第44話 兄弟喧嘩は大会で
年に一度の剣の祭典、『ステラシオン剣術大会』
参加条件は腕に覚えのある者。誰でも自由に大会に出ることができる。
観客達は一回戦第一試合、第二試合と終わり、盛り上がりを加速させている。
まさか昔から見ていた剣術大会に出ることになるとは思いもしなかったな。
しかも王女様に目を付けられるし。
「あーあ、参加条件が脳筋すぎるだろ。もっとガチガチに厳しくしろよぉ」
コロシアムの選手控え室で、ぶーぶーと文句が出ちまう。
「ステラシオンのお祭りなんだし、しょうがないでしょ」
選手控え室にレーヴェが来てくれた。関係者以外は立ち入り禁止だが、レーヴェは俺の妹。関係者ってことで問題はない。
妹から自然と論破されちゃった俺は、そのまま拗ねた声で愚痴を続けてしまう。
「王女様ってば俺を叩き斬るとかなんとか言ってたが、対戦するとは限らないんだけど、そこんとこどうなんよ」
「あはは……あの時は流れてきにそう言うしかなかったんじゃない?」
「これ、もし対戦しなかった場合、個別に斬って来るとかないよね?」
「それは……なんとも……」
レーヴェは曖昧な返事をして、「それはそうと」なんて話を切り替えてくる。
「王女様のことも、剣の修理のこともリオン兄様には大事だろうけど、一回戦の相手だよ」
「一回戦の相手ねぇ。どうせ、ステラシオンの脳筋が相手だろ」
「対戦相手見てないの?」
「見てない」
あらら。とレーヴェは呆れてしまった。
「脳筋は脳筋でも、私達に縁が深い脳筋だよ」
「え? それってまさか……」
すげー嫌な予感がするんですけども。
♢
「よぉリオン。こんなところで弟に会うなんて奇遇だなぁ、おい」
「ライオ兄さんかよ……」
俺の一回戦の相手、ライオ兄さんなんだわ。
コロシアムの中心で再会するヘイヴン家の次男と三男。
なんなのこの状況。まじで最悪なんですけど。これならルベリア王女の方が幾分もマシに思える。
『次は──ステラシオン騎士学園の№1、ライオ・ヘイヴンか』
『対戦相手は……なに!? ライオの弟のリオン・ヘイブンだと!?』
『あいつはヘイヴン家の恥さらしで追放されたと聞いたが』
『あれじゃねぇか。剣術大会で汚名挽回を考えてんじゃないのか?』
『しっかし、相手が騎士学園№1で、実の兄ってのは酷な話だねぇ』
外野の言う通りだ。これ以上酷な話はない。ほんと、まじで勘弁なんですけども。
「おめぇがどんな理由でよぉ、この大会に出たか知んねぇが、運が悪かったな。いつも通りにいじめてやるよ」
「あははぁ……お手柔らかにぃ」
互いに剣を構える。
借り物のロングソードには、至るところにエスコルさんの店のマークがある。
ちゃっかり広告してんなぁと感心する。
対してライオ兄さんは身の丈よりも大きな剣だ。
ライオ兄さんの本来のスタイルはハルバートを使用したダイナミックな戦闘。だが、剣術大会の使用は剣のみ。仕方なくハルバートに近い大剣を使用してるってわけね。
『一回戦第三試合、ライオ・ヘイヴン対リオン・ヘイヴン。試合開始!』
審判の試合開始の合図が響いた。
割れるような歓声の中、ライオ兄さんが一気に間合いを詰めてくる。
「おらあ! 死ねやあああ!」
あの大剣を短剣みたく軽々と縦に振って来る。
「うぉ!」
転生特典で得た太陽の魔力。コロシアムの頭上にはお日様が俺を照らしてくれているもんだから、バフがかかっている状態。身体が羽みたいに軽い。
横に跳んで回避。大剣が地面に突き刺さり、ステージに亀裂が走った。
すんげぇ威力。斬るじゃなく、壊すって感じの攻撃だな、おい。
「まだまだあああ!」
地面に刺さった大剣を、そのまま横薙ぎに振り抜いてくる。
「おっ!?」
バックステップで距離を取りつつ避ける。続けて、ライオ兄さんは大剣を振り上げ、再び叩きつけてくる。
右から左へ、上から下へ。
避ける、避ける、また避ける。
攻撃の重さと速さが尋常じゃない。一撃でも受けたら、痛いね、きっと。
「ちょこまか……逃げてんじゃ、ねぇ!!」
ライオ兄さんが踏み込んできた。さっきよりも速い横薙ぎの一撃。
これは避けきれない。
痛いだろうが、咄嗟に剣で受け止める。
「っぐ!?」
おっもっ!!
流石はステラシオン騎士学園No.1。その脳筋具合、父上から濃く受け継いでいやがる。
「受け止めやがったが、くそがっ!!」
ライオ兄さんは剣を引き、即座に大剣を振り上げる。
「っ!?」
これは受け止めたらやばいやつ。
地面を蹴って、横に転がる。
ドガァン!
