第74話 もう少しで思い出せそうな時ほど思い出せない
勢いそのままに俺達は、アルバート魔法学園のダンジョン試験を行ったダンジョンにやって来た。
あまり良い思い出なんてないこのダンジョンだが、夕焼けに染まるダンジョンを見ると、綺麗と素直に思ってしまう。
とかなんとか、魔物には関係ない。人を見つけたら襲いかかって来やがる。
「はあ!! やあ!!」
フーラが持っていた剣を試すように振るう。
まだ拙い振り方だが、剣が良いのか、魔物が弱いのか、簡単に真っ二つに斬っちまった。
「見て見て!! 私、剣のセンスあるかもっ!!」
Vっとかわいくピースサインをかましていらっしゃいます。
「見事だ、フーラ王女。初めてなのに筋がある」
はしゃぐフーラを、ルベリア王女が素直に褒めてあげている。
「このまま剣を磨けば世界を救った勇者みたく、魔法剣士になんておとぎ話みたいな存在になれるんじゃないか?」
「私が勇者様みたいに……えへへー」
なんかやたらめったら嬉しそうにしているところを、ジーッとウルティムが見ていた。
「どう? ウルティム。勇者フーラの誕生だよ」
「フーラが勇者とかアルバート末代の恥」
「んだと、ごらあああ!!」
あいつら仲良いなぁ。一緒に暮らしているからだろうか。
「──ッ!? 危ないっ!!」
話しの最中、真っ二つにしたはずの魔物が復活を遂げ、フーラとウルティムに襲いかかる。
それをルベリア王女が素早い剣撃で原型なく斬り刻んでみせた。
「この魔物、復活したぞ」
こちらのリアクションなどお構いなしに、ルべリア王女が斬り刻んだはずの魔物がまた復活しちまった。
「ッ!!」
今度は俺が持っていたウルティムの剣で魔物を斬る。
じゅわっと灼ける音がして、魔物は煙と化して消えていった。
「リオン。ここの魔物は普通じゃないのか?」
確かに、フーラ、ルべリア王女、俺という三回でようやく倒せた。
「いえ……前に来た時はこんなんじゃなかった」
以前はヴィエルジュとフーラの魔法で倒せたし、俺が単独で来た時も一太刀で倒せたはずだ。魔物の見た目も以前と同じ……。
「フーラ。剣の練習はまた後日付き合うから、今日は前みたいに魔物を近寄らせないでくれ」
「剣デートの言質取ったからね」
イタズラっぽく言うとフーラは剣を納刀し、彼女を中心に炎が巻き起こる。
辺りの魔物が消えて灰になっていく。
「さっ。行こう♪」
「流石は本職の魔法使い。物凄い魔法だ」
ルベリア王女。これは魔法なんてレベルじゃないんよ。こりゃただのチートだ。
♢
チート姫様を先頭に、戦闘にならない勝負が自動で決着していく。
これ、経験値とかがあるゲームなら自動で経験値が増えて、勝手にレベルが上がっていくやつだな。
近付く魔物は勝手に焼却され、簡単に古代文字が書かれている壁を見つけた。
「ルベリア王女。読めます?」
「ええっと、だな──『く……ろ……?』ここら辺は掠れて読めんな……えー、これは……『まり……』ええっと、『まじゅつ……おしえ、て……』かな」
おおー!! パチパチパチパチ。
古代文字を読んでくれたルベリア王女へ、自然と拍手をしてしまう。
「ふっ。こ、こりぇくらい、よゆーだぞ」
あまり褒め慣れていないのか、ルベリア王女ったら照れ臭そうに噛んじゃった。
「でも、あんまり意味はなさそうだね」
「字も拙い。当時の幼子の落書きかもしれん」
「ってことは、このダンジョンには昔、誰かが住んでいたってことですかね」
「可能性はあるだろうが、これだけじゃなんとも言えん。他にこのダンジョンに古代文字はないのか?」
確かにこれだけじゃなんにもわからんね。
とは言ったものの、あったかなぁ……。
ここら辺でロマン感じるわぁとか思ってただけだし、あんまり意識してダンジョンを見てなかったからなぁ。
「そういえば……学術の杖があったところに、古代文字があったような……なかったような……」
フーラが絞り出すかのように言っているけどさ。
「あったっけ?」
「私も曖昧なんだよね……」
うーん、うーんなんてフーラと二人で唸るが答えは出ない。
「わっかんないから、とりあえず行ってみよー」
性格がガンガンいこうぜのフーラはとりあえず行動って感じ。嫌いじゃないぞ、その性格。
「フーラ王女の魔力は持つのか? これほどの魔法なら、魔力消費も激しいと思うのだが……」
「私ならぜんっぜん余裕です♪」
Vっとルべリア王女へしてみせるその顔には、言葉通りの余裕しか見えなかった。
「フーラ王女が良いのなら、私も奥に進むのは賛成だ。他の古代文字も気になるからな」
「だったら行きまっしょー」
元気いっぱいに炎を撒き散らしてフーラが先陣を切っていく。言葉通り、まだまだ余裕っぽいね。その後を苦笑いを浮かべながらルべリア王女が続いて行った。
「……」
「ウルティム? どしたん?」
二人が先に進んだってのにウルティム奴は、ジーッと古代文字を見つめてやがる。
「マスター。この文字、ルべリアは『まじゅつ』って言ってたよね?」
「んぁ? ああ、そう読んでたな」
「魔法じゃなくて魔術……なにが違うの?」
「おいおい。騎士の家系の俺にそんなことを聞くのはお門違いってやつだぜ」
「マスター。魔法学園の生徒……」
「お前もだぞ」
自分のことを棚に上げているウルティムは、無表情を少しばかり曇らせた。
「なんか……昔、マスターとこんな会話をした気がする」
「まてまて、俺等は出会って間もない……って、そりゃもしかして、前のマスターとかそんなノリ?」
「前のマスター……? いや、ぼくに前のマスターなんていない」
「それは断言できるんだな」
なんか自信たっぷりに否定しているが本当かね、この子。
「だったら……ウルティムが俺に似た誰かとそういう会話をしたとかじゃないか」
「それ」
「手をパチンと叩く割に無表情だから、きみのテンションが上がったのかどうか判断がつかない」
でも、この感じはなにか思い出そうとしているのではなかろうか。
「この字も、なんか……見覚えあるような……うぬぬ……なんか思い出せそうで思い出せない……」
「めっちゃ大進歩じゃねぇかよ。つうかここってウルティムが眠っていた場所だもんな。奥に行けばなんか思い出せるかも。行こうぜ」
「うん」




