現地の強者
飼い主が仕事に行っている日中、私はやることが無いのでそれまでのように惰眠を…と思ったが、私はこの世界について何も知らない。
どのような強者が居て、どのような特異な能力があるのか?
それを把握しない事には、この世界で安心して生活など出来ない。
私より強い生物が居る可能性は、無いとは言い切れないのだから。
ということで、家に分身を置いて私本体は家を飛び出した。
認識阻害の術をいくつも使い、力を抑えて空を飛び回る。
何もせず歩き回ると確実に人間に捕まるし、空を飛べばスマホで撮影されて夕方のニュースになるだろう。
だから認識阻害を重ね掛けし、目視でも映像でも見えないようにした上で、この世界について調べる。
手っ取り早く調べるのなら、地球全体に高性能な探知をかけること。
あっという間に地球全体の情報を理解し、どんな生物がいるか把握できる。
しかしそれは、超絶強い超音波を放って、周辺の敵を把握しようとしているようなもの。
相手に簡単に逆探知され、逆に自分の存在を知らせてしまうのだ。
楽や横着はできない。
自らの目で見て、調べて、思案しなければ、ただ相手に自分の存在を知らせ、敵意を疑われるだけだ。
…とはいえ、世界全体を飛び回って調べるのは骨が折れる。
そういう時に役に立つのが、『情報魔法』と呼ばれる類いの術だ。
該当するのはさっき挙げた探知、視覚を補助する千里眼、物体や現象を詳しく調べる為の道具のように使う解析・鑑定などなど。
そう言った、情報を集めるために使う術を『情報魔法』と言い、これを上手く活用しながら調べるべきなのだ。
じゃないと多分飼い主がヨボヨボのおばちゃんになる。
それらの術を駆使してまずは試しに東京全域の情報を集めたのだが…
(案外魔力を使えるものが多い…しかも、人間じゃない奴が多いな)
意外なことに、魔力を使える人間は多く、それと同じくらい人間じゃない奴も多い。
気配的に、おそらく悪魔。
また珍しい奴が居るものだと思ったけれど…見た目は完全に人間。
魔法によって姿を変えているのではなく、本当に人間そっくりなのだ。
人間と違うところは、角があることと目が猫みたいだって事だ。
翼もなければ尻尾もなく、腕が大量にあるわけでも、頭が複数あるわけでも、きっしょい触手が生えている訳でもない。
マジで悪魔って感じが一切しないけど、コイツらは正真正銘悪魔だ。
(う〜ん…今のところ、飼い主の害になる存在かは判別がつかないね。悪魔と言っても、全てが害のある存在ではないから)
もし全ての悪魔が害のある存在なら、とっくの昔に人類なんて滅びてるし、悪魔は神々によって掃討されている。
私だって、見つけ次第殺す。
悪魔が悪い存在だなんてのは、所詮本の中の話。
こっちからちょっかいを掛けたり、干渉しないと敵対しないし、何もしてこない。
(とはいえ、アレに飼い主が誑かされても困る。飼い主に付ける加護を増やすか…)
悪魔が余計な事を出来ないように、そんな気を起こさせないように、強力な聖属性の加護を付ける。
触れれば火傷、攻撃すれば致命傷、殺そうとすれば逆に殺される。
そんな加護を付けることにした。
それはそうと、私は悪魔の1人と接触してみる。
記憶操作の魔法は得意だ。
変化の魔法を使って人間の姿を模倣し、悪魔と接触してみる。
仲間から遠く、かつ人目につかない場所で1人になっている悪魔。
監視カメラの類いや、侵入者に対してカウンターで発動する魔法の類がないかもと確認した上で、室内で休憩していた悪魔の背後に立つ。
「っ!?な、なんだ貴様!!」
突如として背後に出現した気配に、悪魔は大層驚いている。
そりゃそうだ。
悪魔の側から見れば、転移の予兆もなく突然背後に現れた謎の人間。
驚かないはずが無い。
「いくつか聞きたいことがある。まず一つ、なぜ悪魔がこんな所に居るの?」
「き、貴様…何処でそれを…」
「別に?見たら分かる。それより、私の質問への回答はまだかしら?答えないようならこの場で殺す」
私の脅しを受け、どう答えるか迷う悪魔。
答えないという選択肢は無いし、おそらく戦いは避けたいだろう。
なにせ私は一切の気配や転移の予兆も無く現れた。
ここまで不覚を取っている時点で勝利はまず考えられないし、勝てる相手ではない。
ならば、素直に答えるべきだ。
「……それは答えられぬ。我には守秘義務があるのだ」
「守秘義務、ね……まあいい。次の質問。あなたは随分と人間のような見た目をしているわね。私の知る悪魔は…もっとこう、人間の感性で言えば化け物のような生物なのだけど?」
ここに居る理由を答えない。
そして、守秘義務。
何らかの理由…上位者からの命令でここに来ているということで間違いは無いだろう。
なら、別に現世に悪魔が居ること自体不思議ではない。
せいぜい侵略のための下準備か、現世の実情を知るための諜報員。
私の敵ではない。
なら次の問い。
なぜこんなにも人間的な見た目をしているのか?
「…そう言われても、そういう種類の悪魔だとしか…」
「ふぅ〜ん…?悪魔はあなたのようなものばかり?」
「大半はそうだ。そうでない悪魔ももちろん多数居る」
…なるほど。
要は、そういう人種とでも言うべきもの。
日本人とアメリカ人は人種が違うし、その影響で見た目も多少異なる。
それと似たようなものだ。
「なら次の問い。あなたは悪魔の中でどのくらいの強さか?」
この問いは大事だ。
これにより、強力な種族である悪魔の程度を測れる。
悪魔の長が神にも匹敵する強者なら穏便にするべき。
そうでないなら、決して舐められぬよう力の差を示すべき。
さて、コイツの反応やいかに?
「我など所詮下級の悪魔。気配を隠す事が取り柄なだけの悪魔だ」
「下級、ね…中級の悪魔はどの程度強い?」
「我など軽く倒せるほどだ」
「ああそう。…大体程度は分かったわ」
「な、何を――――」
頭を掴み、記憶を操作して私と話したと言うか記憶を消しておく。
不自然な記憶の抜け落ちが出来るが…適当に眠気を誘っておいて、半分値落ちしたと言うことにしておこう。
記憶を都合の良いように操作すると、ついでに見られるだけの記憶を見て、椅子にポイだ。
ある程度の情報と、知識を手に入れた私は人間形態を解除してウサギに戻ると、認識阻害の術を使って飛び去る。
あの悪魔から得た情報は非常に有意義だ。
何故なら、“この世界に私を殺し得る存在は居ない”と言うことが分かったのだから。