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有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった  作者: すずと
二章

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第52話 ステラシオンの化け物と眠り姫

「あ、学術の杖がある」


 奥に進むと、悲し気に転がっていた学術の杖を、フーラが拾いあげる。


「つうことは、ここが先生達の言っていた最深部ってわけか」


 それにしては──


「確かに、奥に進める感じにはなってるなぁ」


 今、俺達がいる場所の壁に、クラスメイト達が言っていた通り、更に奥へ進める場所が見える。


「しかし、誰かが隠し通路を見つけた、みたいな感じですね」


 ヴィエルジュの言う通り。壁が壊されて奥に続く道が出て来たって感じ。クラスメイトの発言から、試験中に誰かが見つけたってわけではないのだろう。


「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ──!!」


 奥の方で女子生徒の悲鳴が聞こえて来た。


 考えるのは後だ。


 フーラが投げ捨てた学術の杖が床に落ちる、コンっと音と共に最深部へ、俺達は駆け出した。


 ♢


 奥の広間に着くと、悲惨な状況であった。


 辺りには生徒達がそこかしろで倒れており、壁にめり込んでしまっている生徒もいる。


 そんな状況だってのに、目を奪われるのは中央にある大樹。


 太陽の光も届かないこの場所に、青々と茂る大樹には──


「人……?」


 長い髪の少女の胸元を大樹の幹を貫いて、古びた剣が深々と突き刺さっていた。その剣からは淡い光が漏れている。


 なんだ? これ……。


 だが、そんな疑問を抱く暇もない。


「きゃああああああ!」


 悲鳴を上げたのはクラスメイトの女子生徒らしい。その目の前、大樹の前にはステラシオン騎士団の鎧を身に纏った化け物がいた。


 悲鳴を上げた女子生徒の方へ急がねば。


 でもだめだ。どうしても間に合わない。


 太陽の光が入って来ないからバフもない。この距離じゃ──


「危ないっ!!」


 化け物が二本の剣を交差させ、女子生徒を斬りつけようとした瞬間、カマーセルが横から飛び込んで女子生徒を突き飛ばした。


 ザシュッ!


 カマーセルの肩口から血が飛び散った。


「っ、ぐぁ……!」


 それでも、カマーセルは女子生徒を抱えたまま転がり、化け物との距離を取る。だが化け物は追撃の構えを取った。剣を振り上げ、二人を一遍に斬ろうとしている。


 彼等が転がった先はこちら側に少し近い。不幸中の幸いだ。


「おっりゃ!!」


 脚に魔力を集中させ、全力で跳躍。化け物の横腹へ渾身の飛び蹴りをかます。


『ga!!』


 化け物は、短い断末魔を放つと片方の剣を手放し、壁に激突した。


 くるくると空中で回転しながら落ちてくる剣をキャッチする。


「案外男らしいところもあんじゃねぇか。噛ませ犬」


「……カマーセル・イ・ヌゥーダ、だ」


「OK。いつも通りの返答できんなら大丈夫だな。その子を連れて逃げろ」


「──くっ……た、のむ」


 奪った剣の先を化け物へ向けてやる。


「選手交代だ。こっからは俺が相手してやる」


 化け物が持っていた剣を持つというのは、ちと抵抗があるが、今は贅沢なんて言ってられない。こんなことならエスコルさんから貰った剣を持って来たら良かった。


 辺りを見渡す。ぶっ飛ばした化け物以外、他に仲間はいないみたいだ。


 大樹にブチ刺さっている眠り姫がなんなのかは気になるが……。


『大丈夫ですか? 意識はありますか?』


『みんな!! 大丈夫!?』


 ヴィエルジュとフーラが倒れている人達の救助にあたってくれている。魔法が使えない今、この場は俺に任せてくれるらしい。眠り姫なんかより化け物に集中しないとな。


『u、ga……』


 壁から剥がれ落ちた化け物が、よろよろと立ち上がった。


『g、a……』


 それでも化け物は、ゆっくりと残った一本の剣を構えた。


「格好だけじゃなく、構えもステラシオン騎士団ってか」


 腐ってもヘイヴン家の三男。ステラシオンの剣術くらいの知識はある。


 あれは、ステラシオン騎士団の片手剣、基本の構え。上段からの斬撃を主軸にした、攻撃的な剣術だ。


 ステラシオン騎士団の鎧を着ていることから、魔人化した騎士と考えて良いのかな。


 常人は魔力の暴走に耐えきれず、自滅するとヴィエルジュが教えてくれた。ルージュとフーラは幼い頃から魔力が高いから魔人化に耐えられた。


 ジュノーなんかは魔人化しても自我を保っていたな。あいつの場合は、魔力の高いフーラ(王族)の血を飲むとかきしょいドーピングをしていたんだけども……。


 こいつの場合はどうなのだろうか。自ら望んで魔人化したのか、させられたのか。その判断はできない。


 ただわかるのは、強敵ということだけだ。


『gaaaaaa!!』


 化け物が地面を蹴り、一気に間合いを詰めてくる。速い。


 上段から振り下ろされる剣。避けられない。


 キィィィン──!!


