第64話 実家なんてろくなことがない
ステラシオン王から論功行賞は受けた。受けたけど、あの王様は現場をカオスにするタイプだったらしい。おかげでまた面倒が増えちまった。
しかも父上から、「リオン。今日はヘイヴン家に戻って来い。話がある。もちろん、皆も連れて来て良い」とか言われたんだが。
いや、待って。どうせろくなことないって。わかってる。帰ったらやばそうなのはわかっているけど、父上には逆らえない。逆らったら異世界転生しちまうだろう。いや、また異世界転生できるかどうかはわからんが……。逆らえばおそらく俺は死ぬでしょう。
「リオン兄様ぁ? 真っ青だけど大丈夫?」
ステラシオン城からヘイヴン家へ向かう馬車の中、レーヴェが俺の様子を覗き込むように見てくる。
ちなみにメイド三銃士とは別の馬車。あいつら目がギンギンだったから、レーヴェが俺と無理くりに離してくれた。
「はは……燃え尽きたぜ……」
「真っ白じゃなく?」
「真っ青にな」
「ねぇ、そんなことよりも──」
「おい。兄様の顔真っ青よりも大事な話があるってか?」
「ルベリア王女の様子、変じゃなかった?」
流石ステラシオン。ゴリ押しで自分の疑問の念を俺にぶつけてくる。こうなったらレーヴェは止まんねぇぜ。
「まぁ確かに大人しかったな」
「でしょ。もっと活発で自分の意見を言うタイプだと思う。さっきも黙って王様のめちゃくちゃなことにもなに一つ文句言ってない。しかもリオン兄様に引っ付いていたし」
「まぁ王様が娯楽で決めた相手だとしても、王様から結婚しろって言われたから我慢してんだろ」
「リオン兄様のバカァ!!」
妹からバカを頂きました。耳が、キーンと鳴る。
「あれは恋する乙女の感じがビンビン出てたよ。この最高の妹、レーヴェの目は誤魔化せない」
ピッキーンと目が輝いて見える。流石色恋沙汰に敏感な年頃。レーヴェじゃなきゃ見逃しちゃうね。
「じゃあなにか? この愚兄のリオン兄様にルベリア王女が惚れるのは変ってか?」
「や、そうじゃないよ。そりゃ命を救ってくれた恩人に惚れる気持ちもわかる。だけどね、ちょっと惚れ方が異常かなぁ、と」
「まぁ、我慢はしてるだろうが、いきなり腕を組んでくるタイプには見えんもんな」
「でしょ」
「裏があって俺に近づいて来てるとか?」
「こっちの方が王族と結婚したメリットは大きいんだからそれはないと思うよ」
「それもそっか」
「あれは確実にリオン兄様に惚れている。だからこそおかしいと思うのですよ」
「なに目線?」
「リオン兄様がどのお姫様を選ぶのか、『さっさと決めんかいっ、へたれがっ』って思いながら見てる目線」
「グッジョブ、舌ぺろ☆ じゃねーよ」
♢
レーヴェと雑談をしていると、あっという間にヘイヴン家に到着してしまった。
必要な時に家にいなくて、行きたくない時に呼び付けてくる。それが父上。
追放されている身? 知らん。全ては父上の機嫌の下で成り立っている。まさに真のステラシオン。上下関係えげちぃ。体育会系かよぉ。
「ほら、さっさと行くよぉ」
レーヴェに背中を強引に押されて、開けたくもないヘイヴン家のドアを開ける。
「「「おかえりなさいませ、ご主人様♡♡♪」」」
「なんでお前らが出迎えてんだよ」
いや、確かにメイド三銃士が乗った馬車の方が到着は早かったけど。早かったけども。
「ご主人様。レーヴェ様。既に皆様お揃いですよ。リビングにお越しくださいませ」
「皆様って……ヴィエルジュ。兄さん達もいるのか?」
「はい。それに、リグナ様もお戻りになられております」
その言葉にレーヴェが目を輝かせた。
「お母様が帰って来たの?」
「はい、レーヴェ様。リグナ様がお戻りになられましたよ」
「わぁい♪ お母様ぁ♪♪ 行こっ、ヴィエルジュちゃん」
「はい♪」
レーヴェはテンションが上がり、ヴィエルジュと手を繋いで先にリビングへ向かった。あの子マザコンだもんな。ヴィエルジュも母上のことは慕っているし。まぁ俺も母上は普通に好きだし、あの反応は頷ける。
「リオンくんのお母さんって美人で優しい人だよね」
「寝起きに見るのに良い美人」
「フーラとウルティムはもう母上と会ったのか?」
「うん。先に着いたから挨拶したよ。リオンくんをよろしくってお願いされちゃった。えへへ」
