第60話 絶望の中で現れたのは女神様なんかよりも希望の光をもたらす人
圧倒的強者ってのはどこの世界でも一目でわかるものだ。
長い年月をかけ、努力してやって来たことを一瞬で刈り取られるような、まるで死神にでも遭遇したような気分。
バンベルガさん。今のあんたの顔は、そんなことを言いたげですよ。
ま、今の状況てきに、才能を刈り取る死神じゃなくて、本物の死神を呼び起こしたって感じかな。
剣を持つ佇まいでわかっちまう。
世界最悪の剣ウルティム。
強さの次元が違う。
「──ふふ。愚かですねリオン様」
バンベルガさんは切り替えるように俺を煽ってくる。
「形成逆転を狙ったのでしょうが、どうやらウルティムは封印を解いた者を狙うようだ。これで三対一。封印が解けたのは誤算でしたが、こちらとしては──」
バンベルガさんの煽りの途中でウルティムが動いた。目にも止まらぬ速さで魔人化したルべリア王女に詰め込む。
『GA!?』
ウルティムの速すぎる剣撃になんとか付いていっているって感じのルベルア王女。
速い……速い……速すぎる。
剣撃が加速し続けるウルティムの連撃。魔人化したルべリア王女に反撃の余地を与えない。
『GYAAAAAA!! UGAAAAAA!!』
腕や足を斬られ、苦しそうな声を出すルべリア王女だが、ウルティムは容赦なく銅を薙ぎ払うかのような一閃を放つ。ルべリア王女はなんとかロングソードで受けたが、勢いに負けて剣を手放してしまった。ボディががら空きになっちまっている。
「やばっ!!」
未防備になったルべリア王女へ、命を刈り取る止めの一撃を放とうとしているウルティム。
その間に割って入る。
「?」
「……澄ました、顔して、えげちぃ攻撃してくんな、この眠り姫……」
あのままじゃルべリア王女が殺されていた。魔人化は治すことができるんだ。ここでみすみすルべリア王女を死なすわけにはいかねぇ。
「敵に塩を送るとは、余裕ですな。リオン様」
「ッ!?」
横からバンベルガさんが俺の脳天をかち割るように、剣を振った。
間に合わないと思っている矢先、頭上で金属音が響き渡る。
ウルティムの剣とバンベルガさんの剣が交わった音だ。
ウルティムがバンベルガさんの剣を跳ね上がるように受け止めると、そのままバンベルガさんへ嵐のような連撃を披露していた。
「くっ……!?」
バンベルガさんは、嵐が過ぎ去るのを待つように、ただただ防戦一方でウルティムの連撃を受け続けていた。
「今の内に……」
武器を持っていないルべリア王女へ俺の魔力を送る。今のうちに治しておいた方が良い。
『り、ぉん……LYOOOOOOO』
「だああ!! 落ち着けよ、このお転婆姫がっ!!」
剣を持っていないが、ステラシオン剣術大会の時みたく、素手で攻撃してきやがる。おかげで俺の魔力を送れない。
「ぐあああああああ!!」
断末魔の叫び。
バンベルガさんの声。
かと思うと目の前にバンベルガさんの右腕がこちらまで飛んでくる。
「なんっ!?」
引きつっている暇などなし。
バンベルガさんの右腕が飛んで来たかと思ったら、同時にウルティムまでこっちに飛んで来やがった。
「まてまてまて!!」
こちらの制止など聞く耳持たず。そもそも俺の言語がわかっているのかどうかも怪しい。
ウルティムは上空から俺達がいる真下へ剣を突き刺した。
『AGAAAAAA!!』
「ぐっ……」
直撃は免れたが、ウルティムの落下の衝撃で俺とルべリア王女は吹き飛ばされてしまった。声からして、ルべリア王女は大ダメージを受けてしまったみたいだな。
「はぁ……はぁ……おめぇはどっちの味方なんだよ……」
いや、味方なんてないのかもしれない。
こりゃ三対一でも二対二でもない。一対一対二の戦いになっちまってるな。
「──ふふ、ふ……あーひゃひゃひゃ!!」
超絶クールなバンベルガさんが、サイコパスに相応しい笑い方をしてやがる。右腕を失って正気も失ったのか。
「これだ……私が……俺が求めていた世界……これこそが、俺の求める剣の世界!! 強い者だけが生き残る世界だ!!」
「はぁ……はぁ……求めている世界で、右腕を失っているぞ」
「くくく……そんなものはどうだって良い。すぐに治るからな」
バンベルガさんは懐からなにかを取り出した。
クッキー……か?
