第20話 試験開始
「ご主人様。作戦はどうなさいますか?」
「うーん。そうは言ってもふたりだしなぁ」
フーラの班は俺とヴィエルジュを除いた二八名。うわぁ、改めてえげつない戦いだなぁ。
「ヴィエルジュはなんか良い案でもある?」
「相手は全員が魔法使い。接近戦に持ち込むのが得策かと」
「やっぱそうだよなぁ。でも、向こうもそう考えているんじゃないか」
「遠隔から素早く出せる下級魔法で接近戦に持ち込まれないようにする人達と、その間に大技で決める人達で分かれると思われます」
相手の攻撃を推測しながら、ヴィエルジュは魔法を唱えた。
ふわぁ──。
彼女を中心に優しい風が舞う。
今、ヴィエルジュが唱えたのは風魔法だ。風の力を利用して空を飛ぶことができる魔法。
魔力量に応じて密着している人も一緒に運ぶこともできる優れ物。
彼女から離れたしまった場合は落ちてしまうけどね。
ヘイブン家にいる時、この魔法で色々と彼女とサボりに出かけたものだ。
「空から攻めましょう」
「空からの奇襲ね。それは面白そうだ」
風を帯びている彼女をお姫様抱っこすると体が上昇していく。
「きゃ♡」
「いやだった?」
聞くと、ぶんぶんと首を横に振る。
「や、その……いきなりだったもので……強引なご主人様も素敵だなぁと」
「いやいや。いつも、『お姫様抱っこじゃないとヴィエルジュてきにまじ飛べませんもんねー』とか言うじゃん」
「そうなんですけど。そうなんですけどね……。こっちが言わずともお姫様抱っこしてくださって幸せというか。このまま駆け落ちしません?」
「魅力的な提案だけど、駆け落ちするにも仕事も金もない」
「むぅ。それは仕方ありませんね。このイライラは試験にぶつけるとします」
「八つ当たりだなぁ」
そんないつも通りに平和な会話をしながら空を飛ぶ。
薄暗い森から一変、視界にはどこまでも続く青い空が見えた。今まで太陽の陽が通りにくい森の中にいたから、よけいに空が明るく見える。
あー、お日様は良いよねえ。俺の魔力てきにもお日様を浴びるのは最高だよ。光合成をする草の気持ちがわかる。
太陽の下、スカイブルーの空をヴィエルジュと飛行するのは気持ちが良く、一瞬、本当にこのまま駆け落ちしたくなる。
けどね、ちゃんと現実を見よう。一時のテンションに身を任せるとろくなことにならん。
「あいつら少数で編成して俺らを挟み撃ちしようとしていたな」
見下げた先に見える森の中から、散り散りになって行動しているクラスメイト達の姿が見える。
「セオリー通りですね。挟み撃ちは効率が良いでしょうから。どうしますか? このままお姉ちゃんを見つけて一気に攻め落としますか?」
「班長を倒したらこの戦闘は俺達の勝ちだが……やっぱり二八対二っていうのは分が悪い。二八人の魔法使いに囲まれたら流石にきついかも」
「一編成ずつ確実に倒して数を減らしますか?」
「堅実に行くか。とりあえず真下の奴等から行くわ」
「……ぎゅっ」
「あのー、ヴィエルジュさん。ぎゅっとされると降りられないのですが?」
「この天国よりも優しい場所の居心地が良すぎるのが悪いのです。ご主人様から離れたくありません」
「あとでいくらでもしてやるから、今は離れてくんない?」
「本当です!?」
ガッと綺麗な顔を近づけてくると、ニコッと微笑んで俺の唇に人差し指を当ててくる。
「言質とりましたからね。約束ですよ♡」
ヴィエルジュが名残惜しそうに俺の胸から降りると、一気に重力を感じて真っ逆さまに落ちて行く。
ゴオオオオオオと風を切る音と共に、俺はロングコートより杖を取り出した。その杖に魔力を込めてやる。
一気に森の中に入り、数名のクラスメイトが見えたその中心の地面へ俺は杖を突き刺した。
ドゴオオオオ!
地面が割れる音と共に、その場には土煙が舞う。
「な、なんだ──!?」
慌てふためくクラスメイト達の声が聞こえる中、土煙から出て来て種明かしをしてやる。
「こんにちは」
「て、敵──」
クラスメイトが俺の存在に気が付いた時にはもう遅い。
目の前の腑を剣で斬る要領で魔力を込めた杖を振る。
「ぎゃああああああ!」
一人倒すと、そのままの勢いを保ち、素早く二人目も斬ってやる。
「ぐおおおおおお!」
三人目、四人目、五人目──。
斬る、斬る、斬る──。
杖から感じる確かな感触は、確実に相手を仕留めた感触だ。剣ではなく杖だから斬るというよりは殴るに近い。
「ほい。一丁上がり」
一瞬にして七人、一編成を殲滅してやった。
急所は外したし、死んじゃいないだろうが、そりゃもうこの上なく痛いだろうね。




