第47話 あんな奴のことなんて別に(ルベリア視点)
あたし──ルベリア・ステラシオンは騎士の王国に産まれた第一王女だ。
誇り高きステラシオン王家に生を受けたのだから、剣だけは誰にも負けたくなかった。
毎日、毎日、剣だけを振っていた。どれだけ辛くとも、悲しくとも、剣を振ることを止めた日などない。
同世代の女子が、友達や彼氏と遊びに行くのを羨んだことがないと言えばウソになる。
あたしだって年頃の女子なんだ。友達だって欲しいし、彼氏というか、好きな人だって見つけたい。
でも、その願望よりも強く思ってしまうことがある。
それは、周りに自分を認めさせたいということだ。
幼い頃より剣を振り続け、その腕に自信はある。今では兄のクレス・ステラシオンよりも強い自信だってある。
だけど、周りのみんなが期待するのは王位継承権を持った兄のクレス・ステラシオンだけだ。
あたしがどれだけの腕を持っていても、どれだけ強くとも、王位継承権を持った兄に注目がいく。
みんな兄のことしか見ていない。
あたしはクレス・ステラシオンの妹としか見られない。
誰もあたしをルベリア・ステラシオンと呼ばない。
悔しかった。屈辱だった。
兄はなにもしていないのに注目され、あたしは幼い頃から剣を振るっているのに注目されない。
だったら、ステラシオン剣術大会で優勝してやる。この大会で優勝すればみんなあたしの強さを認めてくれる。あたしをルベリア・ステラシオンとして見てくれる。
そう思って大会を勝ち進んでいった。
それなのに──。
「リオン・ヘイヴン……」
あんなふざけた奴に負けた──。
ステラシオン剣術大会の祝勝会パーティを抜け出し、自室に戻って来る。
ドレスのままベッドへダイブ。
「……っぅ」
ズキっと脇腹が痛んだ。
リオン・ヘイヴンにこっ酷くやられた場所だ。
「思いっきりやられてしまったな」
口元に手を持っていくと、口角が上がっているのに気が付いた。
あんなふざけた奴に負けたのに、大会で優勝できなかったのに、あたしは笑っているらしい。
「強者に出会えた喜びというやつかな」
あれほどに強い人と会ったのは初めてだ。そうだ、だからあたしは笑っているのだ。
決して、あたしより強い人が現れて好きになったとか違うから。絶対に違うから。あんなふざけた奴を好きになんてならないんだから。
「あーあ。あんな奴にあたしの夢が破られてしまった」
そう言いながらベッドにダイブする。
「次はどうやってみんなにあたしを認めさせるかな」
足をバタバタとさせる。
こんな姿を家族や家臣達に見られたら注意されるに違いないが、今はなんだか気持ちが高揚しており、やめられない、止まらない。
「そうだ。リオン・ヘイヴン。あいつに協力してもらおうか。いくら剣術大会といえど、あたしの柔肌を民衆の面前で曝け出したんだ。それくらいはさせないとな。えへへ──って、だから別にあたしはあんなふざけた奴が気になるわけじゃないぞ。あくまでだな──くぅぉぉ!」
枕に顔を埋めながら、誰に言い訳をしているのかわからない言葉を延々と発する。
「──ぷはぁ」
息苦しくなり、仰向けに寝返って見慣れた天井を眺める。
「リオン・ヘイヴン」
だ、だからあたしはどうしてあんな奴の名を呟く。バカなのか。
ああ、くそ。
コンコンコン。
部屋の扉がノックされた後、「ルベリア様。おられますか?」とリーフ殿の声が聞こえてきた。
「どうぞ」
あたしの声にて扉が開かれると、リーフ殿が部屋に入って来る。
「ここでしたか。パーティを抜け出してしまわれたから探しておりました」
「ええ。あなたの弟に打ち負かされて拗ねておりました」
「ふふ。そのようには見えませんが」
あたしの負けて清々しい気持ちなどお見通しらしい。リーフ殿には敵わないな。
「拗ねていないのなら、パーティに出ろと?」
「滅相もありません。気分転換に甘いものをお持ちしただけですよ」
リーフ殿は、かわいいラッピングがされた紙袋を手渡してくれる。
「この前の任務で回復術師の国に行きましたので、そのお土産です。中身はクッキーです。結構、評判の良い店でしたよ」
「あたしにはかわい過ぎる気がしますね」
「なにを言いますか。ルベリア様だってかわいいですよ」
「妹みたいな感じで、でしょ?」
リーフ殿は兄と仲が良い。仲の良い友人の妹としか見れないのだろう。
「そんなことありませんよ」
「では、リーフ殿はあたしと結婚してくれますか?」
「ルベリア様。そういう言葉は、本当に好きな人のために取っておくべきかと思います」
「本当に好きな人……」
一瞬、リオン・ヘイヴンが脳裏を──だぁぁぁ!! だから、なんであたしはあんな奴なんかを……!!
「リオンと繋げましょうか?」
「──なっ!?」
この人はエスパーなのか? あたしの心はダダ漏れなのか!?
「え? 本当にリオンのこと?」
この爽やか系イケメン、カマかけてきた。
「ち、違うから!! 全然違うから!!」
あたしはリーフ殿の背中を無理くりに押して、部屋を追いやる。
「もう!! リーフ殿はどっか行ってください!!」
「ありゃま、嫌われてしまいましたか」
「リーフ殿など、知りません」
強引に追い出して、部屋に一人になる。
「リーフ殿のバカ。そんなんじゃないのに」
そんなんじゃない。絶対にそんなんじゃない。
ああ、そうだ。糖分が足りないからだ。糖分が足りないから心が乱れる。
早速いただいたクッキーを食べよう。
心を乱された相手から貰ったもので心を落ち着かそうとするなんて、なんともまぁ皮肉なものだ。




