表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スペースフロンティア

作者: 西順

「おお! これが!」


 星間移民船━━そのブリッジの巨大モニターに映るのは、母星に劣らず美しい惑星だった。モニターには星の外見だけでなく、射出した偵察機による惑星内の様子が次々と映し出されていく。草花がなびく草原、背の高い木々が生い茂る密林、海は発見出来なかったが、雨は確認出来た。これだけ植物が生い茂るならば、と期待が持てる惑星だった。人間が住めなくなった母星から逃げ出すように、移民船で脱出して200余年。100万人の移民が船内で世代を重ねていく中、漸く辿り着いたのが、この星であった。


「早速、実際にこの惑星に住めるのか調査を開始せよ」


 惑星に到着した事で、船内で移民がお祭り騒ぎとなる中、星間移民船の船長は、ブリッジの乗組員に指示を出す。


『アイ、サー!』


 一斉に動き出す乗組員たち。前面のモニターを睨みながら、この星が実際に自分たちが住める惑星なのか、まずはそれを調べなければならない。母星にいた頃から、宇宙中を観察し、調査し、人類が住める星として幾つかの星をピックアップした。星間移民船は星の数だけ造られ、各星へ向けて旅立ったのだ。


 最後の星間移民船であるこの船は、ピックアップされた中でも1番遠い星へと旅立ち、200年の時を越え、漸く辿り着く事が出来た。それが、着いてみれば住めない惑星でした。となれば、ここからまた住める惑星を探さなければならない。移民船内では世代を重ねても食料不足にならないように、食料生産工場が併設されていたが、長く星々の間を飛び続けてきたうちに、その食料生産工場の一部も壊れ、100万人の移民の腹を満たすにはもう限界のところまで来ていた。


「空気組成は母星とほぼ同じです!」


「良し良し」


 一番の懸念事項だった空気が、問題ないと言うのは朗報だった。空気の組成が違うとなったら、一から母星と同じ組成になるように、この星を造り変えなければならない。それには長い時間が掛かり、それでも絶対に成功するとは限らず、長い時間を無駄にして、そして恐らく多くの同胞を犠牲に、別の惑星に向かわなければならない事態も想定された。


「土壌にも問題ありません! 鉱物類、植物由来の素材も豊富で、これなら壊れている船体の補修も可能です!」


 乗組員の喜ぶ声に、船内が湧き上がる。壊れていたのは食料生産工場だけではない。200年と言う長い長い旅で、時には避けられぬ小さな隕石の衝突で、時には船内の移民たちによる暴動で、時には予期せぬヒューマンエラーで、船体のあちこちで故障や動作不良、部品の欠落が起きていた。それらも、この星の素材類を用いれば、補修が可能となる。それだけではない。もしこの星が人の住めない星となれば、別に移民船を建造し、二船で別の星を目指すと言う事も可能だ。次善策として悪くない。


 湧き上がるブリッジで、一人沈黙を貫く者がいた。その者が、深い溜息を吐いてから、重々しく口を開く。


「船長、地表の大気温度が230度を超えています」


 その言葉に、ブリッジが静まり返る。230度は人が生きていける温度を超えている。この惑星が母星よりも太陽に近い場所にあるので、その可能性は考慮されていたが、それが現実になった形だ。


 これではこの星で生きていく事は難しい。この移民船の移民全員に提供出来る程、宇宙服に余裕はない。昔はあったが、船内の暴動で半分以上が使い物にならなくなってしまったのだ。こうなると、誰をこの星へ送るか、誰を残すか、取捨選択しなければならない。まず調査隊を派遣し、土壌から必要な素材を採取し、移民全員分の宇宙服を作れば、この問題も解決するが、問題はそれまで移民が暴動を起こさないかどうかだ。絶対に暴動が起こる。彼らはいつも自分たちは抑圧され、搾取される対象であると言う誇大妄想に取り憑かれているからだ。


「地中に潜りましょう」


 乗組員の誰かがそのように提言した。その乗組員に皆の視線が集まる


「どうやらこの惑星は地表と比べて、地中の温度はかなり低いようです。移民船ごと地中に潜れば、問題なく快適に過ごす事が可能のようです。100万の移民にはそれをしっかり説明し、移民船ごと地中に潜りましょう」


 この乗組員の言葉に皆が息を呑む。


「それはつまり、ここまで来て我々に地底人のような生活をしろ。と言う事か?」


 船長の言葉に、その乗組員は深く頷いた。どうやらそれ以外に、この星間移民船の移民が、この惑星で生き残る方法はないようだ。地中暮らしが嫌ならば、移民内で有志を募り、別の惑星に向けて移民船で旅立てば良いのだ。


 船長はお祭り騒ぎに興じる移民へ向けて、事の次第を説明し、船内のお祭り騒ぎは急速に冷えていった。次に船内では、やはり意見が二分された。この惑星で生きていこうと考える者、いや、別の新たなる惑星を目指すべきと標榜する者。船内の意見が二分され、それぞれが不安を抱える中、何にしても、まずは移民船の補修の為にも、この惑星に着陸する事が決定された。


 星間移民船は数日この星の周りをぐるぐる回りながら、偵察機なども使い、着陸地点を探っていく。見付かったのは深い縦穴であった。移民船の倍程も大きく、深さは移民船の5倍はある。地中の温度も移民が生活出来る程度に安定しており、地下最下層は湖となっている事が分かった。これにより、移民船はこの縦穴の最下層、地底湖へと降りていく事が決定された。


 着陸当日、100万人の移民がその視線を各々モニターに釘付けにする中、星間移民船は、静かにその巨大な縦穴を降下していく。ゆっくりゆっくりと降下していき、地底湖に着水する移民船。とりあえず惑星に降りる事に成功し、またも移民たちは湧き上がる。今後はそれぞれがどのように生きていくかを決める事となるが、それでも、長らく宇宙を彷徨ってきた移民たちは、一端落ち着ける場所に降りる事が出来て、人心地つく事となった。


 それが彼らの最期であった。同じく湧き上がるブリッジにけたたましく警報音が鳴り響き、何事か!? と乗組員たちが情報収集の為にモニターへ向かうと、地底湖の下から何かが浮上してくる事が分かった。乗組員は船長の指示の下、地底湖からの脱出を試みるも、100万もの移民が生活する移民船である。フォーミュラカーのように素早い挙動が可能な訳ではない。乗組員たちが慌ただしく移民船を浮上させようとしている間に、地下よりやってきた何かは、バクンと星間移民船を飲み込み、バリバリと移民船を噛み砕くと、何事もなかったかのように静かに地底湖の更に深くまで沈下していった。


 ◯◯◯◯.✕✕.△△


「何だそれ?」


 地上が人間の住めない環境だと理解した、とある星間移民船の移民たちは、この星の地下に巨大な海が内包されている事を知り、地上での生活を捨てて地下へ潜った。それから幾千年。海での生活に順応した彼らは、泳ぐように日々を暮らしていた。そんな彼らの良きペットであるウミヘビの一匹が、ふらりとどこかへ行ったかと思ったら、その鋭い牙の間に、何やら金属片らしきものを挟みながら戻ってきた。


 その飼い主である少年は、その金属片をウミヘビの牙の間から取り除くと、矯めつ眇めつそれを眺め、ただの金属片と決め付けて、そこらへ投げ捨てると、ウミヘビとの散歩を続けるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