第43話 おねだりは大体失敗する
ステラシオン騎士王国のメインストリートは、なんともまぁ見慣れた光景だ。
恰幅の良い男達がそこらじゅうをうろうろしている。女性もヘソだし露出のセクシーなファッションの奥に、バキバキのシックスパックが見える人達が多い。
まさにステラシオン。うんうん。地元に帰って来たって感じがしてなんかエモいな。脳筋共を見てエモいって言うのもどうかと思うけど。
「ふんふーん♪ なぁに買ってもらおっかなぁ♪♪」
先程、俺を左アッパーでKOした妹のレーヴェは上機嫌で街を歩く。彼女の怒りは俺からの贈り物という形で収めることができた。
「あんまり高いのはなしだぞ。俺だって全然金持ってねぇんだから」
「わかってるよー。高い物はリーフ兄様に期待してるから大丈夫☆」
「ちゃっかりしてらぁ」
そんな兄妹の会話をしながら街を歩いていると、足を止めた。
ここから裏通りに入れば俺の目的の店がある。
「わり、レーヴェ。こっちの方に行っても良いか?」
「うん。リオン兄様は元々それが目的で帰って来たんだもんね」
レーヴェの許可も得たので、俺達はメインストリートからちょっとばかし外れた、裏通りにある鍛冶屋へと足を運ぶ。
古臭いドアを開けると、ギィィと錆びた音が響く。店内は暗く、ちょっぴり怪しい。
「らっしゃい」
店主は無精髭でぶっきらぼうな感じ。バンベルガさんとはまた違った職人って感じの人だ。
「お久しぶりです、エスコルさん」
「こんにちは、エスコルさん」
俺とレーヴェが挨拶をすると、店主のエスコルさんは「おお」と声を出す。
「久しぶりだなぁふたり共。レーヴェはまぁた美人になって」
「えへへ。ありがとうございます♪」
「リオンは相変わらず引きこもりか?」
「エスコルさん。勘違いしてますけど、俺は子供部屋のスネかじり志願であって、引きこもりではないです」
「俺には違いなんかわからんが、リオンがウチに来るなんて珍しいこともあるもんだ。どうしたんだ?」
「実は、これの修理を頼みたくて」
ほとんど柄になってしまった剣をエスコルさんへ渡した。
「こりゃまた懐かしいもんを持って来たな。昔にレオンの奴が使ってた双剣じゃねぇか。片っぽだけか?」
「はい。直せます?」
「バカ言ってんじゃねぇよ。俺に直せないもんはねぇ。だが、片っぽだけとはいえ、これはちと金がかかるぞ」
「高いですかね?」
「パッと見の見積もりは、こんなもんだ」
指の数を見て驚愕してしまう。到底学生にゃ払えない額だ。
「なんでそんなに高いんですか!?」
「そりゃ、これは特殊な魔法が付与してある剣だからな」
「もしかして魔法吸収とか?」
「お。よぉくわかってんじゃねぇかよ。その通りだ」
「やみの炎は良く燃えましたからね」
「あん?」
「いえ、こちらの話です」
こんなところでやみの炎の話は厳禁だ。レーヴェもいるし、精神的にきつい。
そんなことよりも問題は金だ。
「なぁ、レーヴェ。父上はいつ戻るって言ってた?」
本題へ戻すようにレーヴェへと尋ねる。
「いつも通りなにも言ってなかったよ」
「そっかー。未定かー」
ヘイヴン家にいる時ならば、ヒャッホータイム突入で、父上帰ってくんな状態だったんだが。まさか父上が早く帰って来て欲しいと思う日が来るとは思わなかった。
父上がいつ帰って来るかわからない。俺だって学園があるし、いつまでも父上の帰りを待つわけにもいかないもんな。
「エスコルさーん。なんとかならんすかー」
「こっちも商売だからな。最近不況だし、マケてやることはできん。納得できねぇなら他を当たんな」
「そんなぁ」
「──って言いたいとこだが、レオンとこのガキの頼みだ。条件次第じゃタダで修理してやらなくもない」
「条件?」
「あれだ」
エスコルさんが親指で壁に貼ってあるポスターを差した。
『ステラシオン剣術大会』と題してあり、騎士の格好をした人達が、剣を交えた絵が描かれている。
「剣術大会に俺の剣で出て優勝したらタダで修理してやる」
「ええー!?」
よりにもよって剣術大会かよ。
