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第24話 どの世界でもやべー奴が上に立つとやべー組織になる

 班別実技試験が終わって数日が経過していた。


 学園に登校すると早い時では校門で、「決闘しろ!」とか嫌なデートの誘いを受けていたんだけど、最近はめっきりなくなった。


 教室に入ると、「騎士の落ちこぼれがなんで魔法学園にいるんだよ」なんてコソコソ言われていたのも、ピタッとなくなったね。


 それというのも教室内はお通夜みたいに静かである。


 ほとんどの奴が朝から机に突っ伏して寝ている。元気に喋っている女子生徒達もいるけれど、声のボリュームはかなり小さくなっている。


「班別実技試験の補習はかなりキツイみたいですね」


 隣の席に座ったヴィエルジュが教えてくれる。


「先輩達の言葉はオーバーではなかったみたいですね。ジュノー先生の補習はかなり過酷みたいですよ」


 爽やか系イケメンでドSか……。


 あの爽やかに笑った表情でめちゃくちゃなことしてんだろうな。


「なんにせよ、変に絡まれなくなったのは大きい。筆記試験も全免除だし、しばらく学園生活を謳歌できそうだな」


「平穏な日々を取り戻せましたね、ご主人様。今日はお祝いにしましょう」


「ヴィエルジュの美味しいシチューが食べたい」


「かしこまりました。私で取った出汁から作ったシチューをご所望ですね」


「クールな顔してどえらないことをぬかすメイドだ」


 ヴィエルジュと平和に会話を楽しんでいる時であった。


『リオン・ヘイヴン。至急学園長室まで来なさい』


「ぬえっ!?」


 唐突な校内放送での呼び出しに変な声が出ちゃった。


「ご主人様、一体なにをなされたのです?」


「いや、俺はなにも……あ……」


 ふと学園長が大事にしていた大剣をどっかに投げちゃったのを思い出し声が漏れる。


「その声。なにか思い当たる節があるのでは?」


「やばそうなのがあるな」


 ヴィエルジュは、やれやれと言わんばかりにため息を吐く。


「思い当たる節があるのであれば、すぐに謝るのが道理かと」


「全力で謝るしかないな」


「一緒に行って差し上げましょうか?」


「おかんか!」


「嫁です」


「メイドだよ! いや、今、そこはなんでも良い」


「なんでも……」


 ポッと顔を赤く染める。


「ご主人様から公認されました。晴れてヴィエルジュはご主人様の物に」


「都合の良いメイドだな」


「あ、申し訳ございません。既にヴィエルジュはご主人様の物でしたね」


「……ひとりで行ってくるよ」


 ひとりで盛り上がっているヴィエルジュを置いて、学園長室へと足を運んだ。


 ♢


 この前まではしょっちゅう出向いていた学園長室。決闘の件を抗議しようとしたらいつもいないくせに、決闘の件が落ち着いたら呼び出してくる。

なんともまぁ学園側に都合の良い呼び出しなんだか。


 だが、今回は確実に俺が悪いんだよなぁ。


 はぁ……。


 あー、胃がキリキリする。わざわざ怒られに行くのって気が重いよな。いやだなぁ。帰りたい。ヴィエルジュの膝枕で寝たい。あ、そうだ。これに耐えたらヴィエルジュに膝枕してもらおう、そうしよう。


 コンコンコンと三回ノックをすると、『入りたまえ』と部屋の中からこもった声の合図をもらう。


「失礼します」


 扉を開けながら学園長室に入ると、部屋の中はザ・学園長室って感じであった。


 手前には応接用のソファーとセンターテーブル。部屋の隅には本棚が設置されている。奥には大量に積まれた書類が置いてある大きなテーブル。前世の社長室となんら変わらないな。


 高級そうな椅子には、長く茶色い髪をしたセクシーな女性が座っている。二〇代を思わせる見た目の美魔女で、おそらくめちゃくちゃモテるのだろうと思う。


「来たか」


 女性にしては少し低い声だが、その低めの声は耳に心地良い低さである。もっとも、気分的には全く心地良くないけどね。


「リオン・ヘイヴン」


 ギロリと俺を捉えるように睨みつける。蛇に睨まれた蛙ってのはこういう状態なんだな。めちゃんこ怖い。


「きみがここに呼ばれた理由、わかるよな?」


「え、ええっと……あははー。こ、この前の班別実技試験を、たったふたりで殲滅したから、褒美を与える、とか?」


「違う」


 一蹴されちゃった。


「リオン・ヘイヴン。きみは私の大事な剣を失くした」


 ギョッとしてしまう。


 わかっていたけど、やっぱりその件か。


 学園長の大事な剣を失くした罪は重そうだよなぁ。退学かなぁ。


「も、ももも、申し訳ございません! あの時は、必死で、その、めっちゃ必死だったんですー!」


 頭を九〇度、深々と下げる。


 ──あれ?


