現代へ
『神獣様』
そう呼ばれるようになって、どれくらい経つだろうか?
いつくもの国が滅びては生まれ、支配者が何度も変わり、社会が変わり、常識が変わった。
そんな中で…私はずっと変わらない。
1000年以上ずっとずっとそこに居て、ずっとずっとその場を離れない。
そんな、退屈の中で生きていた私にもついに転機が訪れた。
異世界からきた勇者とやらが、私に挑んで来たのだ。
軽くあしらって倒し、異世界について聞いてみると、そこは私のよく知る世界と酷似している事に気付く。
微妙に違うところはあれど…この世界に生を受けて2000年以上、忘れた覚えはない、かつて人間だった頃の私の世界。
そんな世界の話を聞いて、私はそこに行きたくなった。
そして、その勇者を通じて神と交渉し、晴れてその世界へ行くことが許可されたのだ。
もちろん制約は多い。
今までのように、『神獣様』と崇められることも無いだろう。
しかし、元よりこの世界には飽き飽きしていたし、退屈には慣れている。
しばしの刺激的な体験をしにいくのだと思って、私は2000年以上の生涯の中で蓄えた技術を遺憾無く発揮し、自らの力だけで世界を跨ぐ転移を成功させた。
途中、外部からの干渉を受け、それが私の交渉した神の力である事を瞬時に理解した私は…自分の体が縮んでいくのに気が付く。
そして転移が終わり、視界が戻ってくると……私は実に小ぶりで可愛らしい、栗毛色のウサギになっていた。