ギリギリのところでかわされてしまい、剣は空を斬り、その場には雷だけが残った。


「久しぶりの再会だと言うのに、せっかちな奴だ」


 そのまま奴は地上に着地した時、フードがはだけて素顔が露わになる。


「我が素顔を晒してしまったか……この間振りだな、リオン・ヘイヴン」


「正体を隠さずとも、あんたがあの露店の美青年店主だってことはなんの意外性もないよ」


「流石はマリン・アルバートと同じ、転生の魔力の持ち主。鋭い着眼点だ」


「褒めてくれてんだろうけど、内輪ネタの意味深発言やめろ。こっちサイドは意味わかんねぇって言ってんだろ」


 マスターがいつもの調子でヴァンパイアと会話をしているところ、ぼくも地上に着地して、一気にヴァンパイアへ斬りかかる。


 しかし、ジャンプでかわされてしまい、再びヴァンパイアは天井にぶら下がる。


「勇者セレスよ。随分と弱くなったのではないか? それとも、一〇〇年も眠っていたから、まだ目が覚めていないのか? 眠気覚ましにまた魔人化をしてやっても良いぞ。ふはは!!」


 煽るようなセリフにぼくからも冷笑をプレゼント。


「ふっ。お前の場合、別人のように弱くなっているぞ。さっき、ぼくの攻撃にビビった顔をしていたのがその証拠だよ」


「別人のように……なるほど、そう返してくるか。よかろう。もう一度魔人化されたいらしい」


 パチンと指を鳴らすと、壁から、地面から、天井から、ダンジョンの入り口にいた魔物や、さっき大量発生していたコウモリ。そして、人の形をした化け物が出て来る。


「これは……!?」


 フーラとルベリアはさほど驚いていないのか、マスターだけが目を見開いて驚きの声をあげた。


「おそらく、このダンジョンにいた魔物や、そもそもの奴の眷属。そして、アルバートで行方不明者になった人達。あいつは……ヴァンパイアは生き物を魔人化させる能力がある。ぼくも昔、あいつに魔人化させられたことがある」


 こちらの説明にマスターは目をぱちくりさせていた。


「ウルティム、お前……記憶が……」


「説明はあと。今はあいつを倒すことを先決しよう」


 そう言ってぼくは無数に出てくる普通の生き物だった者達を容赦なく斬り刻みながら進む。


 元勇者として、なんとも無慈悲な行動だとはわかっている。


 だけど、もう、彼等は死んでしまっているのだろう。


 普通の人間は、ヴァンパイアの血を飲まされると、魔力が暴走して死んでしまう。だからヴァンパイアは、手駒にするために殺してから血を飲ます。そうすることで物言わぬ、ヴァンパイアの兵の完成だ。


 だからこそ、ぼくは一刻も早くヴァンパイアを倒す。そうすることが彼等の救済になるだからだ。


「ヴァンパイアあああああああ!!」


「一〇〇年振りの戦いといこうか、勇者セレスよ」

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