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現地人の気付き

「それは本当なのか…?」

「ええ。信じ難い事に…」


ここは日本のある場所に隠されるのようにして存在している基地。

その基地を所有、運営するのは『日本異能怪異対策局』。

通称ニッカイと呼ばれる日本政府の秘密組織だ。

かつては陰陽師や呪術師などの職についていた者たちの一族の末裔や、科学的に説明のつかない超能力を持つ者、或いはそもそも人間ではない者たちが、この組織に所属し平和を守るべく様々な怪異達と戦っている。

そんなニッカイの長の元に、耳を疑うような報告がなされた。


「聖域並の神聖なオーラを放つ、マンションの一室だと?そんなバカな話があるものか」

「私もそう思い、部下を連れて訪れてきたのですが…アレはホンモノです。近付く事すら憚られるほどの気配でした」


長と話す男性の顔色は悪く、恐ろしいものを見た、と言った様子だ。

人は強大すぎるものを見ると恐怖でおかしくなるものだ。

それが邪悪なものであれ、神聖なものであれ関係ない。


「そんな場所があるとは思えんが…君が言うなら本当なのだろう。…私も視察に向かうか」

「気を強く持って向かわれるべきかと…聖域など、本来の人が立ち入る場所ではありませんから」


本当に神聖な場所、或いは本当に危険な場所と言うのは人は意図せず避けるものだ。

体が自然と反応し、知らず知らずのうちに避ける。

そこに思考が挟まる余地はそこになく、本人も気付かぬままにその地から離れる。

そんな場所に、わざわざ自らの意思で赴こうなど、体の震えが止まらないどころでは済まない。

気を強く持たねば、勝手に体が壊れてしまう。

最悪ショック死するだろう。


それを承知で、ニッカイの長は重い腰を上げ、車を手配して件のマンションへ向かった………








「―――っ!!こ、ここがそうなんだろうな…」

「ええ。まるで私達を拒絶しているかのように、他の聖域とは違う異質な気配を放っているのが特徴ですね」


現地に訪れた彼が見たものは、彼の知る聖域とは大きく違うものの、『聖域』と呼ぶにふさわしい神聖な気配を放つマンション。

それも、一室だけ。


彼の知る聖域と違うところがあるとすれば、それはまるで彼らを明確に拒んでいるかのように、圧を向けてくるところだろう。

特定の人物、或いは存在以外の侵入を拒み、害意を持つものからその場所を守る。

もし害意を持って無闇に近付こうものならば、その聖域に備わった防衛機能によって全身を焼き払われるだろう。


「…今回の視察はあくまで視察だ。害のある行為と判断されなければいいのだが…」

「それは、この聖域の主次第でしょうね。では、行きましょうか」


部下が先行し、マンションに入る。

古いマンションと言うこともあり、彼らを阻むものはなく、楽に入ることができた。

逆に言えば防犯のなっていない危ない物件であり、居住している人々の生活水準が伺える。

だがそんな事はこの際どうでもいい話であり、遠慮なく先へ進んでゆく。

そして、件の一室に辿り着くと……彼らは、真冬の海に突き落とされたかのような寒気に襲われた。


「…どうやら主人が居るようだな。引き返そう」

「そうですね。すぐにでも」


寒気の正体は、その一室の中にいる何者かによる警告。

『ここに近付くな。さもなくば殺す』と言う、最後通牒だ。

それを受け取った彼らは、実に素早くその場を後にする。

そして、数人の見張りを付けて監視を行う事に決めた彼らは……その部屋に出入りする、何の変哲もないただの社会人の女性と、その女性が投稿したウサギの動画を見て、首を傾げることとなった。











「聖域だと?」

「はい。つい数日前に突如として出現し、我々の侵入を明確に拒んでいます」

「……人間の奇策か?だが聖域などを作れる存在が、人間に手を貸すなど考え難いがな…」


日本のとあるビル。

表向きには単なる中小企業のオフィスだが、その正体は地上で活動する悪魔の拠点である。

拠点と言っても、その秘匿性を維持するために悪魔の出入りはほとんどなく、日本拠点の長がその場に居るだけ。

今時悪魔も電子機器を使い、電話やメールで情報のやり取りを行う。

そのため、こうした面談でのやり取りは実に稀だ。


「…一度見に行ってみるか。我々の敵になり得るのなら、対処する必要があるかも知れん」


悪魔は立ち上がると身嗜みを改めて整え、自慢の変装術で誰が見ても人間にしか見えない姿へと変わる。

その様子はさながらサラリーマンの上司と部下の二人組。

悪魔達はその聖域へやってくると、すぐさま引き返す事となる。


「アレはダメだな。この世には、まだ我々の知らぬ規格外の存在が居るらしい」

「その様ですね。メールにて『近くにいるだけで体を焼かれるほどの神聖な力を放つ聖域』と報告を受け、そんな事はないだろうと思っていましたが…」

「まるで日焼けでもしたかのようにチリチリと肌が傷む……もしあの部屋の中に入ったならば、我々はトースターの中のパンのように、こんがり焼かれてしまうだろう」


ここに居ては変装術が乱され人間の監視者に見つかる可能性があるとして、悪魔達は何事もなかったかのようにマンションの前を過ぎ去った。

日本拠点の長はその事を事細かに上官へと報告。

監視を付け、動きがあるまではノータッチと言う方針となった。

そして、監視役から上がってくる部屋を出入りする何の変哲もないただの社会人の女性と、その女性が投稿したウサギの動画を見て、首を傾げることになるのだった…

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