第58話 拝啓、平和ボケした世界へ〜dear無敵の人〜
最高の妹、レーヴェがエスコルさんの剣を持って来てくれていて良かった。
『ぴぎゃ!!』
ザシュ。
『ぎゃぁぁぁ!!』
ダンジョン試験で使用したダンジョンにはまだまだ魔物がいて、容赦なく襲いかかって来る。武器がなかったら危なかったね。
バンベルガさんは遺跡の調査ってことだから、最深部にいるんだろうな。遠いなぁ、面倒だなぁ、ちくしょう。
ロイヤル双子チートがいたら超イージーモードで奥までいけるけど……ま、魔法が使えないエリアに魔法使いを連れて行くほど、俺も極限の怠惰になったわけじゃない。
それに……バンベルガさんとは個人的に話したいこともあるし。
ザッシュ、ザッシュシュと襲って来る魔物を斬りながらダンジョンの最深部へ向かう。
「これ、無双系のゲームなら楽しんだろうけど、実際はくそ面倒くさいな」
♢
難なくとダンジョン最深部へご到着。
相変わらず広間の中央には大樹があって、そこに眠り姫がぶっ刺さっている怪しい状況。
「でも、もっと怪しいのを見つけちゃったなぁ……」
大樹の下には、漆黒の鎧を身に纏ったバンベルガさん。その隣には禍々しい姿をした者の姿があった。明らかに魔人化した誰か。そいつと隣り合わせって時点で怪しさMAXだ。
俺の気配に気が付いたバンベルガさんは、一瞬だけ目を見開いたが、すぐにいつも通りのクールな無表情へと変わる。
「言い訳はできませんね」
「まだ弁明酌量の余地はあると思いますけど?」
「いえ、言い訳する気は毛頭ございません」
「なるほど。無敵の人、ですか」
「無敵ならばどれほど良かったか……」
嫌味だったんだけど、バンベルガさんには伝わらなかったみたいだな。
「今、アルバート魔法学園ではライオ様が暴れている頃だと思うのですが、失敗してしまいましたかな?」
彼の発言から、ライオ兄さんの魔人化はバンベルガさんが関与しているみたいだな。
「はい。失敗してますよ。もうライオ兄さんの魔人化は鎮圧させました。魔人化も収まり、今はちゅぱちゅぱ夢の中ですよ」
「流石はアルバートの英雄リオン様ですね」
素直に褒められるのは、なんか怖いんだけども。
「ではリオン様はどうしてここへ? 私の行動は何一つ怪しいものはなかったと自負しておりますが」
「そうですね。行動は怪しくありませんでした。ですが、ステラシオン剣術大会で優勝した時のパーティのことを覚えていますか?」
「もちろんでございます。あの日は、クレス王子と雑談に花を咲かせておりましたね」
「そのあとバンベルガさんから、『リオン様はアルバートの王女様達もお救いになられました。そのようなお方がルべリア王女様と結婚し、王位を継げば、ステラシオン騎士王国も安泰だと、私も思いますよ』というお言葉を頂きましたね」
「ええ。私自身、剣の腕が立つ者こそが、上に立つべき者だと思っておりますゆえ」
「大変恐縮なお言葉です。しかし変ですね。ヘイヴン家はフーラとの婚約しか知らされていないんですよ。ヴィエルジュのことはなにも知らされていない。なのにどうして王女達なのか……もしかしたらバンベルガさんはヴィエルジュが王族ということを知っているのかな? と、少し疑問に思いまして」
「……はは。あの時のリオン様の苦い顔は、性格上王族になりたくないという嫌悪感ではなく、私への不信感の顔でしたか。普段無口な人間だというのに、お喋りが過ぎたようですね。まさかたったそれだけのことで気づかれるとは」
「完全に怪しいとは思っていませんでしたよ。だからここへは一人で来て、色々と質問しようと思いまして。そしたら、ね……」
隣の化け物に目をやってから質問を投げる。
「その化け物になっちまってるのは、もしかしてルべリア王女ですか?」
「その通りです。よく気が付きましたね」
ここに誘拐犯がいた。
「バンベルガさんがやったってことで良いんですよね?」
「ええ。リーフ様に持たせたクッキーの中に、魔人化になる薬を混ぜておきました」
「じゃあ、ライオ兄さんも?」