 剣と剣がぶつかる音が響き、火花が散る。


「──っつぅ!」


 重い。腕が痺れる。太陽のバフがあれば余裕なのに、今の俺じゃギリギリだ。


『GAAAAAAAA!』


 化け物の咆哮と共に、さらに圧力が増す。押し相撲状態。単純なパワーじゃ押し負けちまうけど──。


「よっ」


 パワーだけで俺を押して来るもんだから、押し相撲の要領で軽く引いてやると、案の定相手がよろけちゃった。


 腐ってもステラシオン(脳筋)ってか。化け物になって戦闘IQは著しく下がっちゃったみたいだな。


 だが、化け物は即座に体勢を立て直し、横薙ぎの斬撃を繰り出してきた。


「──ぉ!?」


 後ろに跳んで回避。剣先が俺の鼻先を掠める。


 くそ。戦闘IQは下がったけど、戦闘力は上がってるってか。


 間髪入れず、化け物は追撃してくる。


 縦、横、斜め──一撃、二撃、三撃。必死に受け流す。


『GAAAA!』


 四撃目を受けた瞬間、俺の足が滑った。


「ッ!?」


 倒れている生徒の近くまで追い詰められていたのか。これ以上は下がれない。


 戦闘IQが低いと思った矢先にこれだよ。俺の方がIQ低いじゃん。


『GAAAA!』


 とか嘆いている場合ではない。


 俺の隙を逃さない化け物は、剣を大きく振り被った。


 さっきの上段からの一撃より強い剣撃が来る。


 受け止めきれなければ、後ろの生徒諸共斬られちまう。


「とりゃ!!」


 今まさに剣が振り下ろされそうになったところで、フーラの右ストレートが炸裂する。


『GA!?』


 魔法なしの魔法使いのパンチと思えない威力。相手は態勢を崩した。


「ご主人様!!」


 後ろからはヴィエルジュの声。彼女は倒れていた生徒を回収してくれる。


「サンキュ、ヴィエルジュ」


「リオンくん!!」


「さっすがはゴリゴリの体育会系お姫様。最高だぜ!!」


 フーラへ称賛を送りながら剣を振り下ろす。咄嗟に相手は剣を横に構えたが、体勢が悪かったみたい。相手の剣が弾け飛び、地面に刺さった。


「そこだっ!!」


 無防備になった化け物の胸部、鎧の隙間を狙って渾身の突きを繰り出す。


 パリンッ!!


 剣と鎧が同時に砕け散った。


『GAAAAAAAAAAAAAAA!』


 化け物は持っていた剣を手放し、断末魔の叫びを上げながら一直線に吹っ飛んでいく。


 ドゴオオオオン!!!


 化け物は、大樹にぶつかり止まった。


 俺は化け物が落とした剣を拾い、大樹の方へ一気に詰め込む。


『ga……aga……』


「今、楽にしてやる」


 手を化け物に向け、俺の魔力を送る。


『GAAAAAA! UGAAAAAA!!』


 予想に反し、化け物は苦しそうに悶えてしまった。


 ルージュの時も、フーラの時も、両方共凍っているところに俺の魔力を送ったっけ。もしかしたら、これは物凄い荒治療なのかもしれない。


『a、aa……!!』


 化け物から煙のようなものが上がり、中から人の姿が見えた。


 良かった。上手くいった。


 そう思ったのに──


「ぁり……が、と……ぅ」


 魔人化を治したと思ったその人は、最後にそう言い残し、煙と共に跡形もなく消えてしまった。


「ど、うして……?」


 俺の魔力を送ったのにどうしてだ? ルージュとフーラの時となにが違うんだ?


『ま──りん──?』


 ふと声が聞こえ、大樹を見る。


「きみが、なにか関係している、のか?」


 俺の疑問には答えてくれず、少女は剣が胸に刺さったまま眠っている。


「リオン!!」


 大樹を見ていると、カンセル先生が俺の後ろに立っていた。救援の魔法で駆けつけてくれたんだろう。


 カンセル先生は大樹で眠る少女に目をやったが、すぐに俺に言ってくる。


「色々気になることはあるが、今は負傷者を運ぶのが先だ。ここじゃ魔法は使えないみたいだから、前の部屋まで生徒を運ぶのを手伝ってくれや」


「あ、は、はい」


 そうだ。疑問は色々と残る。だけどそんなものは後だ。


 先生に言われ、俺達は負傷者を前の部屋に移し、カンセル先生の魔法でダンジョンを脱出した。


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― 新着の感想 ―
可哀想な学術の杖。案外効力はない代物だったり。 加護がないと辛いですね。でももう1回潜るんだろうなあ。
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