ステラシオン剣術大会は俺も知っている。
腕に覚えのある人なら誰でも参加が可能の、年に一度のお祭りみたいな剣術大会。武器はもちろん剣のみ。よって、ガチムチの騎士や騎士学園の学生達の参加が多い。
「リオン兄様が剣術大会に出るところ見てみたいかも。あ、そうだ。ネックレスを壊した件。剣術大会に出ることでチャラにしてあげるよ」
「なに? この大会に出ろムーブ」
「まぁ死にゃせんから出てくれや。俺の剣の宣伝にもなるんだ。出て優勝したら儲けもんだろ」
「まぁ……そうなんだろうけども……」
『残念だが、あなたが優勝することは不可能だ』
女性の声がして振り返ると、そこにはボブカットのブロンドヘアな同い年くらいの女の子が立っていた。
ドレスのような鎧を身に纏い、こちらに歩み寄って来る。
「なぜなら剣術大会はあたしが優勝するからな」
えっへんと威張って言ってくる。
「ええっと……誰?」
相手に聞こえないよう、レーヴェにこっそりと聞く。
「ルベリア・ステラシオン王女様だよ」
「あー、あれが王女様かぁ」
「どうして知らないの? クレス王子の妹だよ」
「いや、流石の俺だってクレス王子は知っている。ステラシオンの次期国王候補だし。その王子に妹がいるってのは知っていたが、名前までは知らなかったな」
「もぉ……社交界に出ないからだよ」
「俺は子供部屋おじさん志望だからな。社交界など出ん」
「威張って言うことじゃないでしょ」
妹に怒られてしまった。
「ルベリア王女の剣の腕は相当凄いらしいよ」
「へぇ……クレス王子も凄いって話だもんなぁ。兄妹揃って凄いんか。流石は騎士王国の王族」
レーヴェとそんな会話をしていると、ギロリと睨まれてしまう。
やっべ。会話聞こえてたかな。別に悪口は言ってないけど、物凄い睨みをきかせてくる。
かと思うと、鼻で笑ってきやがった。
「ふっ。大会で死ぬことはないだろうが、あなたみたいな弱っちそうな輩は怪我をするだけだ。やめておいた方が良い」
こちらに忠告してから、「例のものを」とルベリア王女がエスコルさんに頼んでいた。「はいよ」とエスコルさんがルベリア王女へ頼まれていたのであろう剣を手渡した。
「怪我をするなら出たくないなぁ。エスコルさん。やっぱりなんとかならない?」
「修理して欲しいなら大会に出て優勝。それができないなら金を払いな」
「ええぇぇ……出たくねぇなぁ……」
「あなた!!」
こちらの弱々しい発言に、ズンっとルベリア王女が迫ってくる。
「これだけ言われて騎士としてのプライドが傷つかないのか!?」
「騎士のプライドと言われても、俺、魔法学園の人間だし」
騎士の家系だけど(ボソリ)とか付け加えておく。
「……へ?」
王女様から、王族とは思えない間抜けな声が出ちゃってた。
困った顔をしながら、ルベリア王女はレーヴェの方へと視線を配った。
「ええっと……」
レーヴェは俺とルベリア王女を見比べてから答えた。
「リオン兄様はアルバート魔法学園に通う生徒なのは間違いありません」
騎士の家系ですけど(ボソリ)とレーヴェも付け加えていた。よくぞ言ってくれた我が妹よ。兄さんは嬉しいぞ。
「なんで、騎士のプライドとかってのは、ちょっとわかんないっすー」
そもそも論、俺はプライドなんて大層なものをぶら下げて生きてはいない。そんなもんは前世の世界で、ポイっとしてきてる。
「ま、まま……魔法学園の生徒だろうが、なんだろうが! あなたみたいなナヨナヨしい男はあたしが叩き斬ってやりゅ!!」
あ、躍起になってる。最後噛んでるし。
「絶対に大会に出ること! 良いな!!」
ルベリア王女様はスタスタと早足で出ていく。
「あでっ」
焦ってんのかな。店のドアに身体をぶつけていた。
「ぜ、絶対に出ないと、承知しないから!!」
最後に言い残して店を後にした。
相当恥ずかしかったのか、顔が真っ赤だったね。
「やっぱりこれって大会に出ないとダメな感じ?」
「王女様直々の言葉だし、絶対だろうねー」
あー、まぁた面倒なことになって来たぞ、これ。




