第48話 優しいお兄ちゃんとピキリお兄ちゃん(ライオ視点)
くそが、くそが、くそがっ!
俺──ライオ・ヘイヴンは、ステラシオン剣術大会で弟のリオンに負けた。
弟に……ヘイヴン家の恥さらしに負けたってのに、ノコノコ城に行って祝勝会になんて出てられるか。それこそ俺が恥さらしだ。
だから俺は、逃げるようにステラシオンにある行きつけのバーにやって来ていた。これだって十分恥さらしな行為なのはわかってる。
「あああ! くそがっ!!」
こんなもん飲まずいられるかよっ!
「ライオ。良い加減飲み過ぎだぞ」
カウンター席の前にいるマスターがそんなことを言ってくるもんだから、つい反抗的になっちまう。
「うるせぇ! プロテイン飲まずにいられるか!!」
「ここでそんなにプロテインを飲んでいるのはお前くらいだ」
「俺は未成年だ!! お酒は二十歳になってから! 法律は守りましょうだ!」
「発言は凄い良い子」
プロテイン飲まずにはいられない。
「なにごとも飲み過ぎは良くないぞ」
ああ、くそが。気に食わない爽やかな声が聞こえてきやがる。
「リーフ……」
兄のリーフが颯爽と隣に腰掛けて来やがる。
「リーフ兄さん、だろ。呼び捨てなんかしたら父さんから大目玉を喰らうぞ」
「うるせぇ。たかだか二年産まれたのが早いだけでイキんな、ぼけ」
「それは言えてるな」
クスリと笑いながらリーフはマスターに、「いつもの」なんて注文しやがった。
「くそが。おめぇもここに通ってやがんのかよ」
「居心地良いもんな」
「最高だよっ!!」
キレながら褒めると、「お待ち」とマスターがリーフへ飲み物を提供した。
──いちごミルク味のプロテイン?
「がっはっ! おまっ! まじかよ! いちごミルク味ってよぉ! しかもそれ、ソイプロテインじゃねぇか!」
「良いだろ別に。俺はここのこの味が好きなんだ」
「なんだ? 体を引き締めてモデル業でも始めるのかよぉ、三番隊副隊長さんよぉ」
「……」
リーフは複雑そうな顔をしてしまう。
「俺なんかが副隊長だなんてな……」
珍しい。リーフが弱々しい声を出してやがる。
「本来の副隊長である、サーブタイさんが行方不明になったから、代わりに上がっただけ……そりゃ周りから、親の七光だなんだ言われるよな……」
乾いた笑い。哀愁を漂わせてプロテインを一口飲んでみせた。
「ちっ……実力があんだから、全員力でねじ伏せて黙らせろよ」
気にくわねぇが、リーフの実力は親父並だ。
そんな奴の愚痴なんか聞きたかねぇ。
「ははっ。サンキュな」
励ましたつもりなんて微塵もなかったが、勝手に立ち直ってやがる。
ムカつく……ああ、イライラする。
「おめぇの愚痴なんかに付き合ってる場合じゃねぇんだよ、くそがっ」
「お前がイラつくのはわかる。そりゃ弟に負けたら誰だってイラつくさ」
「……ちげぇよ。そういうことでイラついんてんじゃねぇよ」
そうだ。俺がイラついてんのはそんなことじゃねぇ。
「俺はあいつがずっと実力を隠して飄々としているのが気に食わねぇんだ。知ってたんだよ。俺なんかよりもずっと強いのは知っていた。実力を出さねぇのが心底腹が立つ」
「あ、あはは……」
「おめぇ。その笑い方、あいつがなんで実力を隠していたか知ってんだろ? お?」
「いや、まぁ、うん。なんとなく?」
「なんだよ! 言えよ、おら」
「待て待て。落ち着けって。今のお前は糖分が足りてねぇんだ。タンパク質ばっかり取ってないで、甘いものでも食べて落ち着けよ」
リーフは言いながら箱菓子を取り出しやがった。
「んだよ、これ」
「この前の任務で回復術師の国に行ったからその土産」
「こんな洒落たもんいるかよ」
「中身はクッキーだ。お前、昔から好きだろ? ありがたく食べろよな」
「話聞けよ!! いらねぇって言ってんだろうがっ」
あははと爽やかに笑うと、リーフは一気にプロテインを飲み干した。
「それじゃオレは行くよ。またな」
「さっさと消えろ、くそ兄貴がっ」
リーフがマスターに一言挨拶をすると、そのまま店を出て行った。
「弟思いの良いお兄ちゃんだねぇ、リーフは」
「うっせ、あんなんただの爽やか詐欺師だ」
「じゃあそのクッキー食べないのか?」
マスターが聞いて来やがるので、顔を逸らして答えた。
「あとで食うよ」
「素直でよろしい」




