第55話 ダイナミック講演会
普段は授業や式典で使われるアルバート魔法学園の講堂で、ステラシオン騎士団三番隊副隊長、リーフ・ヘイヴンの講演会が行われる。
隣国の騎士団から講師を招くなんて滅多にないことだ。その副隊長の講演会ってなれば、生徒たちの期待も高まるってもんか。
講堂には、一年生から三年生、果ては教員まで、アルバート魔法学園にいるほとんどの人が集まっていた。
『リーフ・ヘイヴンって、超イケメンらしいよ』
『三番隊の副隊長って、めちゃくちゃ強いんでしょ?』
『私、サインもらいたい!』
『騎士団の実戦の話が聞けるって、楽しみだなぁ』
期待に胸を膨らませる生徒たち。
「すげー人だな、おい」
俺は講堂の後方、立ち見席の端っこを陣取っていた。
退学者の多いアルバート魔法学園。全校生徒だけで言うと一〇〇人くらいか。数字だけで見れば少ないが、実際に目にすると凄い人だ。一〇〇乗っても大丈夫。ってか? いや、すみません、転生前の年齢がバレる。
「そりゃ、リーフ兄様の講演会だもん。これくらいの注目は当然だよ」
「鼻息荒く兄自慢をしている最高の妹、レーヴェよ」
「なんだね、愚兄のリオン兄様」
「なんで当然と言わんばかりにここにいる?」
「そりゃ、リーフ兄様の講演会だもん。ここにいて当然だよ」
「父上とライオ兄さんが心配するから帰ったら?」
「ウチの男共は、だぁれも帰って来てないよ」
「ん?」
リーフ兄さんと俺は家を出て行っており、実家には父上とライオ兄さん、そしてレーヴェで暮らしているはず。父上は仕事で良く家を空けているが、ライオ兄さんは騎士学園のため、実家暮らしのはずだ。
「お父様は仕事だろうけど、ライオ兄様はリオン兄様に負けていじけているんじゃない?」
「あのピキリ兄さんがいじけるタマかぁ?」
「ヘイヴン家で一番ナイーブなんだよ」
一番下、唯一の女子という観点から、ライオ兄さんをそう評価しているみたいだね。俺にはただの反抗期にしか見えないけども。
「そんなわけで、帰っても暇だからここにいるってわけなのだ」
「……ま、バレなきゃいっか。怒られたら帰れよ」
「かしこま」
こいつ、日本で生きてたら一昔前のギャルだったろうな。
「先生達は忙しそうだなぁ」
講堂の前方では、教師陣が最終確認をしているようだ。バタバタと忙しなく動き回っている。
お。カンセル先生発見。マイクの音量チェックをしているみたいだな。先生ってチャラいくせにこういう地味な仕事ばっかりしてるよな。
「しっかし、魔法学園で騎士の講演会ってのも変な話だよな」
「国際交流の一環、ということらしいですね」
俺の独り言にヴィエルジュが反応してくれると、フーラが説明してくれる。
「そうそう。ステラシオンとアルバートの友好関係を深めるため、定期的にこういった講演会を開催しているんだよ」
「流石はアルバートのお姫様。こういう政治てきなことは詳しいのね」
「なぁんか棘があるんですけども」
「すみません。その怒りの炎をしまっていただけると幸いです」
「愛の炎だからしまえません」
じゅ……っと、フーラの炎が消えた。
「はい、鎮火」
「こんのぉ美し過ぎるゆきだるまめぇ」
「なんです? 美し過ぎるひだるま様」
ぐぬぬぅと言い合いをしている二人をレーヴェがジト目で見ている。
「あの二人、お互いのヴィジュを褒めているフリして自分のヴィジュを褒めてるよね?」
「ポジティブなのは良い事だよな」
「ポジティブなの?」
そんな中身のない、会話をしていると、講堂の明かりが少し暗くなる。
ざわついていた生徒達が一斉に静かになった。
「おーい、二人共。始まるみたいだから静かにしろよぉ」
「「はーい♡♡」」
「ロイヤル双子メイドはリオン兄様愛が深いこって」
呆れたため息を吐くレーヴェを横目に、舞台の上にあるスポットライトが舞台に当たる。
そして、舞台袖から──
「ぐぁああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
叫び声を上げながら、血だらけのリーフ兄さんがダイナミックに吹っ飛んで来た。
きゃああああああ──!!
本来、リーフ兄さんがもらうはずの悲鳴は黄色いものではなく、ガチの悲鳴。
そりゃ血まみれの人をスポットライトで照らしたら悲鳴が上がるってもんだ。
『な、なにごとだ!?』
『なにがどうなっている!?』
一瞬で講堂はパニックに陥った。
悲鳴や怒号が入り交じる中、舞台袖からは禍々しい化け物が出て来る。ヒーローショーなら確実に敵役のなにか。いや、ヒーローショーじゃなくても明らかに敵役のご登場だとわかる。
「──ッ!?」
背丈よりも大きいハルバード。
おいおい、あれってまさか……。
「ライオ兄様?」
レーヴェの口から漏れた声。
兄妹揃って同じ答えなら間違いない。
今、舞台袖から出て来た禍々しい化け物は、ライオ兄さんに違いない。
魔人化されちまったのか……誰に……? 自分で? いや、今は考えている場合じゃない。
「ヴィエルジュ。フーラ。レーヴェを連れてここから逃げてくれ」
「かしこまりました」
「うん。わかった」
こういう場面に慣れてしまっている二人は素直に指示に従ってくれる。
「リオン兄様は!?」
「くそ面倒くせぇが、上の兄貴共を止めるのは下の弟の役目だろ」
「違う。弟だけじゃない。妹だって入るよ」
どうやらレーヴェも舞台に上がろうとしているらしい。レーヴェは結構意固地だからな。言い出したら止まらないタイプだ。
「レーヴェの剣の腕なら心配はしていないが、今はその剣がない。ここは俺に任せてくれないか?」
「でも……」
「実力隠している俺、かっけーな痛い兄貴だけど、たまにはかっこいい三男でいさせてくれよ」
くさいセリフを吐いてから、レーヴェを無視して舞台へ飛び込む。
傷ついたリーフ兄さんにとどめをさすように、魔人化したライオ兄さんがハルバードを大きく振り上げているのが見えた。
傷が深いのか、リーフ兄さんはその場を動けずにいた。
「おらああああああ!!」
舞台に上がり、思いっきり飛び蹴りをかましてやる。
『UGOOOOOO!?』
ライオ兄さんは、魔人化しちまった叫び声を出して吹っ飛んでいった。
「騎士の連中が魔法学園で喧嘩してんじゃねぇよ!! バカ兄貴達が!!」