「フーラ。よろしくされる顔じゃねぇぞ。よだれ拭けよ」
「おっと……」
この姫様、ほんと親しみやすいなぁ。
「ぼくもついでにお願いされた。だからついでによろしくしてあげる」
「うん。ウルティム。きみは俺によろしくされる立場だからね」
「心得ておくように」
「きみ、騎士団長みたいな口調だね」
遅れて俺とフーラとウルティムがリビングに行くと、ヴィエルジュの言う通り、ヘイヴン家が大集合していた。
少し前までは当たり前の光景が、今では珍しい光景に変わってしまったな。
「おかえり、リオン」
最初にリーフ兄さんが話しかけてくるもんだから、彼の顔を見る。
「怪我は大丈夫?」
「ああ。なんとか、ね」
見たところ治りかけていて良かったが、精神的にはどうなのだろうか。なにしろ、直属の隊長が犯罪者であり、しかも死んでしまったんだ。その心のダメージはリーフ兄さんが一番大きいのではないだろうか。
「リオン。バンベルガさんを止めてくれてありがとう。副隊長として礼を言わしてくれ」
「リーフ兄さん……」
「個人的にはかなり戸惑っているよ。まさかバンベルガさんがそんなことをするなんて……ってね。でも、うん。長い付き合いだからって人の心ってのは誰にもわからないよな。ヘイヴン家と仲良く見えても躊躇なく家族に手を出すんだから……」
チラリとライオ兄さんの方に視線をもっていく。
「──けっ。副隊長様を倒しそこねちまったぜ」
思春期爆発しているライオ兄さんはなんともまぁ空気の読めていない発言をしやがった。
そんな軽口を叩くライオ兄さんの頬を、レーヴェが思いっきり摘んだ。
「よくもまぁそんなこと言えたわね、ライオ兄様ぁ?」
「いでででで、やめろや!! レーヴェ!!」
「リーフ兄様には散々ごめんなさいしたでしょ? だったら次はどうするの?」
「わーってる!! わーってるから、離せやっ、くそがっ!!」
パチンとレーヴェが手を離すと、ライオ兄さんの頬が赤く染まってしまっていた。
ライオ兄さんは俺を見るなり、視線を右往左往させると、目を逸らして言ってくる。
「リオン、おれが悪かった。もうこれからはあんなことしない。──それと、助けてくれて、さんきゅ……」
「はい。よくできましたぁ」
「──けっ。くそがっ」
ライオ兄さんは照れ臭そうにそっぽを向いてしまった。
俺の「どうも」って言葉は彼には届いていないのだろう。まぁ弟にあんなセリフ吐くなんて、ライオ兄さんじゃなくても恥ずかしいな。
「仲直り完了。ほらほら、リオン兄様も早く座りなよ」
レーヴェがこの兄妹の中で最強なのかもしれん。恐るべし、ヘイヴン家の長女。
「リオン。久しぶりね」
兄妹の話もそこそこに、父上の近くに座っている黒髪ロングの女性が話しかけてくる。
リグナ・ヘイヴン。俺の母親。
黒髪は母親譲りってわけだ。
「お久しぶりです。母上」
「ふふ。随分と寝起きに時間がかかったみたいね」
それってのは、追放されたことを含め、そこから色々とやった功績を褒めてくれているのだろうか。
「寝起きは良い方だと思ったのですが、そうでもなかったみたいです」
それっぽい返しをしてから、今度はこちらから質問を投げた。
「母上の仕事はもう良いのですか?」
この人、長期の出張に出掛けてたけど、もう良いのかな。
俺の問には母上ではなく、父上が答えてくれる。
「実はそのことで皆には集まってもらった。フーラ王女。ヴィエルジュ。タブン。みんなにも少しは関係のある話だから聞いて欲しい」
タブンって……ウルティムのことか。早く訂正しないと怒られるかも……。
「この度、リグナがステラシオン騎士学園の学園長に就任することになった」
「──はい?」
イマナンテイッタ?
「おめでとう。母さん」
「母親が学園長の学校通うって、まじかよぉ」
「お母様が学園長だったら来年通いやすぅ」
ヘイヴン家の子供達は俺以外受け入れている所存。
いや、そんな簡単に受け入れられるかっ。
だって、だってさ──。
「リオン。あなたの通っている魔法学園の学園長、シュティアとは私も古い仲なの。だからこれから交流も、もっと多くなると良いわね」
待ってくれ。激ヤバ学園長と母さんを交差させないでくれ。俺の精神が死ぬ。




