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1話 神様、逝きました

「さーてさて……次はどんな世界の神様になるんだ?」


 何度も経験して慣れた現世との別れ……人間で言うところの死の概念に近いか、死そのものだ。

 慣れた様子で目を開けるとそこは先程までいた神社の入り口付近ではなく、無機質な白い部屋。

 そして、目の前には白いテーブルにケーキとティーセットで優雅なティータイムを楽しんでいる女性。



「あら、珍しいこともあるものね。 貴方が数百年も同じ世界に留まる事が出来たなんて」



 女性(あれ)は道端に転がってる石と同じで名前のない(もの)であり、様々な理由で現世から離れた神を新しい世界に振り分ける存在。

 だから俺が名前を聞いても、そう答えて「名前なんて私には無い」と語っていた神だ。 俺も同じように名前を訪ねられ、答えたが名前で呼ばれたことなんて一回もなく、総じて「貴方」だ。

 


「おう、合って早々嫌味か? 返す言葉はあんまりねぇが過去、百回以内にも1回はあったぞ」


「はいはい、そういうことにしといてあげるわ。 ところで、貴方……最後に『一回でもいいから人間みたいな形があって命のある神として生きてみた~い』なーんてとんでもなく贅沢なこと、考えてたでしょう?」



 考えた。 神であったが、人間になりたいというのは神の中でもありふれた願いであり、現世と別れたのなら即座に叶えられる平凡な願いだ。

 だが、神でありながら人間のように命を得て、形を得ようとするのは贅沢どころか、人間で言うところの死者を生き返らせるようなものである。

 そして、この考えは全て《あれ》に筒抜けである。



「えぇ、筒抜けです。 確かに貴方の願いは人間で言うところの死者を生き返らせるようなものです。 しかし、方法とタイミング、素材が揃った神なら可能です。 肋骨と土で人間を創るようなことではありませんから」


「ん? それはつまり……!」



 その言葉を聞いた瞬間、俺の心は今までに無いほど昂った。

 ……嘘、過去に何回かはそんな経験あります。

 恐らく、彼女(あれ)の言う方法は彼女(あれ)の持つ力であり、素材は俺自身、タイミングは文字通り、今がピッタリなんだろう。



「まあ、大体は貴方の考えてる通りですよ。 丁度、貴方が戻ってくる数十秒前に他の神から依頼が来たんですよ。 『新しく創る世界で肉体を持った神を転移か、転生させて欲しい』とね」


「理由なんざどうでもいい! 俺がその世界へ行く!」


「はいはい、ではこの書類にサインをしてください。 そこには様々な条件がk……」



 ふよふよと近付いてくる書類と筆を掴むと俺は一秒足らずでサインを終わらせる。 勿論、書類の内容には目を通していない。 理由は簡単、一秒でも早く、その世界へ行きたかったから。



「終わりィッ!」


 

 どうして筆を掴めたか? 身体を持たない神は霊体みたいなもんで、命の無いものには触れられるんだ。 だから、鳴子を両手に踊れるし、いろんな場所を旅して、腹も減らないし、疲れない。 逆を言えば生物とは交流できないがな。


 そして、彼女(あれ)はそんな俺を見ると大きな溜め息をついて、指を鳴らす。

 すると俺の前には何千回も通った現世へ降り立つための扉が現れた。 いつもと違ったのは、扉が勝手に開き、その先には広大な草原とそれを照らす太陽、爽やかな風と空が広がっていた。



「……それが貴方の活動する世界です。 一歩でも扉から踏み出せば、肉体を得られるようにしています。 そして、契約は成立しましたがこの書類の控えは渡させてもらいます」



 彼女(あれ)がそう言うと、荒く茶色の糸で結ばれた紙が投げ渡された。 正直、こういう書類の控えなんて今までも何度か受け取ったが、全て最終的には必要なかったので、「そっちで捨てといて」と投げ返そうとした。 どうせ保管しても、ぐちゃぐちゃになるからな。

 ほら、現世で見たがいるだろ? 小学校とかで、適当に紙を机の中に突っ込んでクシャクシャになってる奴。 俺もその類いだ。



「捨ててもいいんですか? その紙はその世界で活動をする上での条件やその世界の説明が記載されており、その世界で必要最低限の知識を身に付けるための呪……加護も同封されていますが?」


「やっぱ、いりますっ!」


「そうですか。 それでは行きなさい。 気が向いたり、偵察くらいはしてあげます」


「いらんいらん。 そん時にゃあ、お前に名前を付けてやるからな! それじゃあ、また今度っ!」



 彼女(あれ)にそう言って開いていた扉を潜る。 その瞬間、今まで無かった重さを全身で感じ、振り替えると少しずつ微睡むように彼女(あれ)の開いた扉と白い部屋が見えなくなる。

 そして、彼女(あれ)は今までに無いほど穏やかに微笑んでいた。



「えぇ、その時には『彼女(あれ)』ではなく、名付けて呼んでもらいましょう。 天月(あまつき)



 そして、そこにあった扉は完全に見えなくなった。



「名が欲しければそう言えば良いものを……」



 そう呟いた俺の声は高く、男性ではないことはすぐに理解できた。 更に贅沢を言えるのなら男性でありたかっ……いつもの喋り方じゃない? 俺は『名前が欲しいならそう言えばいいのに』って言葉にしたつもりなのにっ!?

 軽くパニックになる俺は周囲を散策したり、身体を確かめる前に様々な言葉を試した。 結果がこちらだ。


言語変換(?)

 俺=わし

 お前=おぬし

 てめぇ=貴様

 名前=名

 危ない=危うい

 意味、わかんね=理解できぬ

 ~ぜ!=~ぜな!  (!?)

 ……エトセトラ、エトセトラ


 ざけんじゃねぇッ!? 契約書類に、んな縛りでも書いてんのかよっ!

 早速、彼女(あれ)が投げ渡してきた書類を開いて目を通したが、バリ……ッバリに書いてあった。

 この原因は、この世界の言語や読み書きを可能とするために与えられたこの世界の神の加護。 そのおまけ(副作用)としてある条件を満たしてない時に限り、婆さんみたいな喋り方になるらしい。 はぁ……



「どの世界でだろうと神なんて存在(もの)は身勝手じゃなぁ……わしも含めて」

ステータス

 名前:天月(あまつき)

 性別:女

 スキル:不明

 耐性:不明



一言コメント

 今度からは書類は目を通してサインをしようと思いました。 ちなみに天月は俺の名前であって、天月という種類の神様は存在しないので気を付けて下さい。

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