第34話 虹色の剣は全てを解放する
ジュノーの証言から、俺──リオンの目の前にいる化け物がフーラということになる。
手を繋いでいるヴィエルジュを軽く見ると、涙目でコクリと頷いていることから間違いないだろう。
ということは、隣にいる奴がルージュとフーラを化け物にした犯人。ヴィエルジュとフーラの元魔法の先生であるエウロパということになるな。
「よくも俺のヴィエルジュを泣かしたな……覚悟はできてんだろうな、このクソ野郎が!」
「お前はリオン・ヘイヴンか。ジュノーが直々に処刑すると言っていたが……まさか……!?」
どうやら勘の良い奴みたいだ。俺がジュノーを倒したことを察すると、大きく笑う。
「まさかあのジュノーを倒すとはな。素晴らしい。素晴らしいぞ、リオン・ヘイブン」
だが──。
「私はジュノーのようには行かんぞ。さぁ行け! 魔人フーラ!!」
『GAAAAAAAAA!』
魔人化したフーラが命令に従って、こちらに向かってくる。
強い。
魔人化したフーラとまともに戦うには剣が必要だ。ろくに扱えない大剣じゃ勝負にならない。
それに、今は夜だ。太陽による俺へのバフも少ない。
真正面からやりあえば、いくらヴィエルジュとふたりといえど負けてしまうかもしれない。
──いや、勝負なんてしなくて良い。しなくて良いんだ。
「フーラ……ちょっと待ってろよ……」
相手が向かって来ているが、焦らず、ヴィエルジュの顔を覗き込む。
いつもの綺麗な女の子が泣いている。
楽しいことだけをしようと誓った女の子が泣かされた。
よくも……よくもよくも……俺のヴィエルジュを泣かしやがって……絶対に許さんぞ。エウロパ。
「ヴィエルジュ。一緒にフーラを助けよう」
「は、はい!」
ぐすっと泣いていた目を拭きながら、ヴィエルジュは氷の魔法を唱えてくれる。
繋いだ手から冷たい感触。でも、その冷たさは嫌な冷たさじゃない。ヴィエルジュを感じられる温かくて優しい冷たさ。
矛盾的感覚の中、繋いだ手から氷の剣が現れる。まるで氷の芸術品の様な剣をヴィエルジュと共に握る。
『GAAAAAAAAAA!』
相手がこちらに攻撃を仕掛けようとしてくる。ただのパンチ。だが、魔人化したパンチが当たればただでは済まない。
当たる気なんて毛頭なし。
「いくぞ、ヴィエルジュ」
「はい。ご主人様」
俺とヴィエルジュの最大魔力を氷の剣に送る。
氷の剣はプリズム現象によって虹色に光り輝く。
「「はああああああ!!」」
ヴィエルジュと共に虹色に光る氷の剣で魔人化したフーラを一刀してやる。
『GYAAAAAAA!!』
魔人化したフーラは断末魔の叫びをあげたが、斬られたことなどお構いなしにそのまま襲いかかろうとしてくる。
『WRAAAAAAAAAAAAAA!』
魔人化したフーラの右ストレート。この右ストレートをくらうとただでは済まない。
ピキピキピキ──ッ!
だが、魔人化したフーラの拳は、俺とヴィエルジュには届かなかった。
魔人化したフーラは虹色に凍りついた。
「これが俺とヴィエルジュの力だ」
「そ、そんな、そんなバカな……! あり得ない……あり得ない! 魔人化した化け物を、ただの人が……そんな、こと、そんなことおおおおおお!」
エウロパから魔法陣が出て来て、火の魔法が放たれる。大きな火炎球は物凄いスピードで俺とヴィエルジュの方へと飛んでくるが、さっきの魔人化したフーラの攻撃と比べると大人と子供くらいの差がある。
俺達は氷の剣で簡単に火炎球を斬ってやると、その場で火炎球は蒸発した。
「──なっ!? ば、ばかなああああああ!」
やっけになってエウロパは無茶苦茶に火の魔法を放ってくる。魔法の先生をしていたということもあり、下級魔法を物凄い速さで連発してくるが、俺達には通用しなかった。
『アイスニードル』
火の魔法を粉砕しまくり、現場には蒸発した湯気が立つ中で、ヴィエルジュが氷の下級魔法を唱えた。
「ぐ、ああああああ!!!!」
アイスニードルがクリーンヒットして、エウロパは吹っ飛んで行く。下級魔法なのに物凄い威力だ。
その隙に、俺はヴィエルジュと共に虹色に凍りついている魔人化したフーラへ手を合わせる。
瞳を閉じて俺の魔力を送ってやる。
幼い頃、ルージュを助けたみたいに──。
すると、氷が溶けていき、中から出て来たのは元の姿のフーラであった。
「……」
「っと」
産まれたままの姿のフーラがこちらに倒れて来たので、そのまま受け止める。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」