俺がいた場所に大剣が叩きつけられ、ステージが大きく陥没した。
「おいおい。本気で殺しに来てません?」
「当たり前だろうがっ」
「俺達兄弟ですよね?」
「安心しろや。この大会には回復術師の国から優秀な回復術師を派遣してるらしいから、致命傷でもすぐに回復してもらえんぞ。ま、俺は一撃で殺すレベルの攻撃を放つがなっ!」
「全然安心できねえ!!」
「おらあ! 行くぞ、リオン!」
お喋りは終わりだと言わんばかりに、ライオ兄さんは攻撃を仕掛けてくる。本当にそれは大剣なのかと疑うレベルの素早い攻撃を次々と繰り出してくる。
縦、横、斜め、突き──
避ける、避ける、避ける。
太陽のバフが効いているとはいえ、避けれる攻撃は避けていこう。この脳筋の攻撃は、受け止めるだけでもダメージになる。
「くそがっ! 飽きずにちょこまか逃げやがって……!」
ライオ兄さんがイライラとしているが、そんなのは知らん。こちとら平穏な学園生活がかかっているんだ。負けられない。
「があああ! 面倒くせえええ! お前を見ていると本当にムカつくぜ!! これで終いにしてやらぁ!!」
ライオ兄さんは大剣を地面に突き刺した。こんな硬いコロシアムのステージに良くもまぁ剣を突き立てられるものだ。
「うらああ!!」
刀身をこちらに向けて弾き上げた。剣先が地面をえぐり、砂埃と石礫がこちらへと容赦なく襲いかかってくる。
「くっ」
砂埃で視界が悪くなり、石礫が弾丸のように飛んで来るから、反射てきに腕で急所を防御する。足元がお留守の状態。
「くたばれや!! リオン!!」
砂煙の中を突っ込んで来たライオ兄さんが、地を這うかのような低い弾道の斬撃をおみまいしてくる。
どう避けるかの選択権を与えない攻撃。
反射的に地面を蹴り、垂直に飛んでしまった。
「くっ、あれを避けんのかよ!? でもよぉ、逃げ場はなくなったぜ?」
おっしゃる通り。
空中じゃ避けることは困難。だからこそ、攻撃は最大の防御。
ここで反撃の狼煙を上げる。
「リオン流奥義」
俺は剣に魔力を込め、落下と共にライオ兄さん目掛けて剣を振り下ろす。
「脳天・太陽神・面」
「お、おおおおおおお!!」
ギキィィィン!! 重い金属音が響き渡った。
「!?」
「ぐっ、おお……」
リオン流奥義が簡単に受け止められてしまった。
これはラーメン系奥義の引退を暗示しているのだろうか。ネタ切れだし引退でも良いんだが……。
そんなしょうもないことを考えている暇はない。
ライオ兄さんは、こちらの攻撃を受け止めるのに必死でボディが完全にお留守だ。
俺は地面に着地すると同時に、思いっきり、横っ腹を目掛けて回し蹴りをかましてやる。
「がっ──!?」
ライオ兄さんの脇腹の折れる嫌な感触を脚で感じてしまう。
「ぉぉぉぉおおおおおお!!」
蹴り切ると、ライオ兄さんが大きく吹き飛んでいく。
ステージを滑って行くライオ兄さんは、自分で作った陥没部にすっぽりと収まった。
追いかけ、起き上がろうとしているその顔に剣を突きけた。
「……ぉ、ぁ」
「降参してください。脇腹が折れてしまった今の兄さんに勝ち目はありません」
「……ッ!」
ライオ兄さんは黙り込んでしまい、降参するのを躊躇っていた。
「くそがああああああ!」
怒号と共に思いっきり拳を地面に叩きつけた。足元が揺れ、地面には軽くクレーターのような穴が空いてしまう。
おいおい。脇腹折れてんのに、まだそんなパワーあんのかよ。
「お前は……お前はどうして今まで実力を隠してた!? ああ!?」
怒りの声を上げながら、ライオ兄さんはこちらに訴えかけるように言ってくる。
「お前は……いつもいつもいつも……いつも!! 俺の八つ当たりに反撃して来なかった……俺なんて簡単にやり返すことができるってのに……どうしてやり返してこなかった!? バカにしてんのか!?」
「ライオ兄さん……」
「答えろや!!」
すみません。この状況で目指せ子供部屋おじさんとか口が裂けても言えない。
「無視かよ……! ああああああ!!」
ドンドンドン!
ライオ兄さんは怒りに任せ、何度も何度も地面を殴った。
「くそがっ! くそがっ!! くそがっ!!!」
駄々っ子みたいに何度も地面を叩いて少し冷静になったのか、俺をギロリと睨んでから吐くように言って来る。
「……降参だ」
『勝者。リオン・ヘイヴン!』
うおおおおおお!
観客席が沸いた。
『騎士学園№1のライオが負けた……だと……』
『リオンってヘイヴン家の恥さらしじゃなかったのか?』
番狂わせの第三試合に会場は大盛り上がり。興奮冷め止まぬ中、ライオ兄さんが会場を後にする。
「……リオン」
振り返らずにライオ兄さんは背名で語りかけてくる。
「今度会った時は絶対に殺してやる」
ライオ兄さんの背中からは、憤怒の獅子が見えた気がした。




