第22話 清純派魔法使いと見せかけた武闘派のお転婆な姫様
耳がミュートになってすっきり爽快。安らかに眠れ噛ませ犬、アーメン。ってのは冗談で、まだちゃんと生きている。気絶したみたいだけど。
なんて、噛ませ犬に構っている暇はない。
「はああああああ!」
「うっそん!」
次は死角からピンクの長い髪を靡かせた美少女が、拳に炎を纏って突っ込んで来るんですけど。口からも炎が若干漏れているんですけども。
おいおい、なんの冗談だよ。
死角から来るのは食パン咥えた美少女って相場が決まってるだろうが。炎を咥えた美少女が来るとか、どんなギャルゲーだよ。
杖で炎の拳を受け止めると、周囲に激しい炎が巻き起こる。戦場の気温が一気に上昇した。
「班長自ら突っ込んで来るとはな」
「あっちで妹が暴れまくって、私の班はほとんど全滅よ」
「流石は俺のメイド様だ」
「あの人数をたったふたりで……あなたは何者なの?」
「この学園の奴等にはヘイヴン家の落ちこぼれって言われてんな」
「そう。答える気はないのね。だったら妹のことも、あなたのことも力づくで聞くとするわ!」
「勝手に追加注文すんなっ!」
フーラは足の炎を纏わせてハイキックをかましてくる。熱を帯びた強力な蹴りを、リンボーダンスみたいになんとかかわす。
リンボーダンスってこんなに命懸けなんかよ、ちくしょう。
「魔法使いは運動神経が悪いのが鉄則だろ! なんでフーラはゴリゴリの武闘派なんだよ」
「弱点は補わなくちゃ。それに私、体を動かすのって昔から好きなんだよね」
「清純派魔法使いと見せかけた武闘派のお転婆な姫様だったんだね」
「武闘派のお転婆姫でも──」
彼女は手を俺の腸辺りに突き出してくる。
「しまっ……!?」
『ファイアボール』
詠唱なしで素早く呪文を唱えられてしまう。ゼロ距離からの魔法は避けることができない。
「ちゃんと魔法は得意だよ」
「くぉっ!」
ギリッギリで、杖でなんとかガード。
しかし、俺はそのままファイアボールと一緒に、森の奥へと飛ばされた。勢いのあるファイアボールは俺と共に何本もの木をなぎ倒して行く。
「いでっ、いでっ! いでっ!!」
数本の木を犠牲に、ようやくとファイアボールが消えてくれたが、飛ばされた惰性が続き、ゴロゴロと転がっていく。
「──っの、お転婆姫様め。魔法が得意とかのレベルじゃないだろ」
殺人級の下級魔法を放ちやがって、あんの天才魔法使いの姫様め。
咄嗟に杖でガードしたから良かったけど、まともに入っていたら終わっていたぞ。なんちゅー威力してんだ。
「あ、やっべ……が折れた」
俺の魔力を込めた杖が折れてしまったな。姫様強すぎワロタ。折れた杖を持っていても仕方なし。野に放つことにする。
「さて、どうするか」
ヴィエルジュが来るまで待つか。いや、それはフーラも考えているはず。合流される前に倒そうとするから、すぐに追撃に来るだろう。
しかし、あんなゴリゴリの武闘派魔法使いに、こちらも素手で挑めば負けちゃうな。
そこら辺の木の棒を武器にしても良いけど、杖が折れたのを考えるとすぐに壊れそうだし。
どうしたものか……。
悩みながら、その場をうろうろしてしまう。考え事をしている時はジッとしているより、動いている方が名案の出るタイプ。
だけど、あまり良い案は出ないなぁと思っていたその時だった。
目の前になにかがあった。
「ミニチュア版の神社? いや、違うな。これは祠か」
神様を祀る小規模の御殿だ。もっとも、この祠には神様じゃなくて大剣が祀られているように地面に突き刺さっている。
そういえば、ジュノーが言っていたっけ。学園長が大切にしている剣が祠に眠ってるって。
いや、祠ってダンジョンの亜種みたいな感じだと思うじゃん。それは俺がゲーム脳なだけか。
しかしこの大剣、どこかで見覚えがあるような……。ヘイヴン家に似たような剣があったような、なかったような。うーむ……。
「見つけたよ! リオンくん!」
「っべ」
何重にも魔法陣を重ねたフーラが空からご登場だ。
あんにゃろ。風魔法で優雅に飛んで来やがった。
「空を飛ぶなんてきたねーぞ!! 降りてこーい!」
「きみだって空から奇襲を仕掛けたじゃん!」
「反論できねぇ!」
とか、悠長に言ってる場合じゃねぇ。
あのお転婆な姫様、絶対にえげつない魔法ぶっ放す気でいやがりますよ、はい。
彼女何重にも重ねた魔法陣をはこちらに向け、手を突き出してくる。
『メテオストライク』
フーラが呪文を唱えると、燃え盛る隕石が空から俺に向かって落ちてくる。
「おいいいいいい! 本気で殺す気か!? 俺が死んだら約束を果たせないぞ」
「リオンくんなら大丈夫でしょ☆」
「くそったれが!! 変に過大評価しやがって!!」
これを避けるのはダメだな。これ、地面に当たったら辺り一面が火の海になる奴だわ。だからかわしても無駄だね。受け止めるのも同じだ。
避けても受けても意味がないなら壊すしかない。壊すしかないなら武器が必要。だったら目の前に大剣があるんだけども……。
「触りたくないなぁ」
これ、学園長先生が大切にしていた剣でしょ。正直、触りたくない。触らぬ神に祟りなしって言うじゃん。こういうのって触ったらなんか祟られそう。
でも、触らなかったらここが火の海になることは間違いない。そっちの方がまずいよね。うん、そうだよ。これはこの祠を守るための行動!
自分を正当化させ、俺は大剣を引き抜いた。
「おっ、もっ……!」
この大剣、めちゃんこ重たい。なんだこの剣。こんなの脳筋のライオ兄さんでも持てないんじゃないか? 父上なら片手で装備しそうだけども……。
「……くっそ、重いなぁあああ!」
こんなもの、まともに振ることさえもできない。だから、俺はこの剣に魔力を全力で込めて──。
「飛んでけええええええ! おりゃああああああ!」
思いっきり隕石に向かって投げてやる。
ビュウウウウウウと飛んで行く俺の魔力を帯びた大剣は隕石の核を貫いた。
ドゴオオオオオオオ──!!
空中で大爆発が起こる。
「うそでしょ……!?」
大爆発の中、俺の投げた大剣は勢い良くフーラを捉えた。咄嗟に防御魔法を張るフーラだったが──。
「きゃああああああ!」
俺の大剣が防御魔法を破り、見事にフーラに命中。彼女は翼の折れた天使みたいに地上に落ちて来た。
「はぁはぁ……たかだか、はぁ、試験でえげつない魔法放って来やがって……お転婆姫様にも、程が、あんだろ……」
でも、まぁ、それくらい本気で妹のことを聞きたかったのだろうな。




