第59話 お目覚めの世界最悪
まず、魔人化したルベリア王女が咆哮を上げてこちらに突進するように距離を詰めて来る。
手にはロングソード──
『LYOOOOON!!』
「猛獣かよ!!」
ロングソードを力任せに振り下ろしてくるので、避けるのは簡単であった。サイドステップで華麗に回避を試みる。
ドガァァン!!
なんか爆発したかな? と言わんばかりの音が響き辺り、さっきまで俺がいた場所に大穴が開いちゃった。
「ロングソードだろ? それ……やべぇパワーだな、おい」
とか口を動かしている余裕は俺にはないみたい。
背後から気配を感じると、振り返る間もなく、バンベルガさんの剣が迫って来ていた。
「ぅ……!!」
なんとかエスコルさんの剣で受け止めたが、衝撃で後ろに押されちまう。
ここに太陽の光は見えない。故に、太陽のバフは授かれない。その状態での戦い。
「っすがステラシオン騎士団隊長。つえぇ」
だけど、バフなしで三番隊隊長の剣を受け止めることができたことによる高揚感で、口調が軽くなる。
「お褒めの言葉、光栄、です!!」
淡々とした口調のまま、バンベルガさんは連撃を繰り出してくる。
一撃一撃が重く、正確で、無駄がない。
息を切らしていないところを見ると、素振り感覚で振ってやがるな、この野郎。こちとらあんたの攻撃を捌くので精一杯だってのに。
しかも──
『GAAAAA!!』
背後からルベリアが再び突っ込んで来やがった。
「マジで二人がかりかよ!!」
ルベリア王女の蝶の様に刺し、蝶の様に刺す戦闘スタイルはどこへやら。
バンベルガさんの剣を受け流し、ルベリア王女の剣を避ける。
だが、避けた先にはバンベルガさんの次の一撃。
「あんたら仲良しかよ!! 完全に連携されてやがるな、どちくしょう!!」
「どのような相手とでも連携を取れるようにしておりますので」
「クソ優秀な騎士様だな、このサイコパス野郎」
「そのサイコパス野郎にどうぞ殺されてください、侯爵家のクソ野郎」
「段々、キャラ崩壊して来てますよ、バンベルガさん。余裕なくなって来た?」
「それはこちらのセリフです。怠惰キャラなのに、こんなことに首を突っ込んで死んでしまうとは情けない」
「死なねーよ!! 親のスネかじりも諦めてねぇし、学園生活を謳歌するのも諦めてねぇ……俺は、この世界で……楽して暮らしていくんだああああああ!!」
力一杯、大地を割る様にバンベルガさんへ剣を振るう。
「ッ!?」
剣は受けられてしまったが、バンベルガさんが後退したその隙に半円を描くようにルベリア王女を斬り払う。
『GUAッ!?』
「っ──ぃてぇ!!」
ルベリア王女は魔人化の影響か、めちゃくちゃ硬い。紙装甲の俺には羨ましい限りのボディですな。
『U GOO O!!』
「だからって、その姿にはなりたくないけどな!!」
手を突き出して、ルベリア王女へ俺の魔力を送る。
太陽のバフなしで、二対一は分が悪すぎる。さっさと一対一に持っていこう。
「ふんっ!!」
「そう簡単にさせてくれませんよね」
バンベルガさんの攻撃で、避けざるを得ない。
間合いを取り、剣を構え直す。
「三番隊隊長と魔人化したルベリア王女相手にこれほどまでとは……いかがです? 私と共に理想の世界を作りませんか?」
「俺の話聞いてました? 剣一本で成り上がるとか、魔王の時代みたいに、とか。そんなヤバそうな世界なんてごめんだ」
「リオン様にはリオン様の大義がある、と」
「ほんと話聞いてねぇなぁ。楽して生きて生きたいっつってんだろうが。大義とか大そうな理由ぶら下がってねぇわ!! 俺は父上にぶら下がりたいだけだわ!!」
「私の世界にはいらない大義ですね」
「ようやく話を聞いてくれてなりよりだよ」
なんて軽口を叩いている余裕なんてなし。
相手は二人がかりで化け物だし。太陽のバフもないし。一対一に持っていけないし。くそがっ!! サシ飲みはできないタイプか、あのコミュ症隊長めっ!! サシ飲みしようぜ!! ぼけっ!!
なんて愚痴っても打開策など浮かばない。
相手は余力を残しているし、このままじゃ負けちまうな。
どうしたら──
『ま──りん……?』
ふと、声が聞こえて来る。なにを言っているのかわからないが、女の子の声だ。
声の方を視線だけチラリと持っていくと、大樹に刺さった眠り姫が目に入る。
彼女が俺を呼んでいるのか、俺の幻聴か。
そんなんわっかんねぇけど、ごちゃごちゃ考えずにとりあえず行動の精神が勝っちまう。
「バンベルガさん。この剣の封印を解いて欲しいんですよね?」
「ええ。その剣が欲しい」
「だったら、抜いてあげますよ」
ただし──
「俺が使いますけど、ね!!」
一か八か、大樹に刺さった剣を引っこ抜く。
すると、腰を抜かしてしまうかと思うほどあっさりと抜けてしまった。
「──っとと」
ほんと、なんのアクションも起こらず剣が抜けたもんだから、俺がお笑い芸人みたいに転けそうになっちまった。
そんな俺を冷めた目で見て来るバンベルガさんと魔人化したルベリア王女。
「おい、その反応をやめろ。俺がだだすべりしたみたいじゃねぇかよ」
「「……」」
「んだぁ? だだすべりがわからなねぇってか? 俺の母国じゃ面白くない奴ぁ社会的に抹消されるって意味じゃ、ぼけ。だからなんかのリアクションは敵だとしても欲しいんだよ」
んなことぁ、どうだって良い。
この剣……うん、めっちゃ普通。別になんか特別な力とか感じない。
──ってことは……。
「!?」
いつの間にか眠り姫が俺の前に立っていた。感情のない瞳で俺を見ているかと思うと、突如視界から消えて──。
脚を蹴り上げ、俺の左の手の甲を狙って来やがった。
唐突な出来事。素早い動きに反応できずに、眠り姫のキックは俺の手の甲へクリーンヒットしてしまう。
「ぐぁ!?」
持っていたエスコルさんの剣を手放してしまうと、眠り姫がその剣をキャッチして──。
「はやっ──!?」
その剣で強烈な一撃を放ってくる。なんとか反射して持っていた剣で受け止めるが、その衝撃は強すぎる。
「ぐぁああああああ!!」
俺はそのまま吹き飛ばされてしまった。
「ぐはっ!!」
背中に激痛。胃から体液が逆流していると思ったら口から出たのは血液だった。
壁に追突して、口から血を吐いちまった……口全体に鉄の味がして気持ち悪い。
「げほっ……こほっ……」
咳き込みながら眠り姫を見る。
「間違いねぇな。眠り姫がウルティムか……」




