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★ウサギを拾った日

時刻は午後22時半。

ようやく1日の仕事を終わらせ、帰路についた私が死んだ目で見つけたのは…拾ってくださいの文字の書かれた段ボールに入れられたウサギ。

思わず近付いて中を覗き込むと、ウサギと目が合った。

その時だと思う。

私はこのウサギに運命的な何かを感じ、マンションに連れ帰ることにした。

うちのマンションは古いので、もう壊れても問題ないとペット可だ。

空調の効きにくい部屋にウサギを連れ帰るのはどうかと思ったけれど…外に放置するよりは良いだろう。

家に連れて帰ってくると、ウサギはすぐに寝てしまった。

体を倒し、4本の足をびよ〜んと伸ばして気持ち良さそうに寝ている。

あまりの警戒心のなさに、本当に拾ってよかったと思った。

もし明日の朝の出勤の時、この子がカラスや野良猫に襲われていたらと考えると…もう安全なはずなのに心配になって、常に隣に段ボールを置いてご飯を食べ、食器を洗って、お風呂に入って、布団を敷いて寝た。


その日の夜は久しぶりにぐっすり眠る事ができ、朝は気持ちの良い目覚めになった。


「んん〜…!」


体を起こし、両手をバンザイのように伸ばして、凝り固まった体を伸ばす。

ふと段ボールを見ると、昨日拾ってきたはずのウサギが居なかった。

部屋を見渡して探してみると…ウサギは毛布の足元あたりに乗っかって、丸まって寝ている。

可愛いけど、ひょんなことで踏み潰してしまいそうで怖い。

ゆっくり足を毛布から抜いて、気持ち良さそうに眠っているウサギを捕獲する。

目をゆっくり開け、こちらを見つめるウサギは…まるで抵抗せず、膝の上に乗せても、パジャマをペロペロと舐めてまた寝ようとする程には警戒心が無い。

いや、人馴れしていると言うべきかもしれない。

こんなに人間に触れられる事に慣れているなんて…前の家では相当可愛がられていたに違いない。

それなのに何故捨てるなんて真似をしたのか?


…頭によぎる可能性は、多頭飼育崩壊という言葉。

ウサギはその見た目に反して繁殖力が非常に高く、あっという間に数が増えるらしい。

可愛がっていたけれど、増えすぎて飼いきれなくなり捨ててしまった。

生まれた時から人間と生きてきた為に人馴れし、自然界で生きていけると思えないウサギを捨てるなんて…無責任な人だ。


「…エサをあげないと」


ウサギをゆっくり膝から下ろすと、一人暮らしでまともにものが入っていない冷蔵庫を漁る。

ニンジン…あれば良かったけど、私はニンジンが嫌いだからそんなものは無い。

何かあのウサギが食べられそうな野菜は……昨日帰りに買ったコンビニサラダの残りくらいか…


「…消毒液が掛かってるんだっけ?どうなんだろう?」


コンビニのサラダはいいイメージが無い。

偏見かもしれないけれど、そんな話を聞くくらいには、あんまりいい感じはしないね。

けど、消費期限がめっちゃ近いって事は添加物をそんなに使ってないはずなんだけど……


「…まあ、何かのテレビでそういう話は大抵デマだって言ってた気がするし、大丈夫か」


サラダを普段刺身の醤油皿に使っているお皿に盛り付け、布団に戻ってくると…ウサギは我が物顔で私の布団を占有し、気持ち良さそうに眠っていた。

…可愛いから許す!


「ほ〜ら。ご飯だよ〜」


私がそう言いながら床に皿を置き、布団をトントン叩くと、目を覚ましたウサギはサラダに飛び付く。

シャクシャクとみずみずしい音を鳴らし、小さな口で必死にサラダを食べる姿は…本当に可愛らしい。

……今更ながら、ウサギが食べちゃマズイ野菜入ってないよね?


そんな心配をしつつ、私も朝ごはんのパンと栄養ドリンクを飲んでスーツに着替える。

歯磨きと化粧品を済ませると、ウサギを段ボールに入れて、可哀想だけどプラスチックの板で蓋をする。

…ああでも、それだと息が出来なくなっちゃうか。


一旦ウサギを段ボールから出して、段ボールに箸で穴を開け空気穴を作ると、再び段ボールに戻しプラスチックの板で蓋をする。

これで勝手に外に出て、危ないものを食べたり齧ったりすることはないだろう。


「じゃあ行ってくるね!」


そう言って、ウサギをお留守番させて家を出る。

朝から忙しかったけど…いつもより清々しい朝になった気がする。


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