ヴィエルジュは、俺の胸の中で意識のないフーラを必死に呼びながら、回復薬をフーラに飲ませた。
「ん……」
凄い回復薬なのか、すぐさまフーラが目を覚ました。
「……ルージュ?」
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……!」
ヴィエルジュが俺ごとフーラを抱きしめる。
「……ふふ。ほら、やっぱり、ヴィエルジュがルージュだった。私、わかってたんだから。だって私達は仲良しの双子だもんね」
「ごめん。ごめんね、お姉ちゃん。私、私──」
「ルージュ。会えて嬉しい。信じてたよ。生きてるって。これからはずっと一緒だね」
「うん……うん! 一緒だよ! お姉ちゃん!!」
双子の姉妹は空白の時間を埋めるかのように強く、強く抱きしめた。
だけど──。
「ふたりとも。まだ終わりじゃないぞ」
姉妹の感動の再会を邪魔してしまい胸が痛いが、先程のアイスニードルで大ダメージを受けている奴に視線を送る。
ふたりとも俺の言葉を察してくれた。切り替えて項垂れている奴の前に立つ。
「──ひ、ひぃぃ!」
双子姉妹を前に悲鳴を上げていた。
「よくもお姉ちゃんを……」
「よくもルージュを……」
「ま、まま、まて! な!? そうだ、組もう。金ならたんもりある」
こいつは王族相手になにを言っているんだ。ばかなのか。
「お、おお、お前達の力なら、世界を物にするのも夢じゃあないぞ! わ、わた、わたた、私が全力で、さぽ、さ、サポートしてやるから! な? な!?」
双子の姉妹は憐れむ様な目で元魔法の先生であるエウロパを睨みつけていた。
「ひぃぃ。ま、まって、待ってくれ、命だけは、どうか──」
『凍れ』
「ど、が、ぁ……!」
ヴィエルジュが氷の魔法を放つと、エウロパは氷漬けになった。
フーラは拳に炎を纏ませる。
「魂ごと浄化しちゃえ!」
パァァァァァァン!
フーラの炎の右ストレートが決まった。
氷漬けになったエウロパはバラバラになり、本当に浄化したみたく溶けてなくなった。
♢
「終わったな……」
「リオンくーん!」
「……!?」
そういえば、頭に血が昇っていて気にしてなかったが、フーラの奴、裸だ。
彼女は素っ裸で俺に抱きついてくる。
「リオンくん、リオンく……ん!」
「ふ、フーラ、あ、あの……」
あ、やばい。良い匂いする。裸のフーラからダイレクトに女の子の匂いする。こんなん無理。耐えられない。
「助けてくれてありがとう。リオンくん」
裸の上目遣いとか効果抜群なんですけど。
「魔人化する時ね、まるでブラックホールに吸い込まれるみたいに怖くて、寂しくって。その時、リオンくんの顔が浮かんだんだ。リオンくんが助けてくれるかもって思った」
「お、おい、フーラ……」
「気が付いた時、太陽みたいに暖かくて、優しい光に包まれてね。そこでわかったんだ。あ、リオンくんが助けてくれたって。すぐにわかったよ」
「フーラ。お前の感謝の気持ちはわかる。だけど、流石に思春期男子に同級生の裸は刺激が強過ぎる」
「はい?」
フーラはようやくと自分の体がどうなっているのか理解したみたいだ。
みるみる内に顔を赤く染めた。
これは殴られるやつ。
覚悟を決めた瞬間、フーラがギュッと俺に強く抱きしめる。
「リオンくん、に、なら、見られても、良い、よ?」
「!?」
恥じらいながらのセリフは刺激が強過ぎるんですけども。
「だって、私の勇者様だもん」
こんなもん理性を保てという方が無理じゃないだろうか。
そう思っている矢先に、現場は急激に寒くなる。
「ごーしゅーじーんーさーまー」
「はっ!?」
隣では殺気を立ててこちらを睨み付けるヴィエルジュの姿があった。
あかん。殺される。
諦めかけたその時、予想外にもヴィエルジュは微笑んだ。
「私を、お姉ちゃんを救ってくれてありがとうございます。ご主人様は私の……私達の勇者様ですよ」
「ヴィエルジュ……」
「ですが、お姉ちゃんだけ裸でご主人様と抱きつくなんてずるいです」
するする──。
「ちょ! ヴィエルジュさん!? なんで脱いでんだ!?」
メイド服を脱ぎ捨ててこちらに完璧な男の理想の体を見してくれる。
「お姉ちゃんよりも圧倒的ボディを堪能してくださいませ」
ギュッとヴィエルジュも裸で抱きついてくる。
美人双子姉妹が裸で抱きついて来るとか、ここは天国か。いや──。
「ちょー! 手を出しちゃう! 手を出しちゃうから!! 今すぐに服を着てくれー!」
双子姉妹へ懇願するが、ふたりは見合ったまま悪戯をする妖精みたいに微笑んだ。
「「私と結婚してくれるまで手を出しちゃだぁめ♡♡」」
「生殺しだああああああ!」




