第73話 何回行くんだよ……
「ちょっと時間かかるから、街でも見て時間潰しといてくれ」
エスコルさんに言われて、俺達は店の外に出た。
「フーラ。超かっこいい」
「ウルティムのコーディネートのおかげだよ」
「ぼくのセンスはピカイチ」
「ピカイチ過ぎるよぉ」
二人は子供みたいに店の外でもはしゃいでいた。
オモチャ屋で買ってもらったオモチャを、家まで我慢できずに外で遊ぶ子供みたい。
そんなに嬉しかったのね。
「ルベリア王女。ありがとうございます」
「構わん。気にするな」
いや、涙目で財布を気にしているのに気にするなってのは無理だろ。気ぃ使うわ。
「お金は後日返しますね」
ピクリと眉が動いた。
「いらぬ」
あ、強がった。
「いや、でも……」
「あ、あなたは……その……」
ルベリア王女はいきなり、もじもじし出した。なんかクール系女子がデレた感じを出してくる。
「あたしの婚約者だし……二人のお金だから……」
「ぬぬぬ!?」
聞き捨てならない!!
ウルティムとふざけていたフーラが、ルベリア王女へ詰め寄った。
「お言葉ですが、リオンくんと先に婚約しているのは私です」
「後先というのはあたしには関係ない」
「私にはありますー。リオンくんは私のリオンくんだもん」
言いながらフーラは俺の左腕に抱きついてくる。
「リオン。あたしを選んではくれないのか?」
俺の右手を握り、潤んだ瞳で上目遣いで見てくる。
「ルべリア王女。『悶絶確定。彼ピを沼らせる激モテ指南書、虎の巻』を読んだでしょ?」
「な、なぜそれを──はっ!?」
うわー。あれって全国発売してるんだぁ。
「おーっほっほっほっ」
左隣から悪役令嬢みたいな笑い声が聞こえてくるんだが。
「ルべリア王女如きの沼らせビームなんてリオンくんに効きませんよ。こうやるんです」
フーラが上目遣いで見てくる。
「正直、めっちゃ効く」
「ふふっ。リオンくんったら、私の上目遣い、好きだよね♡」
俺とフーラのやり取りを見ていたルベリア王女が、握った手に力を入れる。
「痛い痛い痛い。ルベリア王女。痛いです」
「くっ……殺せ……」
「違う違う違う。あんたが俺を殺そうとしてんぞ」
「あたしは『悶絶確定。彼ピを沼らせる激モテ指南書、虎の巻』を使ってもリオンを悶絶させれなかった。結婚する資格はない。殺せ……」
「いだあああ!! いだい、いだい、いだいいい!!」
俺の断末魔の叫びを上げてもルベリア王女は離してくれなかった。
♢
酷い目にあった。
ふーふー、と自分の右手に息を吹きかける。
「大丈夫? マスター」
「大丈夫じゃねぇよ」
「あはは。すまない、リオン」
「ルベリア王女が元気そうでなによりですよ」
「ああ。リオンが救ってくれたからな」
嫌味ったらしく言ってやったつもりだが、ルベリア王女には効かなかったみたい。
「まだあたしからちゃんと礼をしていなかったからな。さっきの支払いはその礼だ。もちろん、こんなもので礼を返したつもりはないぞ」
それと。
ルベリア王女がフーラを見る。反射的にフーラが身構えちゃった。
「フーラ王女もあたしを救出してくれたみたいだ。その剣はその礼ということにしておいてくれ」
予想外の言葉にフーラは拍子抜けしたみたい。緊張を解き、いつもの笑みを見していた。
「ありがとうございます。でも、リオンくんとの結婚は譲れませんからね」
「ふふ。わかっている」
軽く笑いながらルベリア王女はフーラの持っていた剣を見つめた。
「それにしても、土産の割には良い剣を選んだみたいだな」
「ぼくが選んだ」
「ほぅ。見る目がある。流石は世界最悪の剣というわけか」
ステラシオンでも、ルベリア王女だけはウルティムの事情を知っている。まぁ彼女はガッツリ関わっていたから隠すことでもない。
「センスは世界最高」
「この剣を選ぶとは、もしかしたらウルティムは騎士団長レベルの猛者だったのかもな」
「ルベリア王女。俺も、この子が人間であったのなら、その可能性もあると思っておりました」
主に偉そうな態度とかね。
「リオンもか。やはりあたし達は気が合う。結婚か?」
「ちょっと!! なんでそうなるのよ!!」
ワーワー、ガヤガヤとしていると、店からエスコルさんが出て来た。
「お前ら……時間潰しに行けって言ったのに、なんでこんなところにいんだよ」
ため息を吐かれたが、「ま、丁度良いか」と切り替えながらエスコルさんにみてもらった剣を渡される。
「調べたらその剣珍しいぞ。魔法が施されているみたいだ。普通、剣なんてもんは魔法が施されたら壊れちまう。レオンの剣みたく、それ専用に打った剣とかなら別だがな、だが、これはどっからどうみても普通のロングソードだ。魔法をかけた奴は相当の手練れと見た」
「どんな魔法かはわかります? 解除方法とか」
「そこまではわからん。現状わかるのは、壊れない程度の弱い魔法がかかっているってことだけだな」
弱い魔法がかかっている。ウルティムを封印するためのものだろうか。それとも、また別のなにか……。
その魔法を解除したら、ウルティムのなにかがわかるのだろうか。
「結構金を突っ込んでくれた割にこんな情報しか与えてやれなくてわりぃな」
「ありがとうございます、エスコルさん」
「またその剣を見て欲しかったらいつでも来な。もう金は取らねぇからよ」
アフターサービス有を言い残して、エスコルさんは店の中に戻って行った。
「……リオン。その剣の鍔のところに書いてあるのは古代文字か?」
「みたいですね……ルベリア王女は古代文字を読めたりします?」
「嗜む程度だが」
「うそ……じゃあ、この剣に書いてある古代文字を読んでみてください」
言いながら剣を渡すと、ルベリア王女はまじまじと文字を読み出した。
「『お、もい──』か? 掠れて読みづらいな」
「重い……」
剣の重量か? いや、それだったら軽い気がするけど。
なにかのヒントだろうか。『重い』が?
うーん……。
「あ……」
考え込んでいると、ふとフーラが声を漏らした。
「リオンくん。そう言えばこの文字、この前のダンジョン試験ので行ったダンジョンの壁に書いてあったよね」
「──書いてた」
フーラに言われて思い出すと、確かにダンジョン試験の時に、壁に似たような文字を見た。
「ルベリア王女が古代文字を読めるなら、なにかヒントが書いてあるかも」
「ふむ。役に立つことができるなら共に行こうか」
「良いんですか? 結構トラウマな場所とかになっていません?」
「自分が化け物の時にいた場所と思えば気味が悪いが、リオンの役に立てるとならば共に行こう」
そう言ってくれるのであれば話が早い。
俺達はウルティムが封印されていたダンジョンへ向かった。
って、あのダンジョンに何回行くんだよ……。