 そこからなんのアクションもないんだけど?


 チラッと学園長を見てみると。


「ぐすん……」


 な、泣いてらっしゃる!?


 う、うそ。泣いてるの!? マジ泣き? いや、あかん。これ、まじで泣いてるやつやん。


「返してよ……」


 小さく言ってのけると、学園長は次に大きく言ってくる。


「レオンと私の思い出を返してよ!!」


 なんか急激に幼児化したんだけど……。


 ん? つうか、待って。レオンって言った? この人、今、レオンって言ったよね?


「あ、あの、学園長先生? レオンって?」


「きみのお父さんだよ!」


「ですよねー」


 やっぱり俺の父上のことだった。


「あの剣は、レオンが私に双剣の一本を恋人の証としてくれた大事な剣なの! 剣なの!!」


「ちょーっと待ってください」


 今、学園長のセリフで情報過多が起こった。頭がパンクしそうだ。つか、あれって双剣なの!? うそでしょ。なんの冗談だよ。


「あの、えっと」


 待って。なにから聞いたら良いの? いや、一番気になる奴を聞こう。


「もしかして、父上の元恋人?」


「違うもん! 今も恋人だもん! レオンは仕方なしに許嫁と結婚しただけで、本当は私のこと愛してるもん!」


 あ、やばい人がいる。既婚者を勝手に恋人と思っているやばい人がいる。恋愛をこじらせている美人がいる。めっちゃ怖い。


 つうか、父親の元カノとご対面とかこれ以上なくきっちぃんだけど。


「その証拠に、きみをこの学園に入れて欲しいって私にお願いして来たんだもん! これは恋人の証でしょ」


 可愛らしく、えっへんと胸を張ってるけど、やばいことには変わりないな。


「本来、騎士の家系の子は由緒正しきアルバート魔法学園の入学試験は受けられないんだからね。感謝してよね」


 そういう裏事情があったのか。そこは感謝しなくちゃいけないよな。あ、うん。だからってこの美魔女がやばい奴なのに変わりはない。


「でも、まさか落ちこぼれって言われている三男くんがウチの学園を受けて合格するなんて思いもしなかったわ。入学式の決闘もあんな過酷な条件下で勝っちゃうし」


「学園長先生。あれはいじめです」


「素直にごめんなさい」


 あ、そこはちゃんと謝れるんだね。


「あれはやり過ぎたわ。でもそれはレオンが……」


 言いかけて首を横に振る。


「いえ、限度を超えていたわね。本当にごめんなさい」


「あ、いえいえ。そんなそんな」


 大人が素直に謝ってくるなんて初めての体験だもんで、びっくりしてそんな声しか出せないでいた。素直に謝る大人って少ないよね。


「でも、あの条件で勝っちゃうなんて流石レオンの息子。全然落ちこぼれじゃない。やっぱりレオンの息子は優秀ってことで、先生ね、嬉しくなっちゃって。この子ったらどんな条件下でも勝っちゃうんじゃないかって、テンション上がって決闘の通知書出しちゃった☆」


「学園長先生。あれもいじめです」


「ごめんなさい」


 素直に謝れるのは良い事だよな。あ、うん。やっぱりこいつがやばい奴に変わりはないけど。


「でも、それも全部かわしたんでしょ?」


「まぁ……」


「レオンの息子、超強いー。素敵ー」


 パチパチパチと拍手を送ってくれると、すぐさまピタッと止まる。


「でも──」


 そこで幼児化していたのが元に戻り、部屋に入ったばかりの時の空気の学園長先生に戻る。


「きみは私とレオンの思い出を失くした。いくらレオンの息子といえど簡単に許すことはできない」


「ひぃぃ」


 こえーよ。色々な意味でこの美魔女こわすぎるよ。


「ちゃんと返してくれたらなにも問題はないわよ」


「でも、どこに行ったか……」


「返せないって言うのなら……」


「退学ですか?」


「まさか」


 あははと笑ってみせる。


「返せないなら、私とレオンのよりを戻す手伝いをしてもらうわ」


 こんの美魔女、まじでえげつないことを言ってきやがる。既婚者の息子によりを戻す手伝いとか脳内バグリ過ぎだろ。つうか、どんだけ良い男なんだよ、レオン・ヘイヴン。


「剣を探して来ます」


 そんなのこう答えしかないだろうが。


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― 新着の感想 ―
んな大事なモノがあるところで試験なんかさせんなよと言いたい。仕方ないなら、なんかの条件を最初から設けておくべきで後出しは言い掛かりだな
学園長、やべーなーw 再確認したけれど母親についての言及はまだないのね。儚くなって入りしたら、暴走しそうな学園長だなあ。 剣の由来はそういうものか、と。一本でも重すぎる剣を二本振るっていたとは、父強…
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