第57話 くねくねは最高の証
「リーフ兄さんもお姫様抱っこしてやろうか?」
気が付いたリーフ兄さんへ冗談混じりで言ってやると、レーヴェにお姫様抱っこされているライオ兄さんを見て苦笑いを浮かべた。
「遠慮しておこうかな」
「あれ? 父上がいない時は普通の兄弟のように接するんじゃなかったっけ?」
「あ、うん。だからだよ。普通の兄弟はお姫様抱っこなんてしない」
「つまり、レーヴェとライオ兄さんは普通じゃないと?」
「そうだね」
「おーい。聞こえてるぞぉ、バカ兄貴共ぉ」
リーフ兄さんは血まみれだけど、いつも通りの会話ができているから大丈夫そうだ。
「リーフ様!!」
俺達以外、誰もいなかった講堂に野太い声が聞こえてくる。
ガチャガチャと鎧の音を立てながらこちらに駆け寄って来る騎士達の姿があった。
魔法学園なのに騎士が大集合しているなぁ。あ、ヴィエルジュとフーラがいるから、かろうじて魔法学園っぽさはある。
「講演会中に奇襲にあったとお聞きしましたが!? 大丈夫でしょうか!?」
「はい。大丈夫ですよ。ご心配をおかけてしてすみません」
ステラシオン騎士団の三番隊の人達だろうか。それにしても、どうして三番隊がこんなところにいるんだろう。首を傾げていると、ヴィエルジュが説明してくれた。
「門の前でステラシオン騎士団の三番隊の人達がいました。声をかけたところ、バンベルガ様とリーフ様に用があるということでしたので、事情を説明して戻って来た次第です」
「なるほどな」
「ごめんね、リオンくん」
ヴィエルジュの説明のあと、頭を軽く下げるフーラに疑問の念が生じる。
「なにが?」
「レーヴェちゃん、止めたんだけど、『剣があれば良いってことだから、あのバカ兄貴達を止めに行きます!!』って聞かなくて……」
「結果てきにはレーヴェが来てくれて助かった。そんなことより、いきなり指示出してごめんな、フーラ。ありがとう」
「ううん。リオンくんの命令ならなんだって聞くから、これからも指示頂戴♡」
従順なお姫様だなぁ。それにしては従順過ぎる気もするが……。
「なんだって!?」
唐突に大きな声を出すリーフ兄さんへ注目が集まる。
少し考え込むと、ここにいる人、全員へ聞こえるようにリーフ兄さんが声を発した。
「ルべリア王女が攫われたらしい」
──ッ!?
全員が驚きのリアクションを見せた。
おいおい。この世界は王女がすぐに誘拐されちまうな。どうなってんだよ、セキュリティ。
「い、今すぐに捜索に行かないと……」
「しかしリーフ様。その御身体では……」
三番隊の人の言う通りだ。意識はあるが、リーフ兄さんは明らかに重症レベル。怪我の治療を専念するべきだ。
「それにごめん、リーフ兄さん。レイピアも壊しちゃった」
「……そうだな。今のオレが動くのは足手まとい、か」
冷静に判断して、リーフ兄さんは三番隊へ指示を出す。
「ルべリア王女の捜索をお願いできますか?」
「もちろんですよ」
副隊長の指示に隊員が答えるが、「隊長はどちらに?」と至極真っ当な答えが返ってくる。
「バンベルガさんは緊急の依頼でダンジョンの調査に行っているんだ。そうだな、伝えに行かないと……それくらいはオレが行くか……」
「リーフ兄さんは治療に専念してくれよ。見てて痛々しいし」
「しかしだな、リオン……」
「バンベルガさんへは俺が伝えに行くよ。その方が無駄な人員を出さなくて済むだろ?」
「面倒なことをリオンに頼んでも良いのか?」
「怠惰な弟だけど空気は読めんだよ。絶対になにもしないマンじゃない。こんな時くらいは伝書鳩くらいするさ」
「……すまない、リオン。頼んだ」
「へいへい。リーフ兄さんは休んでな」
と、いうわけで、俺がダンジョンに向かったバンベルガさんへ事の説明をする役割を任された。
「ご主人様、私もお供致します」
「リオンくん。私も行くよ」
ヴィエルジュとフーラなら、絶対に付いて来てくれると思った。
だけど俺は首を横に振る。
「ただバンベルガさんのところに行くだけだけど、あのダンジョンは魔法が使えないエリアがある。もしかしたらあそこだけじゃないかも知れない。危険だから二人は留守番しててくれ」
「危険な場所だからってご主人様を一人にさせるのは専属メイドの名折れです。それに吊り橋効果を利用してご主人様が私だけを見る可能性があります」
「どちらかというと、危険な目に合うのってヴィエルジュの方だから、吊り橋効果はあんまり期待できないぞ」
「確かに……ということは、ご主人様への愛が更に深まる、と……。ご主人様への愛は限界値だと思っていましたが、これ以上ご主人様を好きになるとか、おそらくヴィエルジュは飛ぶでしょう♡」
ああぁぁ、となにかを妄想してくねくねしている。
だめだ、この子。なにを言っても付いて来る気だ。
「一人で行くなんて水臭いよ、リオンくん」
「フーラは汗臭いんじゃなかったっけ?」
「まだそのネタを引っ張るの!?」
「よしわかった。正解を教えてくれ。その匂いにしよう」
「自分の匂いを自分で言うとか、どんなプレイよ……」
「じゃあ現状維持で良い?」
「わーわー!! 決める決める!! ふ、フローラル!! フーラなだけにフローラルの香り!! なんちゃって……」
自分で言っていて恥ずかしくなったのか、壮大に照れてらっしゃる。
「そんなものよりもフーラの方が良い匂いするけどな……」
つい本音を漏らすと、「ええっと……」と、ちょっと照れちゃったフーラは、バシバシと俺の背中を叩いてくる。
「そ、そんなに私のこと好きなんだぁ……♡」
「ま、まぁ、好きな匂いではあるかな」
「えへへぇ♡」
うふふふふぅと、笑いながらくねくねしている。
こいつらほんと、双子だなぁ。
「なぁ二人共。俺は二人のことを大事に思ってるからさ、これ以上危険な目には合って欲しくないんだよ。だから残っててくれないか」
真剣に本音を話すと、くねくねがピタっと止まる。
「「は、はい♡♡ 留守番します♡♡」」
ようやく言う事を聞いてくれた。自分の本音を伝えて身体が恥じらいで熱くなっているのを誤魔化すようにレーヴェへお願いする。
「ごめん、レーヴェ。そのままライオ兄さんを医務室なり病院に連れて行ってあげて」
「うん。わかった」
ステラシオンの妹がロイヤル双子メイドよりも聞き分けが良い件。
「あ、リオン兄さん。ダンジョンに行くなら、これ、リオン兄さんの部屋から持って来たから、持って行って」
そう言いながら、エスコルさんから貰ったロングソードを渡してくれる。
「お前、本当に最高の妹だな」
「最高過ぎて震えるでしょ?」
くねくねしながら答えてやる。
「止まんねぇよ」




