第21話 ミュート機能は大事
「いたぞ!」
空からの奇襲で七人の魔法使いを倒すと、すぐさまフーラ班の違う小編成の奴等がやってくる。
そりゃ、こんだけド派手に登場したら居場所はバレるわな。
こいつらも七人編成か……。
いや、奥の茂みに隠れて魔力を集中させている奴がひとりいんな。上級魔法でもぶっ放そうと詠唱してやがるのか、奥の方で魔法陣が光ってるからばればれだぞ。
そいつを守るかのように、他の七人の魔法使いがこちらに向けて一斉に魔法をぶっ放してくる。
「くらえええええええ!」
「落ちこぼれがああああああ!」
「くたばっちまえええええええ!」
「うらああああああ!」
「しねえええええええ!」
四方八方からやってくる魔法。火、水、風、雷、土。多種多な下級魔法が放たれる。いくら下級魔法といえど当たれば痛いだろう。
正面から風魔法に乗ってやって来る火の玉を、魔力を込めた杖で斬ってやる。
火の魔法はその場で火花を散らして煙と化した。風魔法は火の魔法を速くするためだけだったのか、効力が無くなり、こちらに届く頃にはそよ風程度に俺の髪を靡かせるだけだった。
「なっ!?」
「え!?」
火と風の魔法を放った魔法使いが驚いている間に、足元の土が鋭利な形となってこちらに襲いかかってくる。同時に頭上から水の塊が落ちて来やがる。
バク転をしながら、鋭利な土を杖で叩き割りながら、頭上の水魔法を避けてやる。
「くっ!」
「そっ!」
バク転で見事な着地と同時に雷の魔法が目の前に来ていた。
「痺れやがれ!」
無言で杖を振ると、ビリビリとその場で雷は消えた。
「あが……」
華麗に全ての魔法へ対応してやった。
「ば、ばかな……」
「くそ雑魚めあああああ!」
「落ちこぼれ騎士の分際でええええええ!」
「ふざけんな!!」
「それでも騎士か!! 騎士なら当たれ!!」
騎士なら当たれとか言う無茶振り。騎士をなんだと思っているんだ。高貴な存在だぞ。と声を大にして言いたい。
「だが、これで良い」
一人のクラスメイトが勝ち誇った顔をして言い放った。
「お前が逃げている間にも俺達の作戦は進んでいるんだよ!」
作戦ってのは陰からでかい魔法をぶっ放すことだろうな。なんともあさはかな作戦なこって。
「お前らさ、喋っている暇はあんのか?」
「──え?」
ふわりと俺の目の前にヴィエルジュが舞い降りて来る。
まるで女神が空から舞い降りて来たかのような神秘的な光景に、俺と七人の魔法使いは見惚れてしまっていた。
彼女は、今から女神の加護を人間に与えるような、そんな慈悲深い雰囲気を醸し出している。
「ヴィエルジュ。本物の魔法を見してやれ」
「かしこまりました。ご主人様」
『テンペスト』
ヴィエルジュが呪文を唱えると嵐が吹き荒れる。
嵐は一瞬で大きくなり、辺りの物を次々と巻き込んで行く。土や石の軽い物はもちろんのこと、木々や人々までも飲み込んだ。
「うわあああああああ!」
「きゃあああああああ!」
「んぁいいいいいいい!」
嵐に巻き込まれたクラスメイト達は断末魔の叫びを上げながら、回転しつつ天へと上昇していき、そのうち見えなくなってしまった。
うわー。あれに巻き込まれたら死ぬほど痛いだろうなぁ。天に上る地獄って感じだな。
「ヴィエルジュ。奥で一人、でかいのをぶちかまそうとしてる奴がいるから叩いてくるわ」
「かしこまりました。私は援軍を迎撃致します」
「よろしく」
クラスメイトは残り半数。奇襲が成功したとはいえ、まだ数では余裕で負けている。
姫様のところに行くまでに、もう少し減らさないとしんどいよな。
これからどうするか考えつつ、俺は地面を蹴って森の奥へと入って行く。
一直線に突き進むと、上級魔法を唱えようとしている奴を見つけた。一気にそいつとの間合いを取ってやる。
「あ、なんだ、噛ませ犬か」
「カマーセル・イ・ヌゥーダだ!」
詠唱が丁度終わったのか、こちらに杖を向けて上級魔法をぶっ放そうとしてくる。
「ヘイヴン家の落ちこぼれよ。今日こそこの魔法できみを葬ってあげるよ!」
「ていっ」
「へ……?」
足元がお留守だったため、軽く足払いをすると噛ませ犬が仰向けにこけちゃった。
いや、ほんと、魔法使いって運動神経悪い奴が多いよね。
俺の方に向いていた杖は、真上に向いてしまったみたい。
超電磁砲みたいな雷の魔法が上空に放たれた。
おいおい。あんなの俺にぶっ放す気だったのかよ。余韻としてまだ、ビリビリいってんぞ。当たったら死んでたな。
ヌゥーダ一族は魔法の家系で有名みたいだったが、こんな魔法をこの年で扱えるってことは、本当に凄い奴みたいだな。まぁ、詠唱にやたらと時間をかけていたみたいだし、実戦じゃ使いにくいだろうけど。
「それで、いつまでも寝てるんだ?」
「ふっ。魔力切れさ。もう立てないよ。運が良かったねヘイヴン家の落ちこぼれよ」
あんだけでかい魔法をぶっ放したんだから納得。
でも、前髪をふさぁってする元気はあるんだね、きみ。こいつは凄い一族みたいだが、戦闘IQは低そうだ。
「……!?」
気が付くと、火の玉がこちらに向かって飛んで来た。
不意を突かれたため、これを避けることはできない。だったら砕くまでだ。
持っていた杖に魔力を込めて火の玉を薙ぎ払と、花火みたいにその場で弾けた。
「あ、熱いっ! 熱いじゃあないかっ!」
「うるせーよ。噛ませ犬」
「カマーセル・イ・ヌゥーダだ!」
薙ぎ払った時に噛ませ犬に火の粉が飛んで文句を言ってきやがる。魔力切れなのにうるせーやつ。とか思っていると、次は二本の火の槍が飛んでくる。
あ、うん。これは簡単に避けられるわ。
でも、避けたら倒れている噛ませ犬に当たるなぁ。
つい反射的に避けちゃった。てへ☆
「ぎゃああああああ!」
二本の火の槍をモロにくらった噛ませ犬は、断末魔の叫びをあげて喋らなくなった。




