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飼い主との対話

「きなこ。あなた何者?」


流石にうやむやに出来なかったか…

可愛い仕草を見せればなんとか許されないかと思ったけれど…一般人でも流石にこれだけ部屋を改造されれば私がただのウサギではない事を勘付くだろう。

私の判断ミス。

仕方ない、諦めるとしよう。


『よくぞ我の変化を見破ったな人間よ』

「あっ、正体表した」

『ふむ…思念を送られても怯えぬか…大したものだ。褒めてやろう』

「そっすか。光栄っす」

『………』


あまりにもノリが軽い。

こっちが神獣様モードで話し掛けてるってのに、全然驚かないし、怖がりもしない。

…あれか?威厳マシマシモードじゃないからか?

使えるなら使いたいけど、そんなポンポンと力を使ってたら神に叱られる。

それに、崇めてほしい訳では無いから、良しとしよう。


『我は別世界の神獣。訳あってこのような姿をしているが…力は健在だ。だが使うつもりもないし、何かする気もない。そこでだ人間』

「はいはい」

『我の飼い主となる事を許可しよう。そうすれば子孫繁栄無病息災金銀財ほ―――なっ、何をする!?』

「可愛いねぇ〜きなこ〜」 


話している途中に持ち上げられ、ひっくり返されてお腹の毛を撫でられる。


『コラよせ!ウサギは仰向けにされると内臓や背骨が圧迫されて危険なんだ!』

「えっ?そうなの?」

『我がその程度で負傷することはないが、気分が悪い事は間違い無い。やめなさい』

「は〜い」


長く生きているだけあって、知識は豊富だ。

飼い主に誤解を与えぬよう、しっかりダメなことはダメと指摘して、牧草チモチモを再開する。


『まったく…この飼い主は、私が見てあげないと頼りないみたいね』

「キャラ崩れてない?」

『面倒くさくなった』

「やっぱりあれ演技だったんだ……ウサギの小さい体には似合わなかったよ」


真面目に神獣様らしい言動をするの、何気に疲れるからね。

相手が私を敬ったり、恐れたりしないのなら尚更。


『普段なら威厳マシマシの体で、オーラをバンバンに放つんだけど…それが出来ない理由があるからね。神獣様風は諦めて、マスコット枠でも狙おうかな』


もう神獣様モードをするのも面倒なので、私の素を見せる。

この世界では力を使うことは稀だろうし、世界を支配する気もないので、せいぜいマスコット止まりが丁度合いくらい。


「神獣様、か…その時は何不自由無い暮らしをしてたの?」

『何不自由無いか…それをどう捉えるかによるけど、少なくとも直近の100年は起きていた時間が1ヶ月あるかないか。それを何不自由無いと言うのなら、そうだね』

「そんな暮らし、楽しいの?」

『楽しい事がないから寝るんだよ。私の仕事は、1年に1度ある神聖なお祭りの時に起きて、私を崇める宗教の総本山にやって来て、数分飛び回るだけ。退屈でしょ?』

「楽しくないから寝る…いいね。そんな暮らし、羨ましいよ」


…毎日仕事に忙殺され、上司に怒鳴られ、電話で怒鳴られ…は偏見だけど、とにかく仕事仕事の日々に生きる飼い主には、羨ましい生活かもね。


『人の子は…大抵そう言う。だけれど、いざ人の子が我と同じ生活をすれば、3日と持つまい。飼い主。あなたもそうだ』

「私の事、飼い主と認めてくれるの?神獣様と呼ばれた存在が?」

『認めてなきゃ、そんな態度絶対に許さないよ。不敬にも程がある』

「確かに…」


…態度もそうだけど、この飼い主は私の言うことを全然聞いてない。

自分の話にしか興味がないのか…まだ私が信じられないのか。

まあ何だっていい。

気に入らなければ放置して、50年程度で潰える命。

放っておけばいいんだ。


『牧草は口や喉が渇くね。お水』

「はいはい。どうぞ、神獣様」

『はいはい。不敬』


わざとやっているのか、ニヤニヤしながらお水の入った皿を渡してくる飼い主。

小さな口で、一生懸命ペロペロ飲んでいると…背中を撫でられた。

人は私のような小さくてモフモフな生き物を見ると、撫でずにはいられない。 

私が水を飲む邪魔をしないのならその無礼、許すとしよう。


…まあ、かつて信者の子が私の元を訪れた時は、よくそのふわふわの毛並みを触らせていたもの。

悪意を持って、私を不快にさせるために触れるなんてことが無い限りは、大抵の行為を許す。

寛大な心は大事だ。


「…きなこは写真撮られるのいや?」

『別に構わないさ。好きなだけ撮るといい』

「ふふっ…じゃあ遠慮なく」


飼い主はパシャパシャと私の写真を撮り、液晶に写った私と目の前の私を見て何度も『可愛いー!』と騒ぐ。

嫌とは言わないが、何とも言えないその感覚に何処か下らなさを感じる。


「きなこきなこ!きなこの姿を動画に取ってネットにアップロードすれば、ちょっとしたお小遣い稼ぎが出来ると思うの!」

『…なんだそれ?』

「動画はわかる?」

『映像のこと?』

「そう!その動画をネットっていう誰でも使える…情報倉庫?みたいなところに送るの!それで、その動画を誰かが見ると私のところにお金が入ってくるんだよ!」

『……そう。それが私の害になるものでないのなら、好きにするといいよ』


……もちろん何のことか全部わかっている。

けれど、異世界から来た神獣様という体で居る以上、写真や映像は分かっても、ネットなんかは知らないって事にした方が都合がいい。

ペロペロお水を飲む姿を撮影され、その後も寝ている姿や走り回っている姿、飼い主に甘える姿ヤラセや飼い主に抱っこされる姿を撮影。


「また明日こういうのに詳しい知り合いに聞いてみるね!」

『そう。好きにして』


慣れないことをしてドッと疲れた私は、飼い主の布団に寝転がって休憩する。

こんなに疲れたのはいつぶりだろう?

世界を自らの力で覆い、我がモノとしようとした暗黒の竜王の汚染を1日で除去した時ぶりかな?

流石に世界全体を浄化…地球全域浄化するようなことをすれば、流石に疲れる。

それ以来だろう。

やっぱり、慣れないことをするものではないね。


「…布団は汚いままだね」

『…はい。これで新品並みに綺麗。ただし、新品同様とは言わない』

「ありがとう!大好きだよ!きなこ!」

『やれやれ…』


そう言えば掃除していなかった布団を一瞬で綺麗にし、ダニを排除して掃除完了。

ついでにダニが残っていそうなすべてのもの掃除して、この部屋からダニを追い出した。

私の手によって綺麗になった家で美味しくご飯を食べ、お風呂に入り、私が綺麗にした布団で眠った飼い主は…とても幸せそうだった。


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