第56話 ヘイヴン家の兄弟喧嘩
講堂のステージで年甲斐もなく兄弟喧嘩をしている上の兄貴達の間に割って入ってやる。
振り返ればリーフ兄さん。
しかしまぁ、爽やかイケメンってのはボロボロでも絵になるってのを思い知らされるな、ちくしょうめ。
前向けば、ライオ兄さん。
禍々しい姿をしているが、その姿の奥にヤンキーになりきれていないヤンキーチックな顔付が見られる。間違いなくライオ兄さんだ。
そんな禍々しい姿のライオ兄さんは、ハルバードなんて武器を使ってやがる。斧と槍を合わせた長柄武器だね。ライオ兄さんのお得意な得物だ。
「リ、オン……」
「あ、心配してなかったけど、生きてたのね」
「心配、しろよ……」
いつもの会話ができるのなら大丈夫だろう。ま、リーフ兄さんが簡単に死ぬはずがない。
「不意打ちでもくらった?」
そうでもないと、リーフ兄さんが簡単に一撃をもらうはずもない。なにも答えない辺り、それが言い訳になるとでも思っているのだろう。なんだかんだ真面目な長男様だ。
「あ、れは……ライオ、なのか……?」
「イメチェンしてわかりにくいけど、おそらく」
「……リオン……使って、くれ……」
リーフ兄さんが力を振り絞り、愛用のレイピアを投げ渡してくれる。
「わりぃ、な。兄弟喧嘩に下、の、子を、巻き込ん、で……」
「まったくだ。しかも人様の家でなんて、恥を知れ」
「はは……手厳しいな、リオンは……」
「ケツ拭きはやっとくから、大人しく寝とけよ」
「ああ……任せた……」
リーフ兄さんはそう言い残して気絶した。息はあるから大丈夫だろう。
それにしても、不意打ちとはいえ、リーフ兄さんを一撃で気絶させるほどのダメージを与えるとはな。
『GAAAAAAA!』
吹き飛ばした方から、なんともいやぁな声で飛んで来る化け物。
人は見た目で判断するなって言われているけれど、明らかな悪が目の前にいる。
魔人化を自ら受けたのか、それとも誰かから強制的に受けさせられたのか。どちらにせよ、兄弟喧嘩にドーピングを使用なんて怖いお兄ちゃんなこって。
『り、おん……り、オン……オン、OOOOOOOOO』
あっちゃー。喧嘩に割って入ったのがいけなかったのか、それとも元々俺が嫌いだったのか。オンオン、オンオン言いながらロックオンされちゃった。
『UOOOOOO!』
ライオ兄さんはハルバートの強烈な一撃を放ってくる。
避けようとして咄嗟にやめた。これ、避けたらリーフ兄さんに当たっちまう。
でも、こんな細いレイピアで、ハルバートなんて受け止められんの?
ごちゃごちゃ考えているうちに、もう避けられる余裕はなくなってしまった。
「ぐぅ……なんちゅう威力」
ビルでも落ちて来たのかって大袈裟に思うほどの重い攻撃に手が痺れる。
でも流石はリーフ兄さんのレイピア。今の攻撃を受けてもピンピンしてやがる。
レイピアを振ると、向こうさんが間合いを取ってくれる。
『KUSO、GAAAAAAA!』
「魔人化の呪いにかかっても口癖は一緒なのね」
『GAAAAAA!』
筋肉バカが魔人化しちまって更に筋肉に磨きがかかったみたい。
ハルバートなんて大きな武器を、ナイフを振り回すみたいに扱って来やがる。
なんちゅうバカ力。
おかげで間合いに入ることができない。
長柄武器のデメリットは接近戦。なんとか間合いに入りたいが、あんなにブンブン振り回されちゃ入れないな。
『JAAAAAA!!』
暴れまくっているライオ兄さんは、ハルバートを振り回すだけでは飽き足らず、地面を蹴り上げ、天井近くまで飛躍した。
「あんたはソファーで飛び跳ねる三歳児かっ」
『UOOOOOO!』
ガッ!!
「……」
ハルバートが天井の梁に刺さっちゃった。
あ、うん。そりゃね。室内での戦いで長柄武器をジャンプして大きく振りかざしたら天井に刺さるってもんだ。知能が脳筋とかのレベルじゃないぞ。三歳児以下かよ。
『UGA、UGA!』
ハルバートを必死こいて取ろうとしているけど、中々取れなくて、空中でジタバタしている。
「……ぷっ。だっさ」
『MUKAッ』
こちらの態度が伝わったのか、筋肉を最大限まで膨張させてパワーでハルバートを引っこ抜いた。
「うそん」
『KUSOGAAAAAAA!』
笑われた怒りを文字通りパワーに変えて、頭上からハルバートを振り下ろしてくる。
こりゃやばい。レイピアで受け止めきれるか?
「バカ兄様達!! 喧嘩はやめろおおおおおお!!」
キィィィン!!
激しい金属音が講堂に響き渡った。
受け止めたのは俺じゃない。
『れ──ゔぇ……!?』
魔人化したライオ兄さんも驚きのリアクションをしていた。
そう。ライオ兄さんの上空からのハルバートを受け止めたのは、学園長先生の剣を装備したレーヴェであった。
いきなり現れたレーヴェに驚いたのか、明らかにパワーが落ちていた。
「飛んでけ、バカ兄貴ぃぃぃ!!」
そのまま学園長先生の剣を振り抜くと、ホームランよろしく。魔人化したライオ兄さんが天井に吹っ飛んでいく。
ドォォォンと、漫画みたいに顔だけ天井に突き刺さり、身体をジタバタさせている。
「流石はステラシオン」
「それ、私には褒め言葉だから」
VサインにVサインで返してから、レイピアに俺の魔力を送る。送る。送る。最大限まで魔力を送ってやる。
今まで魔人化を治した時ってのは直接手で魔力を送っていたけど、今は天井に突き刺さって届かない。ヴィエルジュもフーラも見当たらない。またいつ暴れるかわからないから、二人を待つ時間もなし。
サーブタイって人の時みたいに煙になってしまうのではないかという不安もあるが……このまま放置の方がよっぽどダメだろう。
今まで散々いじめられたが、腐っても兄弟だ。ライオ兄さんを治したい。
「おらぁ!! 注射だぞ、バカ兄貴っ!!」
投げたレイピアがジタバタしているライオ兄さんの太ももに刺さる。
『GAAAAAA!!』
ジュワァァァァァとレイピアから光が発せられると、太ももの方から煙が上がる。
煙がライオ兄さんを包み込んでしまい、下からじゃなにも見えなくなってしまった。
パリン。
なにかが砕けてる音がして、鉄の粉が上から降ってくる。
レイピアが砕けた音だったみたい。そして、鉄の粉と共に、煙の中からなにかが落ちてくる。
ライオ兄さんだ。元の姿に戻っている。
「──っと」
それを見事にレーヴェがお姫様抱っこする。
「お前、本当に最高の妹だな」
「でしょ」
ニコッと微笑む淑女的な笑みと今の構図がマッチしない。
いや、それよりもライオ兄さん──。
「あ、はは……」
レーヴェはライオ兄さんを見て苦笑いを浮かべた。
「ライオ兄さんが元の姿に戻ったのは良かったけども、あんた、まだ寝る時に親指ちゅぱちゅぱする癖が直ってなかったんだね」
ヤンキーチックな兄さんの親指ちゅぱちゅぱイン妹なんて見たくもなかったわ。