「はい。リーフ様からのクッキーですので、二人共、怪しむこともなく食べてくれましたよ。良いですね、侯爵家という人間は人望が厚く」
ボソッと嫌味を吐くのは平民の出だからだろうか。
「なんでライオ兄さんとルべリア王女を魔人化させたんです?」
「この封印を解くため、です」
言いながらバンベルガさんは大樹に手を置いた。
「世界最悪の剣、『ウルティム』……この世で最も強い剣です」
「初めて聞く剣ですね。そのウルティムってのは、ピカピカ光ってる剣のこと? それともそこの眠り姫のこと?」
「わかりません。この剣に関しての記述は全て消されていますから。私も、大昔に魔王を斬った剣としか情報を得られませんでした。そのため、封印の解き方もわからない。だから、色々と試しましたよ」
ポンポンと大樹を叩き、自分の大罪を語り出す。
「ステラシオンの貴族なら抜けるのではないか──ということでサーブタイ様にご協力願いましたが抜けませんでした。だったら魔人化した貴族なら──とサーブタイ様に魔人化を願いましたが、抵抗されたため、殺した後に魔人化させてみました。それでもだめでしたね」
なんとも胸糞悪い話を、淡々と語られてしまう。
しかし、殺した後に魔人化させた……。サーブタイさんを魔人化から救えなかったのは、もう既に死んでしまっていたからなのか……。
「貴族がダメなら王族ならどうだろうか──ということでルべリア様にご協力してもらっています。ライオ様も魔人化したので、ついでにご協力を願おうとしましたが、あの方は魔人化してもリオン様への執念が強く、アルバート魔法学園の方へ向かってしまわれました。まぁ元々計画にはなかったので好きにして良いと判断しました」
「たかだか剣のために人を殺め、苦しめたサイコパスなあんたのことなんて興味ありませんが、こちとら兄貴が魔人化させられていますからね。動機ってのを聞いて良いです?」
「そうですね……この平和ボケした世界が嫌いだから……ですかね」
無表情でとんでもない思想の持ち主なこって。
「私が平民の出というのはご存じですよね? 侯爵家に生まれたリオン様には理解しがたいでしょうが、平民の中でも貧富の差というのが生じております。私の家はその中でも極貧でした。それはそれは悲惨な幼少期を過ごしたものです」
バンベルガさんは昔を思い出しているのか、手で拳を強く作っていた。
「大昔、魔王が世界を支配していた時代。
剣の腕さえあれば、食い扶持には困らなかった。
だが今はどうでしょう。
魔王は倒され、世界は平和になり、魔物は沈静化した。
そして剣の価値は、随分と安くなった。
剣しか持たぬ者が、この時代で成り上がるのは難しい。
私がここまで来るのに、どれほどの時間がかかったと思いますか?
それでも貴族共は……血統という言葉一つで地位を得る。
神に愛されたかのような顔をして……。
蓋を開ければ、剣などまともに振れぬ者ばかりだ。
誇り高きステラシオン騎士団?
笑わせますな。
今の騎士団は、誇りではなく埃を被ってしまっている。
この平和な世に、剣は不要だと言うのか。
——ならば、私が証明してやる。
あの時代を、再びこの世界に呼び戻して。
ウルティムを使い、
剣の価値を、もう一度この世界に刻み込んでやる」
平民出身の苦労と貴族への憎悪。
世界を壊すのではなく、剣の価値を取り戻すという目論見。
「お気持ちは察します。だけど、同情はしますが、同意はできませんね。結局、あんたのやってることはイカれたテロ行為だ」
「ふふ。実力を隠して侯爵家のスネをかじって生きようとしていたリオン様に言われる日が来るとは思いませんでしたね」
「随分と痛いところをついてきますね」
「ヘイヴン家の怠惰に同情も同意も必要ありません。必要なのは全てを知ったあなた様の命です」
物騒なセリフを淡々と吐き、剣を抜いた。
「お覚悟を──ヘイヴン家のスネかじり、リオン様。いきますよ、ルベリア王女」
「り、おん……LYOOOOOO!!」
「もしかして二人がかりできちゃいます?」