ありゃ魔人化できるクッキーってか。
「こんな状況でクッキーとか、もぐもぐタイムですか、このやろう」
もう止めに入る時間はないため、嫌味しか言うことができない。
「最高だ……最高の気分だ……この世界でなら、俺は人間をやめてやる」
そう言って躊躇なくクッキーを食べた。
「がっあああ──ああああああ!!」
ジュノーの時と同じだ。
バンベルガさんの身体から煙が立ち上がると、段々と筋肉が膨張していき身体が一回り大きくなった。失った右腕が再生している。
もうステラシオン三番隊隊長の面影はなに一つとして残っていなかった。
「魔人化しても意識がある。理性がある。俺はなにを恐れていたのだろうか。もっと早く人間をやめるべきであった。素晴らしい、素晴らし過ぎるぞ、この力」
バンベルガさん──自ら魔人化した化け物がウルティムに視線をやった。
「さぁウルティム。世界最悪の剣よ。今から俺と共に世界最悪を世界に魅せつけ、最高の世界を作り上げようではないか」
高揚している化け物に対し、ウルティムは静かに剣を構えた。
その構えは今までとは違う。
剣を水平に寝かせ、自分の顔の高さくらいの位置に剣を構えている。
「もう、その顔は……飽きた」
ポツリと漏らした瞬間、彼女の足元に、身体に、剣に、雷のようなものが走る。そしてバンベルガさんだった化け物目掛けて突進した。
彼女の突進は真横に流れる雷のようだった。
「がっ!?」
真横に流れる雷が、化け物の図体を貫いた。胴体に穴が空き、そこから雷が流れているのが肉眼でもわかる。
『終焉の一撃』
ウルティムが半月を描くように剣を振るうと、バンベルガさんだった化け物の足元から、雷が天に昇るように放たれた。
「がああああああ──!! あがああああああ──!! がが、ぁが──!!」
断末魔の叫びを上げようと、彼女の雷はそいつの罪の重さに比例するかのように、強く、美しく、輝きを増していた。
声が聞こえなくなり、花火みたいに儚く散った雷の中に、彼の姿は見えなかった。
「……は、はは」
乾いた笑いが自然と出てしまう。
魔人化したバンベルガさんをあっという間に蹴散らしちまった。
一対一対一になったけどよ、こんなん勝ち目ないだろ。
太陽のバフがあれば話は別だけど……つうか、さっきの雷で天井が潰れてねぇのはなんだよ。潰れろよ、天井。
あーあ……なんでこんなことに首突っ込んだろ……。ちょっとバンベルガさんと話をするってだけだったのに……。
絶望の中で思い浮かぶのは、これまで出会った人達の顔。
その中でもヴィエルジュの顔が鮮明に浮かんで来る。
俺達って幼馴染みたいなもんだし、一番付き合いが長いもんな。
ヴィエルジュには世話になりっぱなしで恩返しもできてねぇや。
もう一度会いたいな、ヴィエルジュに……
「ご主人様!!」
ヴィエルジュに会いたいからって幻聴が聞こえてきやがる、くそ。
なんて思っていると、天井からなにかが降って来る。
その降って来たなにかが俺の前に突き刺さった。
「──剣?」
学園長先生の剣だ。
なんで学園長先生の剣が降って来たんだ?
困惑状態で上を見上げると、天井が一気に割れた。
天井の破片が落ちて来くると同時に、俺が今、一番会いたい人が女神様みたいに目の前に降り立った。
「ヴィエルジュ……?」
「はい。あなたのヴィエルジュですよ」
「あ、あぁ……ヴィエルジュ……会いたかった……」
つい、本音が漏れると、ヴィエルジュは少し目を見開いたあと、聖母のような顔をして俺の手をギュッと握ってくれる。
「私の方が会いたかったですよ。ご主人様」
手を強く握ったまま引っ張り起こしてくれると、ヴィエルジュはそのままウルティムの方を睨みつけた。
「私のご主人様を傷つけた罪は氷の檻で償っていただきます」




